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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第三章 アルビス市民国編
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アルビス市民国編21 調教師戦後編

 調教師のガルウが右手を挙げると魔獣が飛び出してきます。この調教師は一体何頭の魔獣を連れ歩いているのでしょうか?——それ以前にこれだけの魔獣を一体どこに隠しているのでしょうか?——それはともかくガルウが素早く次の魔獣を放ってきます。私の懐に飛び込んでくる黒くて大きなの猪と狗を掛け合わせた様な姿をした魔獣を右手で払い床にたたきつけます。


 そうすると次の魔獣が現れ再び飛びかかってきました、今度は頭が鶏で胴体が牛の変な魔物でした。恐らく先程の影潜りの魔獣や蜘蛛や蠍の様な仕込みもしている感じです。試合の最初からガルウの左右に居る魔獣はずっと不動のままです。そこで感じていた違和感にようやく気がつきました。それはガルウが調教している魔獣?は実は一体しかいないのではないかと言うことです。恐らくその魔獣——もしかすると悪魔か魔人の類かも知れません——が魔獣を召喚し使役していると考えると今までの攻撃パターンが全て腑に落ちます。


 そこで耳を動かし潜んだ気配を上下前後左右から探しだしてみます。その間にも黒い羽を持つ大きな昆虫の一種が飛んできたり巨大な芋虫が上から振ってきたりするのを剣で振り払います。恐らく大きな虫や芋虫は単なる時間稼ぎでしょう。魔獣ではなく単なるの巨大な虫ですし、倒すのも可哀想なぐらいに弱いからです。


「……おまえ、虫が平気なのか?」


 ここでガルウが驚愕して話しかけてきます。


「こういうのは森の中には沢山住んでいますから普通に慣れますよ」


 ……手応えがありました。まだ発見していない魔獣に反応し耳がピクリと動きました。しかし意外な所に潜んでいた様です。その魔物?は背後の観客席に潜んでいました。フェルパイア人と見間違う姿をしており、頭に布を巻き緩い衣服などで肌を覆い隠しているので一見しただけはおそらく誰も分からないでしょう。観客席に紛れ混んでいるこの魔物を直接攻撃すると場外に出てしまいますし、魔法攻撃は禁止されています。しかし恐らくこの魔物を倒さない限りガルウは無尽蔵に次の魔物を繰り出してくると思います。


 次の瞬間、目の前に黒い狗の様な二匹の魔獣が飛び込んで来たので左右にステップを踏んで軽く飛び跳ねると二匹の魔獣はぶつかり勝手に自滅していました。ガルウはその様子をじっと見ている様でした。その視線からガルウの思考を読み取り、そこから調教していると思われる魔物の思考と行動を逆算していきます。


 どうやら使役している魔物は人型で知能は人より上と考えられそうです。そして同時に数体の魔獣を召喚し使役する事が出来る能力を持っているはずです。その魔物は場内ではなく場外の観客席にいます。これはルール違反だと思われますが、その証明はぼ不可能ではないかと考えられます。そして私の背後に陣取る事でガルウの死角を補っている可能性があります。つまり私の背後の死角から奇襲を掛けてくるようです——とは言え背後の気配も完全にバレバレなので何の意味はないのですが——ガルウは視線をその方向に向ける事により魔物とコンタクトをしているのでしょう。問題はこの場外にいる魔物さんに他の観客に気がつかれない様に退場しても貰う方法です。それも攻撃魔法無しでしかも場内への攻撃で行わなければならないと言う訳です。弓で直接打つには、まずガルウとの立ち位置を逆転させないと行けないので難しそうです。いきなり後ろを向いて観客席に弓を打ったら故意の観客への危険行為で反則負けになります。


 そこでまず魔素(マナ)の流れを追ってみる事にしました。通常、目に入る光は色と明るさに分解出来るのですが——母の投影術式は赤・緑・青に分解して居ましたが——精霊・魔素・熱と言う別の要素に分解することも可能です。この辺りでは精霊はほとんど見えないのですが魔素や熱を追いかける事は十分可能です。それに加えて空間の歪みも追いかけてみる事にしてみます。影渡りをする魔獣が居る以上、大きな空間の歪みが有るはずです。その歪みは場外に居る魔物とつながっている可能性が非常に高い訳です。


 つまり私が予想したのは、ガルウと場外の魔物は念話(テレパス)の様なもので連絡を取っており、場外の魔物はガルウの命令に合わせて視線のある方向に魔獣を召喚します。しかし場外から場内には距離があるので完全に正確な位置に魔獣を呼び出すことは難しいので影渡りの魔獣を間に挟み空間を歪ませあたかもガルウが魔獣を呼び出したかの様に見せかけていると言う事です。


 場外の魔物は俯瞰視している可能性もありますが感覚共有は出来ない可能性が高そうです。そうであれば影渡りの魔獣を待機させておく必要が無いからです。現在、影渡りの能力を持つ魔獣は、ガルウの影の下に潜んでいますがそこに大きな空間の歪みが見られました。しかも大きな魔素(マナ)の気流が渦を巻いています。その渦から一塊の魔素がガルウの目線の先に飛び散るとそこから新たな魔獣が現れるのが見てとれました。


 つまりガルウの影を経由して場外の魔物とつながっている可能性が高そうです。影の中の魔素の渦を剣か矢で叩けば場外の魔物に打撃を与えられそうな気がしました。そこで弓を取り出して五本の矢をつがえ、魔獣の攻撃を躱しながら、魔獣とガルウが一直線になる位置まで跳躍し五本の矢をガルウの影めがけて同時に放ちます。五本の矢はアーチをえがいて魔素渦巻く空間の歪みに突き刺さります。


 渦巻く空間の揺らぎを確認すると剣をつかんで一気に影に向かって跳躍します。その速さは周りから見れば瞬間移動(テレポート)したようかの様に見えるかも知れません……しかしこれは魔法を使わず単純に跳躍しているに過ぎません。ガルウの影を捕らえると魔素が渦巻く部分に深く剣を突き刺し、一気に抜き去ります。そして、そのまま後ろに跳躍して元の場所に戻ります。この一連の動作は、見ている観客には単に弓を打って後ろに一歩下がった様にしか見えていないはずです。


「……?」


 ガルウが頭を傾げています。恐らく私が何をしたか全く分からなかったからだと思います。しかし、しばらくすると驚愕の表情を浮かべ目を大きく広げ口を開けたまま凍り付いていました。


「お前一体何をした?」


「はい?私は影を刺しただけですが?そこに影に潜んでいる魔獣が居るのでしょう?それを攻撃しただけですが、貴方自身を攻撃するのは禁じられていますが貴方の身体にとりついている魔獣を攻撃するのは禁止されていませんよね?」


 ガウルは明らかに声がうわずっていました。ガルウがしどろもどろになっている間に後ろの気配を確認します。どうやら後ろからの視線が徐々に消滅しかかっている様です。


「……やってくれたな?」


「いいえ何もやってませんが?」


「まあ良い。私はここで敗北を認める。これ以上戦っても決着はつかなそうだからな。私は忙しいのだ。決着のつかない試合を何時までもやり続ける暇は無い。ここはお前に勝ちを譲ってやる。喜べ」


 ガルウはそう言うとそのままゆっくり場外に出て行きました。ガルウが場外に出ると私の勝ちを告げる《拡声術式》が闘技場内に響き渡ります。しかしガルウは場外に出ると慌てて駆けだして行きました。〔場外の魔物〕を助ける必要が有るのでしょう酷く慌てた感じで控え室に戻ると慌てて魔物を呼び戻し安堵している光景が遠耳ではっきり聞き取れました。


 正直、致命傷になら無いようにしておいたはずなので大丈夫なはずです。〔場外の魔物〕がガルウの影と空間をつなぐ一瞬に逆に攻撃を仕掛ける作戦は上手くいった様です。この手が上手くいかなかった場合、補助魔法や防御魔法を組み合わせて空間を〔場外の魔物〕とつなげる方法を考えないといけない所でした。


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