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ここはトーキョー・ワンダーワールド

通勤電車はウィズ・コロナ

作者: 十川 夏炉

 おかしなことに通勤電車はいつも通り混んでいた。いや、今、コロナ流行ってんですよね? 電車に乗るだけでうつるかもしんないんですよね? 頭大丈夫ですか? と乗っている全員に聞きたいけど、俺も電車に乗ってるからやっぱり何も聞けない。


 以前と違うのは、乗ってる人間、皆が皆マスクをしていることだけだ。花粉症シーズンでもこんなにマスク率は高くなかった。


 スマホからふと顔を上げて周りを見ると、見渡す限りびっしりマスク人間だらけで、なんかやばくね? と一瞬正気に返ってしまった。


 珍しいことに目の前に座っていた乗客が降りたので、俺は座ることができた。なんか今日いいことありそうじゃん?


 早速ラインで浮かれたスタンプを投げる。羨ましいだろ? いいだろ? いいだろ? とどこか遠くの通勤電車にいる友人に自慢する。ふざけんな、うざっと速攻スタンプが返ってくる。


 なんとなく隣の席を見ると、中年太りのおばさんがやっぱりラインをしていた。おばさんが、何言ってんの。死んで? とメッセージを送った瞬間、ぷークスクスと煽りに煽りまくったスタンプが返ってきていた。ひたすら罵詈雑言を投げるおばさんと、ひたすら煽りまくるスタンプの応酬が秒単位で延々と続いている。


 何これ、やばい。面白すぎる。


 じっと隣を見ているわけにもいかないので、時々さりげを装ってチラ見するしかできないんだけど、続きが見たすぎてやばすぎる。


 隣のおばさんやばいと俺もラインで友人に実況する。何気に必死に実況していると、いきなり電車が急停車した。立っていた乗客が雪崩を起こしてお互いにうめき声っぽい文句を言い合って殺伐とする。


 なんか最近電車の治安悪いよな、と思う間もなく、開いたドアから

「鉄道警察です!」

 と叫ぶ声がした。

 は? 何事?


 一気にざわつく車内に構わず、二人組の制服の警察が乗客を力任せに押し分けて俺の前までやってきた。


「通報がありました。あなた、盗撮しましたね」

「えっ? 俺? 人違いじゃないの?」

 おもわず席から立ち上がった。


 若いのに腹の出た背の低い警官が自分のスマホを見ながら読み上げる。

「若い茶髪のスーツの男」

 ちょっとくたびれた背の高いほうの警官が俺を見る。

「ほら、あなたでしょ」

「いやいやいやいや、若い茶髪のスーツなんて、この車内にいくらでもいるでしょ?」


 必死に俺が言いつのると、腹の出たのが更に言う。

「白いマスクをしている」

「ほら」

 それみたことかと細い警官が俺を指で差す。


「いやいやいや、みんな白いマスクでしょ?」

「黒いのもいるじゃないか」

「いや、そういう話じゃなくて!」

 

 警官は俺の腕をつかんだ。

「ま、とにかく降りて。外で言い訳を聞きましょう」

「俺は降りませんよ。盗撮なんてしてないし、ずっとラインしてたし、証拠なんてないでしょ?」

 怒鳴るように言い返す。多分ここで降りたら負けだ。


「何時何分の通報ですか? 俺のラインの時間と比べましょうよ。証拠がない限り俺は降りませんよ」

「いいから、付いてきなさいよ」

「嫌ですよ。連行する根拠はありますか」


 車内の乗客たちの視線がさっさと降りろと俺を刺す。いや、通勤遅れるのが大迷惑なのはわかるけどさ、わかるんだけどさ、これで俺が盗撮野郎にされちゃったら俺の人生終わるんじゃないの?


 やはり任意でないと連れていけないのだろう、警官たちがいらいらと俺を見る。


「ここで電車が止まってると、皆さん迷惑だから」

「やってないのに盗撮疑われる俺だっていい迷惑だって!」


 大声で怒鳴ると、マスクの中に息がたまって眼鏡が曇ってしまった。眼鏡を拭くために顔から外すと、マスクの紐がからまって、一緒に外れる。


「あっ! マスク外しましたね!」

 警官が嬉しそうに声を上げる。


「えっ?」

「電車の中でマスク外すと東京都新型コロナウイルス感染症等対策条例第十八条第一項に違反する公共の場において不特定多数の人を危険にさらす行為です」

 太った警官がスマホを見たまま読み上げる。


「はーい、連行しまーす」

 背の高い警官が俺の腕を引きずって歩き出す。乗客たちはさも汚らわしいものを見るように顔をしかめ俺たちに道を空けた。


「えっ? 待って?」

「はーい、マスクしないまましゃべらない、しゃべらなーい」


 引きずられていく俺は、何、その条例、俺知らないよ? と周りに訴えたが、もちろん誰も助けてくれる人はいなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] わーいコメディーだぁ、と思って読んだらホラーでした(笑) 都会怖い((( ;゜Д゜)))
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