悪役令嬢と学院へ行こう!
胸元のリボンをキュッと結んだ。
真新しい制服に身を包んだ私はルーナの元へ小走りで向かう。いつものように、そつなく支度を終えていた彼女の最後の仕上げは。
「お姉様、リボンを結んでくださる?」
胸元のリボンだけ最後の仕上げを待っている、そんな制服姿でルーナが微笑んだ。
ああ、同じ制服を着ているとは思えないほど可愛いーーー!!!ここが前世ならばカメラやビデオでこの可愛い姿を何千枚と納められるのに。前世で有名なあの異次元ポケットが欲しい!
「ルーナ、とってもとっても可愛いわ」
デレデレになった私に苦笑しながら、ルーナがリボンを手渡した。
今日から私とルーナは魔法学院へ通うのだ。
制服姿のルーナに両親も兄もメロメロである。私が仕上げにルーナのリボンを結ぶと、彼女はにっこり微笑んだ。よし!完璧である。
おや、陰険眼鏡がリボンで飾られたルーナを見て顔を真っ赤にしてるぞ。制服姿の肖像画を描かせたいとか言ってる。うわー、シスコン引くわー。そう思ってから自分も同じ側だと気がついた。
「ルーナ、遅刻するわよ」
こら、陰険眼鏡!初日から遅刻したらどうしてくれる!そろそろルーナを解放してもらおうか。
「もう少し可愛い妹の姿を堪能していいじゃないか」
それは姉の役得ですから。
「週末には帰ってきますから、ね」
そう告げると渋々見送ってくれた。
私とルーナは平日は寮で過ごし、週末だけ屋敷に帰ることになった。私は通いで充分だと思ったが、ルーナが長期休みだけ帰り、それ以外はずっと寮がいいと言い張ったのだ。確かに寮生活は楽しそうだが、こんな近場なのだから通いで充分だと思う。
何よりもルーナが寮がいいと告げた時の両親と兄のあの顔といったら!この世の終わりのような悲痛な顔をしていたのだ。
そんなわけで私が折衷案を挙げ、平日は寮、週末は帰宅と決まったのだ。
ちなみに兄は隣国の学院を無事卒業し、屋敷に戻ってきた。今は父と共に王宮で働いている。
今生の別れと言わんばかりの家族とルーナを引き離し、私達は馬車に乗り込んだ。
「お姉様、今日から楽しみですわね」
楽しみ半分、不安半分である。前世の記憶を持つ私としては、まさか自分がもう一度学校に通うとは思っていなかった。新しい好きな事を学べるのは嬉しい。
その反面、学院に行けば否応なくこの世界、すなわち前世のゲームの世界のヒロインとその攻略対象に会うことになるだろう。それだけ断罪リスクが高くなるのである。
とはいえ、ヒロインちゃんがやって来るのは2年目からだ。それまではせっかくの学院生活を楽しみたい。
そういえばヒロインちゃんが来ても、まさか王太子様、浮気とかしないよね?私の可愛い妹を泣かせたりしないよね?幸い今のところはアレス様は妹ちゃんにメロメロである。でも、もし万が一にも王太子が妹ちゃんではなく、ヒロインに目を向けたら。
よし!ヤるか。薬草園の肥料にしてやんよ!
いや、いかん、落ち着け自分。それは断罪エンドまっしぐらコースだ。
「お姉様ったらまた変なお顔してる」
ルーナはそう言いながら、細い両手のひらで私の頬を挟むとそっとおでこにキスをしてくれた。いつもより少し長めのキスに少し緊張が解れていく。
程なくして馬車が止まった。
「お姉様、学院生活の始まりですわよ?」
馬車の扉が開き、ルーナが私の手を取り、降り立った。
5年前にここに来た時は途方もなく広大に感じたが、その時より少し小さく見える。それでも学院は広く、迫力がある。
奥にある立派な建物、学習棟の方を目指して生徒達が歩いている。
私とルーナは深呼吸を一つした。それから彼らと同じように歩き始めた。
王立魔法学院での生活が始まるのだ。




