044 : 他国の魔法少女(裏話)
米軍は『核』に匹敵する力を手に入れた。少なくとも、その力を研究する者は、そう考えた。
「装填完了。標的ロック」
ある米軍の男性兵士は、静かにライフルを構える。
砂漠のような場所で、視界の先には石材と金属で作られた建物がある。
彼が装備しているのは、指令室と視界を共有するゴーグルと、高度な暗号化を施す無線通信機、手元のライフルだけ。
金属の擦れる音が響く。兵士が狙撃銃に、一発だけ弾を装填した音。
「E11・コードを受信しました」
その弾丸は、通常のものではなく、ミサイルと同じ誘導装置のついた特殊なもの。
銃にはミサイル誘導の為に、多くの電子機器が使われており、スコープ越しにロックした標的の位置と輪郭が壁越しに映し出される。
物理的に視認できなくとも、GPSやセンサーと合わせ、狙撃手は目標の位置をリアルタイムに補足する。
そして、安全装置の解除コードが入力されたことで、狙撃手の視界に「Ready」の文字が小さく浮かび上がる。
目標は、二キロ離れた場所にある、壁の先にある人形だった。
石と金属が合わさり、数メートルはある壁、その先は更に、戦車で守るように、標的が配置されている。普通なら、絶対に弾丸の当たらない場所。
「Fire(発射)」
ライフルの引き金が引かれる。
その銃弾は、誘導装置により回転を調整しながら、軌道を自動的に補正して標的に迫っていく。これだけであれば、米軍は既に兵器として、実戦投入できる段階まで開発を終えていた。
しかし、それだけなら『核』に匹敵するなど、あり得ない。
利便性という意味で、新兵に武器を持たせれば、高度に訓練された狙撃兵となるメリットはあっても、誘導装置の発する赤外線を探知したり、小型のミサイルであるがゆえに、妨害への対策が不十分となるデメリットが存在するからだ。
――弾丸が、目標まで五百メートルになると、変化が起きた。
それまで、弾道は一定速度で標的へ向かったが、突如として加速を始める。そして、弾丸が光り輝く。
その後に生み出されたのは、漆黒の球体。
球体は、空気の抵抗を無視した動きをする。
弾丸の状態で保持していた運動エネルギーはそのままに、減速する事なく、重力に捕らわれることなく、ただまっすぐに突き進む。
それは、魔法少女の起こす奇跡の力。
米軍に、二人の魔法少女が志願し、その力が研究された結果に生み出された兵器。
一人は、魔力の球体を放出し、全てを消し去る力を持った魔法少女。
一人は、封印に特化した、結界ともいうべき区切られた領域を操る魔法少女。
漆黒の球体は、まるで熱した鉄球がバターに触れるように、何の抵抗もなく壁の中を突き進み、射線の通った後には空洞が出来上がる。
装甲の厚い戦車すら貫き、音もなく背後の標的、その頭に穴が空いている。それだけでなく、背後にある壁にも、直線の穴が続いている。
米軍の実験では、水中でも速度を落とすことなく直進を続ける。
それは、魔法少女の言う「魔力量」に比例するが、銃弾サイズでは漆黒の球体が発動してから、距離にして一キロ未満で自然消滅する。
しかし、それが意味するものは大きく、既存のシェルターや装甲で守られた戦車でさえ、人間が一人で携行できる武器で破壊可能という事実。条件さえ合えば、潜水艦や飛行機すら落とす事ができるだろう。
その反面で、その力は暴発の可能性が低く、威力をコントロールしやすかった。
暴発した所で、運動エネルギーを与えない場合には、その場で時間経過とともに魔法が消え去ってしまう。触れているものが消え去るといっても、運動エネルギーを与えなければその場に留まる。
ただし米軍が本当に着目したのは、全てを消し去る魔法より、もう一人の「結界」の魔法だった。
それは中に封じ込めた魔法を、魔法少女以外の者が特定の手順を踏むことで、発動する事ができる汎用性の高さを持つ。発動の手順は、電子機器でも再現可能であり、必ずしも人の手を必要としない点も優秀だった。
ミサイルの中身を、爆薬から魔法に交換すれば、既存の物理法則を覆す、超距離射程の貫通兵器が完成する。
その実験の様子を、当事者たる魔法少女の二人が見つめていた。
「私たちの『世界』は、私たちが守る」
「全ての敵を討ち滅ぼす」
まるでコスプレのような、軍服ドレスを着た二人の少女。
ひとりは綺麗でストレートな金髪をなびかせた、可愛らしい少女。
ひとりは赤みのあるウェーブの茶髪で、少し大人びた美しさを持つ少女。
周囲は砂が吹き荒れ、太陽に照らされた大地は灼熱とも言える暑さにも関わらず、汗ひとつ浮かべていない。
彼女たちは、まさしく『ヒーロー』として扱われた。
戦車の砲撃を素手で殴り飛ばし、過酷な環境を苦にすることなく、一騎当千となる救国の戦士。
アニメやドラマで描かれる『合衆国のヒーロー』をイメージした彼女たちは、魔法少女の力で彼女たちの『世界(国)』を守る、正義の戦士になることを望んでいた。
――彼女たちが、日本を訪れる事になるのは、もう少し先の事。
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久しぶりですが、裏話でごめんなさい。
挿絵に使っていたVアバターの規約が変更され、以後の挿絵に使う事が出来なくなりました。
それに伴い、色々と絵が使えなくなりました。
そして、更新が遅れた最大の原因は、Apexというゲームに熱中していた為です。
ダイヤ帯に行くまで頑張ってました。