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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と優雅な学食

 お腹が空いた。早くもお昼の時間である。

 あの後教師からとてつもない早口でその他の説明があった。


 一年目は基本的には教室で講義があること。

 授業は担任が受け持つが、たまに専門の教師の授業があること。

 お昼は鐘がなったら食堂でとれること。

 家から何か用意した人も食堂を使っていいし、庭園で食べてもいいこと。


 寮で生活する人の注意点もあった。

 就寝時間を過ぎたら建物から出ないこと。

 男子寮、女子寮には異性を入れないこと。

 朝食、夕食、夜食は食堂で食べられること。


 これらを一気にまくし立てられた。勿論一度聞いただけで覚えられるわけがない。

 一気に話し終えた教師は、ゼエハアと息を吐きながら左手のハンカチで汗を拭いつつ、右の手のひらをパタパタと振った。するとどこからともなく白い紙の束が宙に浮かび現れた。そして紙たちはまるで生き物のように一枚、また一枚とパタパタと羽ばたいて生徒それぞれの机に飛んできたのだ。紙の真ん中の折り目を起点に羽のように動いている。それらは机にとまると動かなくなり、ただのプリントになった。

 ふおー、ふおー、ふおー!!!

 おっと、語彙力が消える魔法をかけられてしまったようだ。あんぐりと口を開きかけて、慌てて閉じる。一応令嬢ですからね、悪役ですけど。


 そんなわけで、聞いたそばから右から左に抜けていった教師の言葉がプリントに全て載っているのである。その他お役立ち情報も書いてある。これは便利だわ。


 汗をふきふき出ていった教師を見送り、クラスメイト達も食事を取るために教室を出始めた。久しぶりの学食ひゃっほーい!と思わずニヤけてしまい、ルーナにくすりと笑われた。

「お姉様、お昼に行きましょ」

 ルーナに手を取られ、食堂へ向かう。階段を降り、一階が食堂だ。以前にルーナと来たことがあるあの場所だ。あの時は人がいなかったのでだだっ広く感じたが、今日は違う。人、人、人、生徒達で溢れている。


「ここ、座りましょ」

 なんとか空いている席をみつけ、使用中と書かれた木札をテーブルの上に置き、料理の注文窓口へ向かった。

「お腹空いたわね。ルーナは何が食べたい?」

「お肉料理が食べたいわ」

 草食動物のような雰囲気とは裏腹に、意外にそのままの意味で肉食系女子のルーナである。私は魚が食べたいと思いながらも、海がないこの国では難しいかなと考えた。海鮮丼とか食べたい。いや、それは絶対なさそうだな。


 私達の席の近くにアレス様がいるのが見えた。ルーナは背中を向けているので気づいていないが、こちらを恨めしそうな顔で見ている。一緒に食べたかったのね。だが断る!


 注文を終え席に戻り、暫く待つ。するとテーブルにモワモワとした蒸気が出てくると、その中から料理ののったお盆が現れた。ファンタスティック!なんでも大混雑のお昼の時間はこういった魔法システムが使われるらしい。仕組みはよくわからないが大変便利である。

 ルーナのメインはお肉を焼いたものを、私は魚料理を選んだ。川魚のムニエルである。んー、お魚が食べられる幸せ♪


「なあなあ、おまえら本当にそっくりだな」

 私が魚に舌鼓を打っていると、不躾に話しかけてくる声がした。

 ん??おまえら、って聞こえたぞ?それはともかく我々、食事中なのだが?

 声の方をちらりと見れば、話しかけてきたのは、入学式で私達と同じ列に座っていた軽薄コンビだった。

「双子ですから」

 短く答えて食事に集中する。全く!ルーナと優雅なランチタイムなのにこのお邪魔虫共め。

「ねえ、どっちが王太子様の婚約者なの?そっくり過ぎてわからないな。ね、友好を深めるためにもさ、一緒に食べようよ」

 もう一人もグイグイ押してくる。うちのルーナが可愛いからといって、さすがに王太子様の婚約者をナンパか?


 お、後ろにいる王太子様の顔が真顔になってるぞ。さすがに学院内では帯刀はしてないようだが、席を立ち上がり、一発お見舞いしてやろうと言わんばかりの雰囲気だ。イリスさんが止めるべきか行かせるべきか、手を出したり引っ込めたりしている。

 さて、こんな時どうすればいいのか。悪役令嬢らしく、ウィットに富んだ、スマートな切り返しを考えねば。……ふむ。


「ルーナ、このお魚とっても美味しいわ」

 ええ、ウィットもスマートも無縁な私である。

 結局どう答えたらいいのかわからないので、無視をしてみた。私には何も聞こえない、何も見えてない、ここにはルーナしかいない。ルーナしかいない。ルーナしかいない。

 あ、ルーナがまた珍獣を見る目でこちらを見ている。

「お姉様、お肉料理も美味しいですわ。焼き加減を好みに合わせてくださるのが気に入りましたわ」

 そう言いながら、妹ちゃんが切ったお肉、一口大をフォークで刺して、

「はい、お姉様、あーん」

 差し出した。

 そして私は条件反射でそれをあむ、と口に入れてしまった。口に広がるのはお肉というより、血の味である。

 今度はルーナ自身が血の滴るレアステーキを上品に口に入れた。鉄分大事だよね、私はレア苦手だけど。好き嫌いがないルーナはえらいなー。

 ではなくてだな。貴族として、あーん!はだめでしょうよ、あーんは。


 その光景をガッツリ見てしまった軽薄コンビは気まずそうに去っていった。変な姉妹だと思われたのかもしれない。

 あ、王太子様がまたものっすごく恨めしそうな顔をしている。あーん、されたいのか?それは頼むから二人きりの時にやってくれ。

「お姉様、美味しいわね?」

「ええ。食堂、いいわね」


 ルーナと一緒ならば何でも美味しい。なんならおかず無しで白米3杯いけるわ!残念ながらここにあるのは白米ではなく、パンだけど。

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