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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と昼下りの喧騒

 私はフェルナン君を探し、足を進める。しかし淑女たる者、走ってはならぬのだ。仕方がないので、程よく小走りに彼の走った方向へ向かってみた。

 男子の足は速いからか、もう姿は見えない。どこにいるのだろう。もしかしたら、と思いついた場所に向かってみた。すると思ったとおり、彼は中庭にいた。


 しかしそこにいたのはフェルナン君だけではない。あの軽薄コンビまでいたのだ。コンビ二人でフェルナン君に詰め寄っている。どう見ても二対一で弱い者イジメをしているようにしか見えない。

 私は苛つきながらも、物陰から様子を伺うことにした。

 彼らの会話の途中から聞いたので最初何を言ったかはわからなかったが不穏な空気だ。


「……しやがって、おまえ生意気なんだよ」

「僕が誰と話そうがあなた達には関係ないでしょう」

「君って、ただの平民だよね。ちょっと身の程をわきまえた方がいいんじゃない?」

「またそれか、はいはい、どうせ僕はただの町民だよ。お貴族様とは違うからさ。なら、ほっておいてくれ」


 私は歯をギリギリと噛み締めた。

 ルーナといい、軽薄コンビといい、この国の貴族はなんなのか!また平民を差別しおって!!!

 平民革命すっぞ!ギロチンドロッポすっぞ!

 そんな闇の感情に囚われて、私は気がついたら彼らの前に飛び出していた。


「ちょっと、あなたたち!何してるの!」

 私の声に軽薄コンビが振り返る。


「お、婚約破棄女だ」


 は?????

 今、なんて言った?????


「ちょっとローランド、それはさすがにまずいって」

 隣の男子はさすがに分別がつくようだ。慌てたようにローランドという男に注意する。


 ふーん、名前は軽薄ローランドね。よし、覚えた。忘れない、一生忘れない、そして絶対許さない。

 大体なんだ、その不名誉なあだ名は。

 というかなんで、こいつらは私が婚約破棄されたことを知っているのだ?


「どうして私が婚約していたことをご存知な……ではなくて!あなた達、フェルナンさんに何をしてるのよ」

 危ない危ない、本音がだだ漏れになった。

「は、王太子様から平民の男に乗り換えるなんて、さすがにおまえ、見る目なさ過ぎだろ」


 は?ローランド、おまえ、何を言ってる?


「さっきアレス様から聞いたんだよ。元々は君が婚約者だったけど、ルーナちゃんに一目惚れしちゃった話を」


 へーーー、王太子がね。ふーーーん、人のデリケートでプライベートな情報をぺちゃくちゃとお喋りしちゃったのか。ふーん。


「私とフェルナンさんは趣味の話をしていたのよ。彼は私の大切なお友達よ」

 私がそう言うと俯いていたフェルナン君がびっくりしたように目を大きくした。

「は、貴族と平民が、そもそも男と女が友だちになれるかよ」

 ローランドが顔を歪ませて悪態をつく。


 男女の友情とか、貴族と平民とか、そんなことは私には関係ない!私は未来に向けて生きるための力が必要なのだ。利用できる存在を利用して……。

 あれ?この中で一番ゲスなのはもしかして私では?いやいやいや。友達、友達だよ、フェルナン君は友達。うんうん。


「リュシアさん……」

 あ、ちょっとフェルナン君。そんなキラキラした瞳で見ないで。

「ふーん、貴族の君には彼、不釣り合いだと思うけど」

 フェルナン君の純粋さに浄化されかけたが、軽薄君の発言に魂を呼び戻された。


 それにしてもこの軽薄コンビにはお仕置きが必要だと思う。

 ふむ、言葉でわからないならば、体でわからせてやろう。あ、なんか私の封じられし両手が疼いてきた。多分闇の力だ、これ。


 私は二人を睨みつけ、胸の前に両手を移動させる。そして自分史上最高のクールボイスを発する。


「どんな身分であろうとも!」


 セリフと共に、手のひらと手のひらをパンッと柏手を打つように合わせて、指先をピンと伸ばした。


「分け隔てなく!」


 そして全身の力を指先にこめ、奴らに向ける。

 狙うは奴らの『背後』だ。

 軽薄コンビは何が始まったのかとうろたえている。ふふふ、今更後悔しても遅いのだ。悪役令嬢の前に無様に平伏するがよい!ふほほほ!


「人類皆びょ」


かっちょよく、「人類皆平等!」と、叫んでから一気に後ろに回り込み、奴らにカンチョーするつもりだったのに。


「君達、何をやってるのだ」

 一人の男子が仲裁に飛び込んできた。


 そして私は冷静になった。

 うん、仲裁に来てくれてありがとう。クールダウン大事。

 この世界で淑女がカンチョーなんてしたら、末代迄の恥!即効退学&修道院送りになってしまう。それに私、思春期にかかった重大疾患が再発した気がする。封印しなきゃ!今すぐ!


「は、元平民まで加勢に来たのか?仲良く平民同士つるんでろ」

 ローランドは面白くなさそうに吐き捨てるとそのまま行ってしまった。後から金魚のフンのようにくっついて、もう一人も去って行った。


「何様だよ、あいつら。貴族の風上にも置けないな」


 仲裁に入ってくれた男子は怒りながらもフェルナン君を気遣っている。


「リュシアさん、ありがとう。ヴェネレもありがとう」

 フェルナン君は困ったようにため息をつくと、私に笑みを向けてくれた。

「いいえ、私の方が謝らなくてはならないのです。妹が、ルーナが本当にごめんなさい」


「いいんです。どんなに取り繕っても身分差は仕方がないから」

 少し悲しそうな顔をしたフェルナン君に、ヴェネレと呼ばれた男子が反論する。

「フェルナン!俺とおまえは友逹だろ」

「うん、ヴェネレは特別だよ」


 なんか良い奴だ、ヴェネレ君。

 ん?ヴェネレ、ヴェネレ、どこかで見たことのある名前だな。そのヴェネレ君が私の方を見てニコッと笑った。


「リュシア!おっと、いけない。リュシアさん、お久しぶりです」

 私はその顔をまじまじと見た。おお、この爽やかな笑顔は見覚えがあるぞ。一年前の王宮で話しかけてくれ……、やばい、この人はこのゲームの世界のヒロインの攻略対象者だ。


「まあ、ヴェネレさん、舞踏会でお会いしましたよね?お久しぶりです」

 挨拶をしつつも、今すぐ逃げ出したい気持ちに襲われる。

「あの時のリュシアさん、とても綺麗だったな」

 それはルーナのことではなかろうか。あなた様もなんだかすらりとしてイケメン度が増してますわよ。それはともかく、これ以上親しくなってはいけない。


 冷や汗をかいている私を知るはずもなく、彼は会話を続ける。

「俺も新入生ですよ、クラスメイト。これから宜しくお願いします」

 宜しくされてしまった。これは将来的におとなしく断罪されてくださいね、ということだろうか。


「ヨロシク、オネガイシマス」


 フェルナン君は互いに挨拶する私達をニコニコと眺めている。

 そんな私達の耳に飛び込んで来たのは授業開始10分前を告げる鐘の音だった。

カンチョーを実際にやるのはとても危険な行為です。相手に傷害を負わせる危険があります。

絶対に真似をしないでくださいね。

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