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009 : もう一人の魔法少女(裏話)


 私は星宮ほしみや 夏美なつみ。一応、魔法少女をしている。

 今日、とても綺麗な人に会った。誰かと思ったら、数日前から動画サイトで話題になっている少女だった。私は彼女が好きだった。


「はぁ……はぁ……これが、走馬灯ってやつなのかな?」


 ほんの十分前のこと、謎の人物に襲われたのが、全ての始まりだった。私は血まみれになり、逃げるのが精一杯で「かろうじて生きている」ような状態だった。


 ――十分前。


「起動しろ――呪いの聖剣ペンデュラム」


 帰り道、人通りが少ない場所で、黒いスーツを着た中年の男が一人立っていた。右手には黒く禍々しい剣を持っていて、それだけで既に普通ではないのだが、謎の呟きと共に右手にあったものと同じ剣が左手に現れる。


「まだ子供。故に、いさぎよく殺す」


 視界から男が消える。その瞬間、命の危険を感じて、反射のように魔法少女に変身していた。


「っ」


 私の首元に剣が迫っていた。魔法少女になったことで反応速度と動体視力が強化され、私は間一髪、剣を避けることができた。


「やはり、魔法少女」


 喋るとき、男は笑っていた。下品な笑みではなく、どこか猛獣を思わせる好戦的な笑顔。八重歯をむき出しにして、まるで首元に噛み付かれるような恐怖を感じた。

 首を狙う攻撃を避けたが、今度は二本目の剣がまっすぐ胸のあたりを刺突してくる。変身と同時に現れる『杖』をむりやり剣の軌道に合わせ、身体に回転をかけながら前方、敵の方へと踏み込む。


(避けれた!)


 ぎりぎりのところで、避けることができた。だが安心したほんの刹那の間、気付くと男は、既に体勢を立て直して再度右手の剣で刺突してくる。今度は脇の部分を、剣がなぞるように切り裂いてくる。


「痛っ」


 傷は浅く、まだ動けた。だが、夏美はこれが初めての戦闘だった。心は冷静に相手を見ているのに、情緒の部分では起きたことの異常性を理解できていなかった。


 一年前、夏美は『子猫』を拾った。その猫は夏美に話しかけてきて、最初は戸惑ったが「なんか物語みたい」と思ってから、夏美は誰にも言わずに『魔法少女』になった。


(自分じゃないみたい)


 そう思って、私はこっそり変身して、外に出掛けたりもした。平凡な日常が、少しだけ変わった。


「助けて! 誰か!」


 それなのに、やはり現実は甘くないようで、魔法少女になればアニメのように、強い敵が現れる。当たり前といえば、当たり前すぎるお約束。


 強く地面を蹴り、私は相手に背中を見せながら、必死に逃げる。その時、また二回は切られた。致命傷は辛うじて避けながら。


「見つけた」


 相手は律儀にも、声を掛けながら攻撃してくる。考え事をしていた夏美は、それで現実に引き戻された。人通りの多い道に出る為に懸命に走るが、上手く思考がまとまらず、さらに人気のない場所に迷い込んでいく。


 痛い、苦しい。そして血の流しすぎなのか、頭が真っ白になって考えられない。

 そんなときに思い出すのは、今日初めて出会ったとても綺麗な女の子のこと。こういう時、普通の女子なら家族とか好きな男子や友達を思い浮かべるものだと考えていたのに、好きな有名人とかが思い浮かぶなんて、現実はよく分からない。


「綺麗だったな」


 息が荒くなってきた。多分、私は死ぬのだろう。こんなになってまで冷静でいられる自分が、不思議でならなかった。これも、魔法少女の力なのかと考える。



「何が?」


 時間が止まった気がした。目の前に、綺麗な少女がいる。どことなく冷に似ているが、髪や瞳の色が違う。


「何が綺麗だったの?」


 手を伸ばせば触れられる距離で、しかし今は戦場であることを思い出す。同じタイミングで、彼女の背後には、私を痛めつけた男が見えてしまった。

 嫌だ、目の前の少女が死ぬのが、どうしても嫌だった。


「絶望しているの?」


 少女は気付いていない。私の顔にはきっと、少女の言う通り絶望が浮かんでいるのだろう。男が静かに踏み込み、そして瞬間移動のような速度で剣を振りかぶって近付いてくる。


「に、逃げ――」


 そう口に出すのが、精一杯だった。


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