アルビス市民国編18 感想戦
話は〔金獅子の夜明け〕の戦いの後に戻ります。勝ち名乗りを上げた後、そのまま控え室の方に戻ってきました。控え室に入ると〔金獅子の夜明け〕の六人が待っていました。
「お嬢ちゃん、すげーな、その身のこなし。しかし〔神速〕より早いとなるとなんて呼べば良いんだ?〔神速の〕」
半裸の剣闘士が剣士に向かって言います。しかし、真冬にこの格好で凍死しないのでしょうか?そのことについて試しに聞いてみました。
「それはな闘士で燃え上がっているから身体は熱いのよ」
——そこは暑苦しいの間違いだと思います。寒いけど暑苦しい。そもそも何故この部屋に居るのでしょう。タダでさえ狭い部屋に七人も入ると暑苦しさの濃度が高くなります。寒いですけど。もしかして入る部屋を間違えたと思って部屋の看板を確認しにいきます。
「……それには及ばないよ。おっさんに頼んでお嬢さんの控え室に入れて貰ったのさ」
おっさんと言うのは闘技場の試合受付にいた頭髪がさみしいそこそこの年のいった——それでも私より九百歳以上若い——の男性の事ですよね。ここに居る六人もおっさんと呼べそうな感じの人達みたいですが。
「ところでお嬢ちゃんは位階いくつなんだ?少なくみても30はありそうだが?実際のところはどうよ?」
「位階とはエルフの王国のギルドで査定されたものでしょうか?」
「ああ、こちらの冒険者ギルドに位階制度は無いからな」
「それならば魔法剣士10です」
エルフの王国の冒険者ギルドはそう言っていたはずです。
「……位階10だと?あり得ない……。エルフの王国の冒険者ギルドは節穴か?」
目を丸くして興奮した様子で剣闘士がしゃべっています。暑苦しさも三割増しになりました。
「その位階はギルドに登録したときの位階です」
「しかし驚きだ……登録直後に位階10とはそれ自体があり得ないが、とにかく今すぐ調べ直した方が良いぜ。俺達に勝てるのは最低でも30は無いと無理なはずだがなぁ。そうか登録した時の位階と言うことは位階更改してないと言う事か?ところでお嬢ちゃんは冒険者ギルドに登録してから何回依頼を受けたんだ?」
「確か今のを含めて2回かと?」
「……2回?たった2回かよ……それであの強さかよ。もしかして元王国騎士だったとかそういうのじゃないんだろうな?」
「それは絶対ありません!故郷で百年ぐらい修業したことがあるだけです」
あんな変態どもと一緒にされるのは流石に勘弁です。
「……百年間も修業だと……?それは可能か、ハーフエルフの」
「私は流石に無理です。エルフの中でも長寿クラスの森エルフなら可能かも知れませんが……そういえば見慣れない髪の色をしていますね。それから耳の形も若干違うような……もしかして神様なのでしょうか?」
「神様でもありませんけど……ところで位階30と言うのはどれぐらいなのでしょうか?」
「30と言うのはだなフェルパイア随一の冒険者になるな。フェルパイアの等級だと単騎極級だな。数百年に一度現れると言う勇者とか英雄とか言われる連中は単騎絶級。位階換算で50を超えると言う話だな。まぁあいつらは一人で万の軍隊を相手に出来るイかれた連中だからから普通は冒険者にはカウントしない。それで位階更改する予定はあるのか」
「まだ依頼の最中なので改定する用事は無いです」
エレシアちゃんの護衛の依頼が終わるまでは用事はありません。依頼が終わった後に行っても良いかも知れませんがエルフの王国に戻る予定は当面ありません。温泉に行く依頼があれば一度戻るのですが……まぁ百年後にふらりとよる事はあると思いますのでその時にでもする事にしましょう。
「しかし、あの魔法は何だ?無詠唱で更に重ねかけだと?しかもあのようなでたらめな呪文であの威力の魔法はありえぬ。適当な呪文と所作で高威力の魔法を唱えるのは簡易詠唱や名称より高難易度とされている。下手すれば暴発がおきかねないぞ。しかも元素魔法と付与魔法を同時発動していただろ?魔力が幾らあっても足りないわ。有り得ぬ有り得ない……」
魔法使いが言います。魔力消費はほぼ皆無なので魔力は少しあれば使えるぐらいのレベルなのですが、恐らくむさ苦しい魔法使いはかなり効率の悪い魔法の使い方をしていると考えられます。詠唱と無駄な所作が魔力変換効率をかなり引き下げている可能性がありますが、この辺りの検証は取りあえず未来の私に任せることにします。
「あれはですね正確には元素魔法でも付与魔法でもなく下代魔法です」
「下代魔法だと?なんだそれは聞いた事も無い外法だ。さては汝は悪魔の一味か?」
「外法でも悪魔の一味でもありません。正確に説明すると元素魔法と付与魔法は下代魔法の一種に過ぎないのです。下代魔法の中の恐らく契約魔法ではないでしょうか?契約魔法は確か子どもでも簡単に魔法が使える様に優しくした奴です。呪具を利用することでキーワードを唱えるだけで魔法を発動できるようにした簡単魔法が契約魔法で高級な下代魔法は魔素理論と幾何学を理解していないと使いこなせないものです。もっとも慣れと感でどうにかなりますが」
もっともその下代魔法も下位古代魔法を単純化したものにすぎません。どちらも理の範囲でしか発動出来ない魔法です。
「世界最高難度の技術の極みである元素魔法が簡単魔法だと?汝は某をバカにしておるのか!」
老人が怒り狂っています……説明しても理解できなさそうなので詳しい説明は辞めることにします。周りのハーフエルフの付与術師や僧侶が魔法使いの老人をなだめています。
「まあよい。汝の魔法とやらが外法と分かっただけでもよしとしよう」
下代魔法は、精霊魔法とは違い理論的に構成されているのですがどうやらご理解されなかったようです。論理的であると言う事は綿密に制御出来る半面、融通が利かず細かい所まで制御しなければならず面倒なのです。これは《里》の人達が下代魔法より精霊魔法を好む理由の一つです。精霊魔法は精霊さんが術者の意図を読んで解釈してくれるのでいろいろと楽なのです。しかし精霊魔法も欠点があり近くに精霊がいるか呼び出すかしないと使えないと言う点です。時々支持を勘違いする問題もありますがその辺は経験でカバー出来ます。精霊で満ちあふれている《里》とは違い外の世界では一部の例外——例えば森エルフの森や半精霊の古竜の近くとか——を除き精霊はほとんど居りません。このような精霊がほとんど居ない場所で精霊を召喚し使役するのと下代魔法を使うのでは召喚する方が多くの努力が必要になります。その努力に見合う結果が得られる精霊は大精霊と言われるレベルを使役しないと行けない状況ですが、そのような場面は滅多にありません。従って精霊が満ちあふれていない場所では下代魔法を使う方が楽です。
「〔神の奇跡〕もその簡単呪文なのでしょうか?」
魔法使いをなだめていた僧侶が聞きます。
「〔神の奇跡〕とは信仰魔法の事ででしょうか?だとしたら違うと思います。信仰魔法は下代魔法ではありません——上位古代魔法と契約魔法をいいとこ取りした感じでしょうか?上位古代魔法は神様の使っていた魔法みたいなものです」
上位古代魔法は、かなり難解な体系なので適当な説明でお茶を濁しておきます。〔理の変転〕などを共通語でどう説明したらよいのか全く言葉が思いつきません。この体系は《里》の言葉でも説明しにくく最低でも下位古代魔法語を駆使しないと説明できないしろものです。
「〔神の奇跡〕はやはり神の力なのですね」
——信仰魔法は神の力ではなく単純に世の理を変化させているのですがどうやら勘違い理解されているようです。しかし、世の理と言うのを上手く説明できるとは思えないのであえて訂正しないで起きます。
「元素魔法が魔素を利用するのに対し、〔神の奇跡〕と言うのは信じる力を利用すると言う意味では神の力と言っても良いかも知れません」
「やはり我が信仰に偽りは無かったのか」
信仰魔法の厄介な点は思い込みが強い方が強い呪文が使える事ですが、やはり良い感じに勘違いしたままのるようです。下手に説明して魔法が使えなくなっても困るのでこれ以上の回答は辞めておきます。
「無慈悲のサズルさんよ用事は終わったかい?それでお嬢ちゃんさぁ、悪いけどなぁ良かったらその剣を一度見せてくれないかなぁ?」
剣士が前に出てきて暑苦しい顔で言います。面倒ですが、そろそろ帰りたいところなのでこういう用事はさっさと終わらせるに限ります。腰にぶら下げておいた剣を鞘から抜き出して剣士に渡します。
「……こりゃ軽い……というか軽すぎるな。柄しか無いぐらいだ……この剣で鋼を一刀で断ち切れるのかよ……相当な業物だな」
槍使いも身を乗り出して二人で私の剣を見つめています。むさ苦しさ二乗状態です。
「ほお……これは凄い……だが軽すぎるな。刀身は真銀がベースみたいだが……そうだとしても羽のように軽すぎる。もしかして中が空洞にでもなっているのか」
「〔旋風〕もそう思うか?こいつを使いこなすには相当の技量がいるぜこりゃ」
「ああ、こんなもん使いこなせるようじゃ俺らでは勝てないかぁ」
《里》の倉庫に履き捨て居るほど置いてある剣にヤケに高評価を与えていますが《里》では子どもが使うような代物だとは言い辛い雰囲気でした。むさ苦しい二人が剣に夢中になっている間にハーフエルフの付与術師が声をかけてきます。
「これも、もしかして下代魔法なのでしょうか?」
付与術師がアルビスでは珍しい羊皮紙に書かれた魔法陣を見せます。刻字魔法の一種の様ですが少し違う感じです。円の中に複雑な紋様が描かれていました。
「これは魔法円と刻字でしょうか?」
「刻字とは少し違うのです。この魔法陣は通常では発動出来ない複雑な魔法や強力な魔法を発動を使うのに使うものです。武器や防具などに刻んで使うこともあるので付与魔術の一種ですが、お師匠様は魔陣魔法とか魔紋魔法とか呼んでいました」
「魔陣魔法ですか……少し待ってくだい……」
これらの紋様は昔、分厚い本で見たことがあるような気がします……。これも一種の文字だったような気がします。有機的結合幾何学表記文字、俗称、変態象形文字と言う名前がついて居た気もします。要するに円の中に魔法の発動条件を紋様として書いているみたいです。通常魔素を充填できる適当な溝さえ掘っておきそこに魔法を付与するだけで十分なはずです。恐らく未熟な魔法使いが魔法を補強する為に使った補助紋様みたいなものだと推測出来ます。そして紋様の組み合わせから推測できるのは恐らくアレでしょう。
「これも刻字の一種ですよ。そして《水上歩行》の魔法が書かれていますね」
書かれている紋様の組み合わせから水に沈む力を反発させ水面で固定させる効果があると推測しました。変数を現す紋様の部分が興味深いところでした。この変数紋様は体重に合わせて反発させる力を丁度良い感じに調整させる効果があるみたいです。
「これも一目で分かるのですね……叶わないわけだなぁ。この魔法陣は実はお師匠様が作ったモノです。何でも魔法陣の神髄を理解したとか言っておりました。お師匠様なら下代魔法も理解できるかも知れません。是非機会があればお師匠様にあっていただけるでしょうか?」
「お師匠様は、どこにいらっしゃるのですか?」
「お師匠様は、アルメノンの人間自治区の北のハズレの一軒屋に住んでいます。付与魔法と錬金術が専門のロリバ……隠者です。人混みが嫌いとか人気の無い荒野の一軒屋に住処を構えております。これが簡単な地図です」
付与術師が、地図の書かれた紙を押しつけてきます。近くに寄ったときに暇だったら冷やかしに行ってみましょう。
「人間自治区ですか?」
「アルメノンは私の生まれ故郷でハーフエルフの国なのですが人間も住んでいまして人間が自治する街があるのです」
「お師匠様も人間さんでしょうか?」
「お師匠さんも人間だったと思います。ただ200歳ぐらいと聞いた事があるのでもしかしたら人間は無いかも知れません。200歳の方がもしかしたら冗談かも知れませんけど……ここ20年ほぼ見た目が変わっていないので僕にも人間と言いきる自信がありません」
「200歳とは普通ではないのでしょうか?《里》ではまだ子どもですよ」
「その《里》とは違いまして……。人間と言うのは60歳ぐらいで既に長生きの範疇に入ります。100歳超えて生きるのは非常に希で、120歳を超える事はほぼ皆無です。それを超えるとしたら人間ならざる恩寵を持っているか長寿の薬を飲んだぐらいしか僕にはおもいつきませんよ」
確かに人間さんの人生を私の尺度で考えるのはおかしな事でした。その200歳ぐらいの人間さんと言うのが気になりました。
「そうですね。一度あってみても良いかと思います」
「それはありがとうございます。最近、魔法の深淵がまた遠くなったとこぼしている様ですのでその助けになってくれると助かります……お師匠様の八つ当たりは怖いので……」
付与術師はお辞儀をします。
「ああ、お嬢ちゃん、ありがとよ。この業物は凄いな……こういう剣を扱える剣士になる夢ができたぜ。それじゃ早速取っ組んだ」
一方、無邪気に剣を眺めていたむさくるしい剣士がむさくるしい宣言と共に剣を返します。私は剣をさっさとしまうとそれでは用事があるのでと言うとそそくさと部屋から出て行くことにしました。またこの連中に追いかけられても困るのでこのまま帰ることにしました。




