アルビス市民国編24 お昼の巻三
向こう側に居るジニーとのリンクを利用して精霊さん達を呼び出します。呼び出した精霊さん達を経路を通してこちら側に呼び出してみます。
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拍子抜けるほど簡単にこちら側に精霊さん達を呼び出すことに成功しました。しかし、良く考えればこれは精霊召喚術の簡易版に過ぎません。素直に精霊召喚術を使った方が簡単でした。
——とはいえ精霊を呼び出せればこちらのものです。後は精霊を張り巡らせて細かい状況を分析していきます。私の二つの眼と火・水・風・土・無の五種類の精霊の眼を通して妹さんの全身を隈なくスキャンしていきます。そして違和感のあるところを抽出し、そこを更に複数の眼で複雑に絡みあう魔素やら呪いやらを細かくを色分けしていきます。そして頭の中に病の全体像を浮かびあがらせます。分かりやすく《病気》の部分を青、《呪い》の部分を黄、《魔法》を赤とします。それぞれの色が渦のように混じり合ってどす黒い色をしていました。
やはり《病気》と《呪い》と《魔法》が互いを牽制し合っている様です。《病気》が蝕む身体を『主人の為に生きろ』と言う《呪い》が癒し、《束縛》の《呪い》を《祝福》の《魔法》が打ち消し、過度に集束する《魔素》を《病気》が吸い取ることで均衡を保っているようです。しかしこのままでは徐々に衰弱していき、そのまま床から起き上がれないまま生き続ける存在になる可能性があります。
「……これは、妹さんは奴隷だったのでしょうか?」
「違う。いや、されそうになったが儀式の途中で助けられた」
——と言う事は中途半端な《呪い》が掛かっていると言う事になります。恐らく隷属化の魔法が歪んだ形で発動し《呪い》に変転したパターンでしょう。
「《祝福》の魔法らしき痕跡について何か知っていますか?」
「いや知らない……というか《祝福》の魔法って何?」
妹さんは首を振り、代わりにミードが答えます。そんな都合のいい話が人の口から出てくるはずも有りませんね。そこで魔法の履歴を追いかけることにしました。ほぼ永久化に近い魔法が付与されているので履歴を追いかければどのような魔法が最初に掛けられたかはある程度予測が出来ます。……とは言え治療には全く関係無い代物なので履歴だけ写し取ると分析の方を後回しにしました。時間もありませんし治療を優先します。仮説としては《魔法》は隷属化の呪いを中和させるためにかけられたもので、永続化は体内に刻字を刻み込んでいます。この作業は魔道具を使った可能性があります。この魔法の術者は恐らく《解呪》の魔法が使えないか知らなかったのでこのような荒技を使ったと思われます。刻み込まれた刻字が病気で変容し今のような魔素を集束に吸収する様になったと考えられます。
最後に《病気》の方を検証してみましょう……とは言いたいところですが病気に関してはどの草を組み合わせれば治るかは分かります。ただこの《病気》に関する知識は全くないので調べようがありません。——とにかく治れば良いんです。過程より結果の方が大事です。
それでは、これらを踏まえて治療に取りかかることにします。不安そうな顔をしたミードがこちらを見ています。
「失敗しない限り大丈夫です」
そこで励ましの言葉をかけてみました。
「失敗したら駄目だろ」
困惑した顔をしてこちらを見つめています。逆効果でした。言葉を操るのは難しいものです。魔法を操る方が簡単です。そこでどのような魔法を使うか思案した結果、病気と呪いと魔法を同じタイミングで消し去れば上手く治療できそうな感じなので《病回復》《解呪》《魔法消去》の三つの魔法を同時に発動させる方針で行くことにします。 ちなみに《病回復》は信仰魔法ではなく下代魔法の魔法です。しかし、里の外では下代魔法で治癒魔法を使っているケースが見られませんが治癒魔法も使う事が可能です。ただし信仰魔法に比べると労力に対して効果が小さいから使われていないと思われます。これは信仰魔法に上代魔法が少し混ざっているからかも知れません。信仰魔法の《病気平癒》は病そのものを取り去り回復させる魔法で病と言う理をそのもの消滅させるものですが、下代魔法の《病回復》は病の根源を潰していく理にそった効果しか発生しません。そのため病気で削られた体力の回復まで行う事は出来ません。病が回復してその瞬間元気になるわけではないので体力を回復させる為に養生する必要があります。そのため衰弱している病人に使うのが少々困難が伴います。少しずつ病の根源を潰しながら薬草などを併用し、同時に体力も回復させると言うやり方をする必要があります。高度な制御を要求される《病回復》より信仰魔法の《病気平癒》の方が遙かに使い勝手が良いのです。 しかし、今回のケースで信仰魔法で《病気》を治すと恐らく直後に《呪い》と《魔法》に食い殺されてしまいます。この手の《呪い》は体力があるほど効力が大きくなりますし、《魔法》に関しては言うまでもありません。このような環境に居たがゆえに信仰魔法が使える治癒術師などに接点がなかったことが妹さんをここまで生き延びさせられたと言うのも皮肉だといえます。しかし、今回使う《病回復》は他の2つも一緒に作用させるため一度に一気に病の根源を取り除く必要がありますし。タダでさえ難しい《病回復》の魔法だけではなく《魔法消去》が他の2つの魔法と干渉しない様にも注意する必要があります。そこで消去する魔法を限定する必要があります。妹さんの身体を凝視しながら、その部分を微調整していきます。
……
……
「さて準備できました」
三つの魔法を発動させ互いが干渉しない様に調律していきます。タイミングを計って魔法を同時妹さんに放ちました。三つの魔法が妹さんに効果を及ぼすと虹が輝いているような煌めきが生じます……ただ魔素が見える人では無いと何が起こったのかは分からないと思います。
魔法それぞれ収束させていくと虹色の光彩は徐々に輪を縮めて妹さんの臍の辺りに消えていきます。再び精霊を使い妹さんの身体を見ると絡み合って居た病気と呪いと魔法が綺麗に消えていました。どうやら魔法は上手くいった様です。ここからの回復は妹さん自身に掛かっていきます。取りあえず巾着の中から何種類かの干した草を取り出しすり鉢ですりつぶします。
「何をしているのだ?」
「薬を調合しているのですよ。病気は治しましたが体力が回復していませんから。滋養と強壮に効くお薬を作っているのです。……はい出来ました。これを少しずつ妹さんの口に含ませてください。その間に私はこの小屋を掃除しますから」
「……はやっ」
薬を渡されたミードははびっくりしています。単純に薬を作っだけなのですけど……。それはともかく、この半壊している建物では治る病気も治るわけがありません。まず精霊さn達に徹底的に掃除をさせます。埃や汚れや大きな瓦礫などを綺麗に片付けてもらうようにお願いしました。
「ふぅ、ひと仕事しました」
「……何にもやってない気がするけど?しかし、大丈夫だろうな?」
「あとは妹さん次第です。生きる気力があって、ちゃんと療養すれば良くなるはずです」
精霊達に任せて少し休むことにします。こういうときにはお茶などを嗜むべきでしょうか?……とは要っても綺麗な水はここにはありませんし、のんびりお湯を沸かしている時間も無い様ので、ここは一旦諦めることにします。先程から廃墟の街を取り囲む周りの気配がヤケに慌ただしくなっていますし、もう一度妹さんの様子をみたら早めに退散した方が良いようです。
妹さんは穏やかな吐息を立てており、ミードが薬を含ませると血の気が戻ってきた様な気がします。先程まで青白かった肌が少し赤らんできました。後はこのまま薬を何日か飲み続け、ちゃんとしたものを食べれば元気になると思います……しかしここにちゃんとした食べ物があるとは思えないのが少し気がかりです。




