045 : 独りの限界
私は片桐 理名と一緒に、少女漫画に出てくるような庭園にいる。
机と椅子かあり、お嬢様のお茶会といった雰囲気で、向かい合って座っている。
「理名、頼みがあるんだけど……」
「なんでしょう?」
私が魔法少女にした少女。
理名とは暇な時、一緒に過ごすようになった。お互いに、義務としてやる事がないのが理由だった。
私は、配信で稼ぐ以外は無職みたいな生活であり、時間に追われる仕事がない。理名は表向き、死んだことになったらしいので、学校もなければ出掛けたい場所もなく、私が声をかけないと自室にいるだけの生活をしている。
魔法で作った空間は、私の部屋とも定期的につなげ、理名の部屋や、配信部屋に繋がるエントランス(中継地点)を作ったことで、行き来が楽になった。
理名の部屋は、個人の許可なく出入り出来ないようにしてあるので、プライベートには配慮した作りになっている。
最近、庭先のような部屋(空間)を作り、そこに私と理名は、通うようになった。
「私の趣味は説明したでしょ? 配信することだって」
「はい」
「それで……えっと、面倒な手伝いだから、断って大丈夫なんだけど」
歯切れが悪くなる。私は、言いにくい頼みがあった。
それは自分の事情を把握した人が必要で、条件に合うのは、理名しか思い付かなかった。
「あの…………」
おそらく、理名は断らない。それが分かっているので、打算的で申し訳なく、悪い事だと思えてしまい、言い出せない。
ここまで言葉にしておいて、今さら臆病になるずるい自分が、嫌になってしまう。だから、上手く言葉がでてこない。
「落ち着いてください」
なんとなく、思い詰めた雰囲気を出してしまったのか、理名は気を使って声をかけてくる。そして、お互い空になったカップを手に取り「お茶を入れますね」といいなが、改めて紅茶を入れてくれる。
(本当に、いいのかな)
元々、誰かに頼るのが苦手で、だからこそ独りになることも多かった。それを自覚したのは、最近のことで、私は今まで手一杯になると、身動きが取れなくなり、自分ひとりではどうしようもなくなる事が多かった。それで辞めた仕事もある。
(思ったより、この子とは仲良くなった……)
庭先を「部屋」と表現するのはどうかと思うが、この部屋は、自慢できる仕上がりだった。
魔法を操作する練度が上がったことで、細部にこだわる余裕ができた。本物に見える植物まで作り、気分次第では薔薇も咲かせることができ、配置も自由に変えられる。
楽しくなった私と理名は、雑誌やネットで「お茶会」というテーマで調べ、それに似た優雅な空間を作り上げた。
今は、お互い大人っぽい衣装に着替え、座っている。ちなみに、二人で写真は取った。
「どうぞ」
「ありがと」
ひとくち、紅茶を口に含み、風味を楽しむ。市販のティーバックだが、理名が煎れると、なぜか美味しく感じる。
「美味しい」
閑話休題。
そんな現実逃避は、話し相手がいるのに長く続けられない。仕事を辞めてから、対人スキルが低下する一方な気がするが、考えたら良くないと思った。
自分がずるい性格であるなど、今さらだと思い直す。
「理名。私の配信活動を、本格的に手伝ってほしい。マネージャー……みたいな」
私は配信活動において、ひとりで全てを考え実行する事が、限界だと考え始めた。
メールで送られてくる仕事(配信関連)は受けていないが、自分の配信に限定しても、やることが多すぎた。
歌って踊るだけでも、振りつけや、衣装や、曲自体は利用可能な音源を探すけど、人間の時間は有限という現実に、途方に暮れていた。
(私だけだと、配信の質や頻度を上げられない)
ファンが増えれば増えるほど、もっと良い配信を作ろうと頑張ろうとした。慣れはあれど、個人で全てを完結させようとするのに、時間も能力も圧倒的に足りない。クオリティも上がらない。頻度なんて上げようもない。
イメージに合った曲を探すのも、配信音源として使用可能か確認するのも、ひとつひとつは数分から数十分でも、数が多くなるほど、とても時間が必要だった。
「いいですよ。この私に、任せてください!」
即答だった。
内心で、相談するのが怖かった。面倒な作業があるので、頼むことで嫌われるのが怖くて、この会話を始めるときは動悸が早く、苦しかった。
「……本当にいいの?」
断られるのは、怖くなかった。むしろ、迷いなく了承されるとは思わず、反動で涙がでてくる。
見た目は十代の魔法少女でも、精神的にはいい歳の男なので、自分の涙に気付き、恥ずかしくなる。
「冷様は、もっと誰かに頼りましょう。私なんか、与えられるばかりで苦しいんですよ? 命を助けられたのに、まだ何も返せてません(それとは関係なく、すべてを捧げておりますが)」
後半、意味深な視線を感じた気がするが、すごく嬉しかった。理名の微笑みが美しくて、少しだけ見とれてしまった。
最近、思いつめてしまう事が多くて、落ち込んでいたので、心が軽くなった気がした。
「……ありがとう」
それから配信の事や、これからの事を話し合った。理名は過去の配信を含め、すべてに目を通していたので、とてもスムーズだった。
「夏美さんにも、声をかけてはどうですか?」
理名には、夏美――星宮夏美を既に紹介していた。同じ魔法少女として、私が唯一知っている人物であり、この部屋が完成した時に招待もしていた。
その為、夏美と理名は、顔見知りだったりする。歳が近いこともあり、よく連絡を取り合っているらしい。
「今度、配信に出てもらう予定だから、相談してみようか」
「きっと、喜びます」
夏美には数日前、試しに配信に出て欲しいと頼み、承諾してもらっていた。リアルに影響が出ないよう、魔法少女の姿ではあるが、迷いながらも承諾してくれた。
夏美に相談するのは、理名のように本格的な手伝いではなく、高校生が興味ある話題だとか、そういった方面での手伝いを頼みたかった。
(報酬とかも、きちんと決めないと駄目だよね)
夏美に対してもそうだけど、理名の場合、業務として任せる規模になる。今の私には報酬の相場が分からないのと、今の作業量より多くなる可能性も考えたら、固定で決めるのか、あるいは配信で得た収益の割合で決めるのが良いのか、相談しなければならない。
「そろそろ、部屋に戻ろうか」
色々と話していたら、時間はすぐに過ぎ、夕方になっていた。
吹き抜けとなった庭先の空が、綺麗な青から、オレンジに変化して、薄暗くなっていた。
この場には時計もあるが、作った空間は外の時間に連動し、景色が変わるギミックを着けた。無駄に器用になった自覚がある。
「今日も、楽しかったです」
私はポットだけ持ち、茶器は魔法で作ったものなので、手を振るだけで消えてしまう。洗い物の手間が省けるので、とても便利だけど、魔法の空間内でしか使用できない。
「また明日」
「はい。また明日」
理名と別れ、自宅に戻る。
私は最近、見た目に引かれているのか、わずかに精神の在り方が変わった気がした。人前で涙を浮かべたのなんて、久しぶりすぎて前回は思い出せない。
違和感を感じつつ、私は留守番していたシルフのご飯を作り始める。
実はもう、一ヶ月は変身を解いていなかった。
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少し時間が進みました。
仲良くなる段階を飛ばしました。
あと、相変わらずマイペースでごめんなさい。
文字を産むのは、すごい大変で、毎日とか定期更新する人って、尊敬します。