016 : 出かける約束 (裏話)
『この前の動画、最高でした!』
『ありがとう』
星宮 夏美は、携帯を見ながら微笑みを浮かべていた。憧れの人にメッセージを送って、それが自分宛に返ってくるという、その事実だけが嬉しかった。
最初は遠慮していた夏美だけど、連絡用に教えてもらったアプリで会話をしたり、メッセージのやり取りをしている内に、もっと相手のことを知りたいと思うようになっていた。
(送りすぎかな……? 迷惑じゃないかな……?)
時々、その部分が心配になることもあるし、冷さんの返答はいつも、短文で飾り気の無い内容だったりする。だから余計に、心配になってしまう。
『迷惑じゃないですか?』
『迷惑じゃないよ。その時は言うから』
それでも、気持ちだけは大きくなっていく。もっと相手の事が知りたい、そして自分を知って欲しいというように、趣味を質問してみたり、好きな食べ物を聞いてみたり、好みの男性のタイプなんかも聞いていた。
(冷さんが一番興味を示すのは、ファッション関連なんだよね)
夏美本人は、人並みには着飾ることに興味はあった。しかし、高校生とは言え、それほど衣服にかけられるお金がある訳ではない。
友達の中には、高額ではないものの、そこそこ有名なブランドのバックや衣服を何点か持っている者もいるが、大抵は雑誌やネットで調べた知識しか持っていない。
(今度、アルバイトでもしようかな?)
さすがに、冷が配信で着ているような衣服を、着たいと思う訳ではない。何より、憧れることはあっても、自分が着たいという類の衣装ではないのだ。夏美が思うに、着る人の素体が良くないと、衣服に着られているような印象になるのではないかと、なんとなく感じていた。
(もっと冷さんと仲良くなるには、どうすればいいのかな)
夏美はクラスでは、目立たないポジションで落ち着いていた。友達付き合いは適度にこなしているし、人並みに勉強はできている。運動は苦手な部分もあるけど、最近は魔法少女になった影響なのか、授業でマラソンをしても息切れしない程度には体力がつき、球技でも反応できるかは別として、何をやっても早すぎて見失うような事は起きなくなった。
ふと、友達がしていた会話を思い出した。夏美は都合が悪くて行けなかったが、少し前に、電車で一時間もしない場所にある遊園地に行った話を、友達が楽しそうに話してくれた。
まだ今月のお小遣いには余裕があるし、一回くらいなら誰かと一緒に行きたいと考えていた。それが、もし冷と一緒に行けたらと考えると、迷わずメッセージを送っていた。
『冷さん、今度の土日に、遊園地行きませんか?』
思わず送ってしまったと思いながら、具体的な場所もメッセージで送る。
夏美は携帯を胸に抱きながら、断られたら悲しいと思うと同時に、返信が来るのを楽しみにしている自分がいた。
(踏み込みすぎたかな?)
夏美がこんな精神状態になるのは、中学や高校に進学したばかりの頃に、友達ができるか不安になりながら過ごした時と似ていた。
相手のことを知ったり、好きな趣味を共有できたり、ささやかな事に一喜一憂していた時期を思い出していた。
『いいよ。土曜日でもいい?』
十分ほど、横になりながら思い悩んでいると、携帯の通知が来て飛び起きる。通知を開くと肯定のメッセージが来ていて、思わず嬉しさを声に出していた。
「やった!」
それから、何度かメッセージをやり取りしながら、夏美は冷と遊園地に行く約束を取り付けた。実際に会ったのは、先日助けてもらった日だけなので、今から楽しみで仕方がなかった。
「何着てこうかな?」
気が早いかもしれないが、自分が持っている中で、よそ行きの服やアクセサリーを引っ張り出して、当日に何を着ていこうか迷いはじめる。それでも三十分もしない内に済んでしまうので、部屋でくつろぎながらそわそわしながら過ごす。
仕方ないので、携帯で気に入った動画のマイリストを流しながら、当日のことを考える。
最近になって冷は、他者の動画にボーカルとして出演するようになったので、夏美は何度も何度も、繰り返しそれを聞いていた。
「早く、土曜日にならないかな……」
それまで、アイドル好きな友達が、なぜ熱心にその人を応援するか、夏美は理解できないでいた。だけど当事者になってみると、それは理性ではなく感情的なものなのだと分かった。
ちなみに夏美は携帯の待ち受けを、冷がSNSで時々アップロードする自撮り写真にしていた。中でも一番のお気に入りは、赤いコスプレ衣装を着た冷が、こちらを見つめている写真だった。
少し、展開が気持ち悪いですが、
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