表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

001 : プロローグ

 ――理想の『声』を手に入れた。


 細かい説明は、省こうと思う。

 事実だけ書くなら、自分ひとりしかいない部屋の中で、鏡の向こうに『女の子』がいる。

 経緯なんて、どうでもいい。全てが些細なことだから。


 部屋の隅には、もふもふした『ウサギ』みたいな謎生物がいる。そいつは、私に囁きかけてきたのだ。あの日、雪が降るクリスマスの街中で、地面を赤く染めながら、死にそうな体を引きずって。


「君……心に『理想の女の子』を持ってるね?」


 最初、何を言われたのか分からなかった。訳の分からない生物が、人の言葉を操るのも不思議だった。

 全てが可笑しい状況の中で、不思議と私の心は冷静だった。


「ねえ、魔法少女になってみない? 可笑しいよね、僕もそう思う。だって君は『男』で『少女』という年齢ですらないのに……」


 嘘みたいな状況、誰もいない中で、音を消すようにずっしりと降る瑞々しい雪が、その声を大きく感じさせる。


(夢じゃないのか?)


 別に、私は『女』になりたい願望はない。なのに、いつも複雑に思っていたことはある。

 カラオケで、女性の歌を歌う時、私は自分の声が『男性の声』である事に、劣等感を抱くことがあった。


 それを強く意識し始めたのは、動画サイトとかでバーチャルリアリティを知ったのをきっかけに、バーチャルの美少女アバターを購入して、自分で動かしてから、だと思う。


(私は、女になりたい訳じゃない)


 男である事に、何か不満がある訳じゃないのだ。

 なのに、自分が自分であるはずなのに、歌を歌う時、バーチャルで仮初かりそめの体を動かすとき、自分の『声』だけは、違和感を感じることが多くなった。


「夢か、幻か?」

「違うよ……ぐぅ……がはっ……」


 白い、雪と同化しそうなほど白いウサギは、苦しそうに前足と後ろ足を投げ出して、知性を感じさせる瞳を私に向けてきた。


「僕は、君の願いを叶えてあげる。その代わり、僕の願いを叶えてほしい……。僕は、消えたくない。その為に、魔法少女になってくれない?」


 その日から、私は世界の裏側を知ることになった。

 ただ、私の物語に、そんな難しいことは必要ない。

 事実だけ言えば、私は魔法少女になったのだ。それが、この物語の始まりの全てであり、それ以上でも以下でもない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ