11 討伐のお誘い、そしてキャンキャンヒロイン登場
「よぉ、ハーフストローク、ここ、いいか?」
「やぁ、フルスウィング、もちろんいいよ。って、どうでもいいけど、キミは今日もAランチなんだね」
「悪いかよ、俺はコレが好きなんだ。そういうお前は毎日違うランチをとっかえひっかえしてるよな。しかも無理言ってハーフセットにしてもらうだなんて……。そんなだから、パートナーの令嬢も決まらないんだ」
「人聞きが悪いね。ランチも令嬢も、いろんな子を味見してるだけだよ。これというのが見つかったら、あとは一途なんだよ」
「本当かよ」
「キミも、他のランチを食べてみたらどうだい? 僕みたいに半分ずつにしてさ。そうすれば、いろんな味が楽しめるよ」
「いや、俺は、ファースト……ファーストインポッシブル? を大事にしたいんだ」
「それを言うならファーストインプレッションだよ。それで、キミにとってのAランチの令嬢は見つかったのかい?」
「実はそのことで、相談があるんだ。あそこにひとりで座っている女性、知ってるだろう?」
「誰かと思ったら、アクヤ・クレイ嬢さんじゃないか。まさかキミ、あの悪名高き令嬢を……?」
「あの人のことを悪く言うんじゃない。俺も噂で聞いてそう思ってたけど、実際話してみたら、素晴らしい女性だった。気品があって、優雅な物腰……どんなときも冷静だけど、ここぞという時には勇猛に奮い立つ……」
「あの嫌われ者の代名詞みたいな令嬢をべた褒めなんて、いったいどうしたんだい? そういえば先日の『神事』で彼女が昇格したけど、まさか……」
「そうだ。俺が推薦したんだ。俺だけじゃなくて、他の令息も推薦していたようだがな」
「これは驚きだよ。まさかキミが、アクヤ・クレイ嬢さんに熱を上げるだなんて」
「俺は本気なんだ。彼女をパートナーにしたいと思っている。それで……」
「ああ、それで僕にアドバイスをしてほしいんだね?」
「まぁ……そんなとこだ」
「いいよ、手伝ってあげる。女の子よりもモンスターをやっつける事にお熱だったキミが選んだ令嬢が、どんな人なのかも気になるし。それに、キミが彼女に騙されていくのを、黙って見ているわけにはいかないしね」
「おい、アクヤさんはそんな人じゃないって言ってるだろう!」
「まぁ、落ち着いて。それにその情熱は僕じゃなくて、彼女にぶつけるべきなんじゃないのかい?」
「そうなんだけど、なぜか彼女の前じゃうまく話せないんだ。今朝も彼女と目があって会釈されたんだけど、もうそれだけで心臓がバクバクいって……」
「ああ、相当やられちゃってるみたいだね。でも知ってるかい? どんな高嶺に咲く花でも、見ているだけじゃ絶対に手に入らないんだよ? でもどうしても欲しい場合は、どうすればいいかわかるかい?」
「それは、崖に登るしか……」
「その通り、じゃあさっそく行ってみようか。彼女のテーブルに行って、ランチをするんだ」
「そ、そんなの無理だ! こうやって遠くから見ているだけで、どうにかなりそうだってのに……!」
「大丈夫、どんな崖も、ふたりで登れば怖くない。僕がアシストしてあげるから」
「ちょ、待てって、おいっ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
わたしは今日も『ゲッツェラント城』に登城。
午前の『執務』を終え、お城の食堂で、シーツが作ってくれたお弁当を食べていた。
まわりのテーブルにはランチ合コンみたいな令息や令嬢たちが、わいわい楽しそうにしている。
でもわたしにのまわりには誰もいない。
そりゃそうだ。
だって今のわたしは最低最悪の悪役令嬢なのだから。
なんて思っていたら、わたしの座っているテーブルの前に、ふたつの人影が立った。
顔をあげると、ひとりはフルスウィング様だったんだけど、もうひとりは……。
権天級の令息、ハーフストローク様っ……!
--------------------神族の階級(♀:令嬢 ♂:令息)
●御神級
●準神級
●熾天級
●智天級
●座天級
●主天級
●力天級
●能天級
●権天級
New:♂ハーフストローク
♂ダンディライオンJr.
♂ベイビーコーン
♂フルスウィング
●大天級
♀アクヤ・クレイ
●小天級
○堕天
♀エリーチェ・ペコー
--------------------
ハーフストローク様は、今わたしがいる世界である、『ミリプリ』に登場する恋人候補のひとり。
瞳にかかるほどのサイドパートショートヘアでオシャレだけど大人しめの印象、顔も穏やか系の美男子である。
『白魔術師』の証である、純白のローブをキッチリと着こなしている姿は、若き神父のようなんだけど……。
でも彼は相当なプレイボーイで知られている。
見た目だけで言うなら、彼と仲がいいとされているフルスウィング様のほうがよっぽどチャラそうなのに、実際は真逆なんだよね。
ハーフストローク様は、その内なる肉食獣っぽさを微塵も感じさせない、羊のような穏やかな笑顔で切り出した。
「やぁ、ここいいかい?」
わたしは気持ちをアクヤモードに切り替えて応じる。
「ええ、かまいませんわよ」
「ありがとう」とランチの載ったトレイをテーブルに置いて、腰掛けるハーフストローク様。
隣にいたフルスウィング様はギクシャクとした動きで座った。
そして着席したばかりだというのに、ハーフストローク様はグイグイ来る。
「ねぇ、アクヤさん、僕たちといっしょに『討伐』に行かないかい?」
いきなりのお誘いに、わたしは内心面食らう。
となりにいたフルスウィング様は、目玉が飛び出んばかりのギョッとした表情をハーフストローク様に向けていた。
わたしのほうは、たぶん顔には出ていなかったと思うんだけど……。
ハーフストローク様はすぐに言い添えた。
「あっ、女性はキミひとりじゃないから安心して。もうひとり令嬢に声をかけて、4人パーティで行こうと思うんだけど、どうかな?」
しかし、わたしが返事するより早く、
……シュバッ!
と音がしそうなほどの勢いで、ふたりの男子の間に、何者かが割り込んできた。
「きゃんきゃーんっ! それ、スピッツも賛成ですっ! アクヤさんといっしょに、冒険に行きたいと思ってたんだよね!」
それは、自らをスピッツと名乗る女の子。
片眼鏡ごしのネームタグには『スピッツ・キャンキャン』とある。
彼女はその名のとおり、犬のスピッツみたいに小柄で、その名のとおりキャンキャンと甲高い声をしていた。
そして……現実でわたしがよく知っている『スピッツ』に、とてもよく似ている気がする。
そんなことはさておき、彼女は勝手に会話の輪に割り込んできて、誘われてもいないのに『討伐』の仲間として加わろうとしてきた。
結局……。
ふたりの令息は、妹のように人なついこい彼女に押し切られ、仲間に入れたうえに、今回の幹事まで任せていた。
午後のはじまりを告げる鐘が鳴る頃には、わたしは返事もしてないのに行く流れになっていて、
「きゃんっ! それじゃあ、スピッツがいいカンジの『討伐』を選んで、みんなに連絡するね!」
それで今日のところは解散となったんだけど、彼女が去り際に、ぼそりとつぶやいた一言を、わたしは聞き逃さなかった。
「……あたしが唾つけた男にチョッカイ出すなんて、いい度胸してるじゃん」
その瞬間、わたしは確信する。
似ていると思ったのは、気のせいではないことを。
そして同時に、脊髄反射のように、心の中で叫んでいた。
……野郎っ、ブチ転がすっ……!
ちょっとネタが思いつきましたので再開しました。
数話ですけど、思いついたぶんを更新したいと思います。




