表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/52

017 : 逆算した結果(裏話)


「終わる世界に興味は無いけれど、手段を選んでいる連中は、何を考えているのかしら」


 あるところに、メアリーという少女がいた。髪は桃色で、瞳は赤い。彼女は皆から『魔王』と呼ばれている。


「二度も負けた時点で、次なんて無いのよ。戦える訳がないじゃない」


 メアリーは考える。総力戦に敗北した者がいたとして、傷の癒えぬ内に、次の戦いに挑めるだろうか、と。少なくとも、そんな状態では同じ規模の脅威に対して、太刀打ちできるはずもない。さらに、休む時間すら得られていないなら、余計に厳しくなる。


「今の私たちに『逃げたウサギ』を見つける力は、無いわ」


 メアリーは、気持ち悪いくらい真っ赤な薔薇にかこまれた、趣味の悪い部屋に居た。目の前には、およそ動く様子のない、無表情にたたずむ少女がメアリーを見つめていた。


「そうは思わない? シャルロット」


 メアリーが指をひとつ鳴らすと、ワインとグラスが現れる。優雅さを感じさせる動きで、少女はそれらに手をつける。

 一方で、シャルロットと呼ばれた少女は、まるで感情が存在しない機械のように、目の前で何が起こっても反応しない。瞳には光がなく、まばたきすらしない。人形と言われたら信じてしまいそうになる見た目をしているが、かすかに浅く呼吸を繰り返していて、少女が生きている事を証明していた。


「最近、極東で例の精霊が確認されたらしいわ。そして同時に、久々に損害が出たとも」

「……」

「不思議なことに、私にその情報が伝わったのがつい昨日の話で、何でこんな面白そうな話が、私に知らされないのかしら?」


 少女は、自分でグラスに注いだ液体を飲み干し、興味を失ったのか、グラスをゴミのように放り投げる。透明なグラスが地面に落ちると、周囲に甲高い音が響き渡る。


「簡単な事よね、シャルロット」


 そう呟いた瞬間、少女の表情は獲物を見つけた肉食獣のように、攻撃的な笑みに変化する。顔は笑っているのに、自分こそが絶対正しいと信じて疑わない、他者を見下した色も含まれていた。


「なんで皆、理解できないのかしら。ウサギが見つからないのなら、巣穴から出てくる状況を作り出せば良いのよ。それだけの話よね」

「……」


 過去に少女は、敵対した『魔法少女』と呼ばれる者たちを分析し、ひとつの確信を得ていた。魔法少女という者たちは、世界にとって危機的な状況が発生すると、何かに呼ばれるように姿を表す。

 であれば、特定の地域に滅ぼしたい存在がいる事が分かっているなら、逆説的にその地域で暴れることで、相手を呼び出す事ができる可能性が高い。


「どうせ勇者や他の魔王どもは、私に任せたら全てを壊すとでも思っているのかしら? まあ、間違ってはいないけれど」


 何かの為に『殉じる』なんて殊勝な感情を、メアリーは持ち合わせていない。生まれながらに『魔王』であり、王ではあっても導くべき『同胞どうほう』も存在しない。

 しかし、強敵となる者と戦うこと自体に、無意味さを感じるほど、退屈な生涯を送ってはこなかった。だから今まで、メアリーはたくさんの『勇者』や『魔王』の言葉に、形式的には従ってきた。その方が『面白そう』だと感じたから。


「移住した後の統治? 居住権の確保の為に遺恨を残さない? まずは、勝たなければ意味がないのよ。正義は力が伴ってこそ、認められるのよ」


 メアリーの言葉は、誰に向けられたものでもない。力が無ければ、どんな崇高な言葉も意味をなくす。知性を宿す生命にとって、聞こえの良い『平和』よりも、明日に飢えるかもしれない状況こそ『敵』なのであり、そこに武力が伴わなかった歴史は存在しない。それは、世界を二つ超えても変わらない、純粋な事実なのである。


「私が出るわ」


 メアリーが指を鳴らすと、部屋だと思われた場所は全て消え、ただの荒野に姿を変える。


「楽しみね」


 呟くと同時に、メアリーの前には、黒く染まった『杖』が現れる。先端には赤く輝く宝玉が付けられている。それは『魔王』の証であり、勇者にとっての『聖剣』である。一概に形こそ決まっていないが、勇者は魔王が持つそれを『魔剣』と呼ぶ。


 ――世界に、一体の『魔王』が解き放たれた瞬間だった。





感想を頂けたら嬉しいです。

読みにくいですが、ごめんなさい。

あと、仕事の状況にもよりますが、早めの更新ができるよう、頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 引っ掛かったものを拾っておきます。 >>総力戦を戦い敗北した者がいたとして →総力戦で敗北した者が……とかがいいかも。 頭痛が痛い、みたいになってる気がする。 >>耳障りの良い 障…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ