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23 改心する者、しない者

 オールドッグは手下に指示して鉄格子をあげさせ、捕らえていた仲間たちを解放してくれた。

 彼らは心を入れ替えているので、もはや戦闘になることもない。


 オールドッグは、積み上げられた戦利品の中から、いかにもお金がたっぷり詰まっていそうな麻袋をかかえあげる。

 そして向かった先は、



 スピッツの元……!



 オールドッグは娘を諭す父親のような口調で、スピッツに向かって言った。



「アクヤ・クレイ嬢様は、俺たちを拒絶しなかった。普通の神族だったら、こんな奴らは知らないと言い張るのに……。しかもアクヤ・クレイ嬢様は罠に掛けられたってのに、俺たちを受け入れてくれたんだ」



 気まずそうにそっぽを向いたままのスピッツに、袋を差し出すオールドッグ。



「いままでは食うに困ってたから、『バッドリゾート』は金で神族どもに尻尾を振っていたが……。それも今日で終わりだ。今日からは、アクヤ・クレイ嬢様のための、『バッドリゾート』になる。だから、この金は返すぜ」



 しかしスピッツは袋を受け取るどころか、オールドッグと目を合わせようともしない。


 それはそうだろう。

 受け取ったら、『バッドリゾート』に金を払ってわたしを陥れようとしたことを認めるようなものだからだ。



「きゃんっ!? な……なんのことぉ? アンタみたいな気持ち悪いオヤジ、スピッツ知らないよ!」



 スピッツは知らぬ存ぜぬを貫き通すばかりか、懲りもせずに下手なウソで誤魔化そうとした。



「きゃんっ! わかったぁ! そうやってスピッツに罪を着せるように、アクヤさんから頼まれたんだよね!? このお金の何倍ものお金を、アクヤさんからもらってるんでしょ!? フルスゥイング様、ハーフストローク様、ご覧になりました!? アクヤさんってばひどいですよね! スピッツに罪をなすりつけるだなんて……」



 わたしは肩をすくめながら、オールドッグとスピッツの間に割って入る。



「オールドッグさん、スピッツさんは身に覚えがないとおっしゃっているではありませんか」



「えっ? しかしアクヤ・クレイ嬢様、俺たちはたしかに、このスピッツに頼まれて……」



「スピッツさんが違うというのであれば、きっとそうなのでしょう。でも、そうなるとおかしいですわね? このお金はどこからやって来たものなのでしょう?」



 わたしはオールドッグから袋を受け取ったあと、首を捻る。

 そしてためらいもなく、



「出所不明のお金ならば、捨ててしまってもかまわないですわね」



 部屋の中央にある穴に、投げ捨てるっ……!



「きゃっ!? きゃいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?」



 それに真っ先に反応したのは他でもない人物だった。


 スピッツは地を蹴る勢いで走り出すと、放物線を描く袋を追いかけはじめる。

 それでも間に合わないとわかるや、ラグビーのタックルもかくやという飛び込みを決行。


 なんとか空中でのキャッチに成功したものの、袋の重さを支えきれず、そのまま穴の奥めがけてトライを決めてしまった。

 スピッツは今にも飛び込んでいきそうな勢いで、穴に向かって前のめりになる。



「ぎゃいいんっ!? 家のものをぜんぶ売り払ったお金がっ! それでも足りなくて借金までして作ったお金がっ!? 行かないでっ!? 行かないでぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」



 彼女は穴の暗闇に向かってしばらく手を伸ばしていたが、やがて身体を起こしてぺたんと尻もちをつく。

 大切なお金をボツシュートされたショックで抜け殻となり、ほんの一時だけ放心していたが、すぐに周囲から侮蔑の視線を浴びていることに気付いた。



「……きゃっ!? きゃいっ!? きゃいいんっ!? いっ、いまのは、お金がもったいなかったからだよ! べっ、別にあのお金がスピッツのものだったわけじゃないの! 本当だよ! 信じて!」



 もちろんこの弁明は、ふたりの令息に向かって向けられたものだ。

 しかしフルスゥイング様の表情は怒り心頭。



「スピッツ……! お前はこの討伐で、俺とアクヤさんをラブラブにするって言ってたよなぁ……!? でも本当は、アクヤさんを罠にかけて、堕天させようとしていただなんて……!」



 フルスゥイング様は服の袖をめくりあげると、たくましい二の腕をこれでもかと盛り上げさせて、スピッツに迫る。



「ぎゃっ!? ぎゃいいーーーーーんっ!? ごっ、誤解ですっ! フルスゥイング様ぁ! スピッツは本当に、フルスゥイング様とアクヤさんのことを思って……!」



「黙れっ! 俺はハーフストロークと違って、容赦しねぇぞっ!」



 その怒れる肩に、ぽんと手が添えられる。

 ツッコミを入れる相方のように、フルスゥイング様の隣に立っていたのは……。



「ダメだよフルスゥイング。こんな事で全力を出したりしちゃ」



 他ならぬ、ハーフストローク様……!



「まだそんなことを言ってんのかよ、ハーフストローク! コイツはアクヤさんを罠に嵌めようとしてたんだぞ!?」



「大切な人を傷つけられようとした怒りは、僕にもわかるよ。だからこそここは、拳を収めてほしいんだ」



 「しかし……!」と拳を振るわせるフルスゥイング様。


 

「キミのそのまっすぐな力は、スピッツを殴るためにあるんじゃない。キミは言ってただろう? アクヤさんに全力になるって。ならその力は、彼女のために取っておくんだ」



「きゃんきゃんっ! そうそう! フルスゥイング様はアクヤさんと仲良くしてあげてください! スピッツは、スピッツのことを信じてくれるハーフストローク様と仲良くしますから! カップルがふたつもできて、めでたしめでたしじゃないですかぁ!」



 スピッツは見当違いの解釈をして、またしてもハーフストローク様に擦り寄ろうとする。

 しかし彼女に向けられた一瞥は、まるで首ごと刈り取るかのように鋭かった。



「そうだね。キミのような女の子の相手をできるのは、たぶん僕だけだと思うよ。僕はこれまで、ずっと力半分だったけど……はじめて全力でやってみたくなったよ。……さぁて、村を困らせていた山賊たちも改心させたし、みんなでいっしょに帰ろうか」



 ハーフストローク様ほがらかだったけど、目はぜんぜん笑っていなかった。

 わたしも『ミリプリ』をやって長いけど、ハーフストローク様がこんなになるのを初めてみた気がする。


 これには、キャンキャンとやかましかったスピッツも、又借りされたうえにオークションにかけられた猫みたいに大人しくなっていた。

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