002 : 鏡の前の自分
※諸事情により、挿絵は以降の更新・改変ができません。
世界には不思議が満ちている。
実際に『異世界』というものが存在し、そこからやって来る生物がいるらしい。
私が聞いた説明では、魔法少女とは別の世界の人類が作り上げた戦闘技術のひとつであり、理想の体を作り上げ、そこに高い魔法戦闘能力を付与するもの、らしい。必要な時に『変身』して『理想の体』となるが、多くの『魔法少女』は変身している間の姿に酔いしれることがあり、元の姿ではなく『魔法少女』の姿で過ごし始める者もいるのだと、ウサギは説明していた。
そして『魔法少女』の敵とは、これまた異世界の『勇者』と『魔王』なのだと言う。目的はお互いに『地球への移住』。
なら、両方移住すれば良いと私は思ったが、お互いに、滅ぼすべき事情があるらしい。
(ぶっちゃけ、意味が分からない)
「で、お前の目的はなんなの?」
目の前では、白いウサギが苺の乗ったショートケーキを食べて居る。
ウサギは異世界の『精霊』を自称し、名前は『シルフ』と名乗った。
「ん……。魔法少女は、もうほとんど滅びたよ」
ケーキに乗った苺が、最後にお皿に残っていた。それを器用に前足で掴みあげると、ぺロリと口に頬張って咀嚼していく。
「全てがどうでも良くなった。なのに、なんでなのかな? 僕は、それでも死にたくない。生きていたいんだ。契約中の『精霊』は、何があっても死ななくなる。だから僕の望みは、君が死なないこと……それだけなんだよ。軽蔑した? それとも、死の危険があることに、怒った?」
「いいや」
くるりと回り、科を作りながら微笑む。
私は笑顔が苦手だった。それでもこの姿に似合うように、柔らかい笑顔を練習したのだ。
声は理想の声。
男性と女性では、喋り方の特徴が違うこともあり、まだ男臭さが抜けないが、ボイスチェンジャーを使ったような違和感もないし、ある界隈では『両声類』と呼ばれる男性から女性、女性から男性の声を出す特技に有りがちな、性別を偽りきれない不自然さも無い。
「魔法少女。最高じゃん?」
(週末は、カラオケにでも行こうか? それとも、ネットアイドルのような事でもしてみようか?)
私は、自分の『声』がコンプレックスだった。男であることに不満はないし、女になりたいと願ったこともない。
なのに、こんな幸運が訪れた。
私の声は、少し低めの女性の声になった。アニメに出てくる『少年』みたいな響きが、新しく手に入れた『声』だったのだ。
(これが、戦い方?)
魔法少女は『兵器』である。まるで、外部記憶装置でも存在するかのように、私に合った戦闘技術が、脳裏に浮かび、自分が『可能である』と判断した動きを、トレースするかのように一分の狂いもなく実行する。
果物ナイフを持ってみる。ペン回しのように、くるくると回る。
でもコレを与えてくれた『精霊』と名乗る何かは、この力を必要としなかった。
――生きてさえいればいい。
義務もなければ、権利だけが与えられることに違和感を感じつつも、身の内に感じる力のほぼ全てが攻撃ではなく防衛に特化した力だと感じる。
ゲームと現実は違うけど、私はかなり攻撃的なゲームが好きだったりする。どのようなゲームでも、攻めて先に攻撃を成功させれば、かなりの有利が取れるから。
時間とともに、将棋で言えば相手は『囲い』を先に完成させる。逆に言えば、自らのプレイスキルの限界が、相手の防衛手段を超えられるまでが勝負だと思っている。
現実の戦闘では、きっと逆なのだろう。装備を整え、本陣の陣形を整えて初めて出撃する。攻撃だけでなく、相手はこちらの命を取りに来る。
それは現代戦でも一緒で、戦争前の準備と武器のカタログスペック、それを運用する能力の総合力で決着が着き、万に一つも逆転などあり得ない。
閑話休題。
――そんなことは、どうでもいい。
見た目は十代後半といったところか。鏡の前の私が、微笑みかけてくる。髪は、黒に近いグレーで、瞳は赤に近い茶色である。
「可愛いなぁ……」
ひとつ残念な事があるとすれば、それは鏡の前の人物が「どう見ても成人していない」ことである。
若さは武器ではあるが、幼さに魅力を感じる趣味は持ち合わせてない。単に個人の守備範囲の問題であるが。
「見苦しいよ? 僕が見た君の中の『理想像』は、そのままの姿だった。君は間違いなく、ロリコンだと思うよ」
「……」
……認めよう。確かに思い描いた理想の女性像は、寸分の狂いなくこの姿であると。
「そういえば……僕は君のこと、なんて呼べばいいのかな? 魔法少女はみんな、本名を使わない。気持ちの問題だけど、君の場合は特に、ね」
シルフは、ウサギみたいな見た目のくせに、食欲が旺盛で用意したお菓子を次々食べながら、尋ねてくる。
知り合って数日が経ったが、食費が二倍になり、財布が圧迫されている。正直、自重してほしかった。
「この姿の名前なら、決まっている。冷と呼んで欲しい」
「(もぐもぐ)」
チョコレートとクッキーのお菓子、それが今日だけで三袋も消費されている様子を目の当たりにした。この生物は糖分の取りすぎで、糖尿病になったりしないのだろうか。
※注釈
画像は『Vカツ』というアプリの静止画です。
※追記:
画像で使用した『Vカツ』アプリがサービス終了した為、以降の改変・更新ができません。
決められた範囲での使用が許可されている為、更新はできませんが、掲載は続けます。