12 キャンキャンとの因縁
……それは、現実での出来事。
わたしはとある商社の総務部に勤めてるんだけど、ある日、マーケティング部が主催する新製品発表イベントの設営に、ヘルプとして駆り出された。
最初に、マーケティング部の人たちと自己紹介をしあったんだけど、その中で、後に忘れたくても忘れられなくなる人物が、ふたりほどいた。
まずひとり目は、例の女。
小さくて可愛らしい見た目と、ちょこまか動き回ってキャンキャンうるさいところから、マーケティング部の中で『スピッツ』という愛称で親しまれていた。
ちなみに本名は、バリバリの日本人である。
そしてもうひとりは、長い黒髪のロングヘアを、後ろで束ねた男性社員。
前髪が目に隠れるくらい長くて、青白い顔に、精気を感じさせない弱々しい声。
スピッツにエネルギーを吸い取られてしまったかのようなこの男性は、某ホラー映画の怨霊のようだったので、部署内では『サダオ』をいうアダ名でバカにされていた。
ちなみにではあるが、現実のわたしは後者……。
俗に言う『根暗』『陰キャ』タイプである。
とはいえ、陽キャのスピッツに憧れることも、陰キャのサダオに共感することもなかった。
自己紹介のあとは、淡々と設営作業をこなしてたんだけど……。
その流れの中で、マーケティング部にいる男性社員ふたりとちょっと言葉を交わすことがあった。
別にプライベートの話などではなくて、完全に仕事の話だったんだけど……。
なぜかそれが、スピッツの気に障ったらしい。
彼女は設営作業の途中、わたしと通りすがりにぼそっと、
「……あたしが唾つけた男にチョッカイ出すなんて、いい度胸してるじゃん」
なんてことをつぶやいていった。
わたしはその時、聞き間違いか独り言だろうと思って、気にしなかった。
そして彼女から、休憩用のお茶を淹れる手伝いをしてほしいと言われたので、給湯室に向かったら……。
そこにはサダオがいた。
彼もお茶くみを頼まれたんだろうと思って気にしなかったんだけど、なんだか様子がおかしい。
「ほっ、ほほっ、ほんとうに、ぼぼっ、僕なんかで、いいんですか……?」
わたしは彼がてっきり、「いっしょにお茶くみをしてもいいのか」という意味で尋ねてきたのだと思い、
「ええ」
と何の気ない返事をしたのだが……。
その瞬間、スピッツが給湯室の中に飛び込んできた。
「えっえっ!? なになに、どうしたのっ!? もしかして、百合さんがサダオくんに、大胆告白ぅぅぅぅーーーっ!?!?」
なぜかヤツは、ビデオカメラを持っていた。
これは後でわかったんだけど、社内報を撮りに来た社員から、無理やり奪ったものらしい。
わたしはなぜかサダオにこっそりラブレターを渡したことになっていて、その内容が給湯室に呼び出すものだった。
ここまで言えばもうおわかりであろう。
そう、わたしはスピッツにハメられたのだ。
ヤツが狙っていた男性社員ふたりに、かけてもいないチョッカイを、疑われたばっかりに……!
スピッツはわたしが止める間もなく給湯室を飛び出していって、この事実を喧伝した。
わたしは追いかけて、違うと主張したのだが、そのたびにスピッツはヒューヒューと囃し立てて茶化してくる。
陰キャのわたしの地味な主張では、陽キャの彼女が面白おかしく騒ぎ立てるのを止めることはできなかった。
しかも撮られたビデオは、社内ネットワークで配信される、社員報の中で取り上げられてしまい……。
わたしとサダオの仲は、全社員に知れ渡ってしまった。
そのため、半ば会社公認のカップル同然となってしまう。
わたしは正直、サダオと付き合う気は全くなかった。
外面が嫌いだなんて贅沢を言うつもりもない、内面が嫌いだなんて同族嫌悪するつもりもない。
ただ単純に、『男性が怖かった』のだ。
ゲームの中では、傾国の美女もかくやというほどに、いろんな男を渡り歩いてきたわたしだけど……。
現実では男の人と手を繋いだこともない。
学校は共学だったけど、フォークダンスでは人数あまりでいつも男役だった。
推しの声優の握手会に行ったことはあるけど、直前で恥ずかしくて逃げ帰ってしまった。
……そんなカンジで、生身の男性とは、とんと縁がなかった生涯を送ってきたわたし。
辛うじて話すくらいはできるけど、それはあくまで仕事上のこと。
プライベートで話をするなんて、夢のまた夢。
っていうか、男の人って異星人みたいじゃない?
なに考えてるのかわからないし、そもそもまとってるオーラが全然違うし……。
そんなわけで、わたしはサダオとの付き合いをやめようとしたんだけど……。
それがまた、苦労の連続だった。
サダオはストーカーみたいになって、わたしは引っ越しを余儀なくされてしまう。
会社ではすっかり、奥手な男性社員を弄んだひどい女として知れ渡ってしまっていた。
これもなにもかもすべて、あの女のせいだというのは明らかだったのに……。
現実のわたしは無力だったので、どうにもできなかった。
わたしに直接噛みつくのではなく、わたしのまわりでキャンキャンわめいて……。
悪評を広めていくあの雌犬に、人生の一部をめちゃくちゃにされてしまった。
でも……今は違う。
『ミリプリ』の中では、そうじゃない……!
わたしは、『ミリプリ』のトッププレイヤーにして……。
最低最悪の悪女、アクヤ・クレイ嬢なんだから……!
あの雌犬が同じ世界にいるとわかった以上、黙ってられない……!
それにきっとヤツは、こっちの世界でも、仕掛けてくるはず……!
今度こそ、絶対に……!
やられたら、やり返すっ……!
--------------------神族の階級(♀:令嬢 ♂:令息)
●御神級
●準神級
●熾天級
●智天級
●座天級
●主天級
●力天級
●能天級
●権天級
♂ハーフストローク
♂ダンディライオンJr.
♂ベイビーコーン
♂フルスウィング
●大天級
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♀アクヤ・クレイ
●小天級
○堕天
♀エリーチェ・ペコー




