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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第三章 アルビス市民国編
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アルビス市民国編17 間章

 話が前後してしまいますが昨日屋敷に戻ってからの話です。


 先日の〔荷物運び〕の話を女中に聞いてみると『そんな子いたかしら?』としらばくれました。そして慌てて奥の部屋に小走りで消えてしまいました。走りさったことで一瞬女中の監視が緩みました。そして天井裏の気配を調べるとちょうど人が出て行ったところでした。そこで《幻影》を使いダミーを投影させておき、人目を盗んで屋根裏部屋に少女を見に行くと少女は先日より落ち着いた様な感じでした……と言うより少し目が虚ろな気がします。やはり何か変な薬を飲まされた様な感じでした。部屋の臭いや少女の症状から〔布を作る為に使われる草の一種〕で頭が悪くなる毒草を(いぶ)して嗅がされた感じでしたので解毒の薬を作り毒を除去をすることにします。……臭いと言えば部屋の中の微かな臭いから昨日の女中がこの部屋に来ているのも明らかです。恐らく女中かその手下がこの薬を少女に嗅がせたのでしょう。もしかしてこちらの行動が見透かされているのでしょうか?


 巾着から乾燥させた草とすり鉢を取り出し即興で作った毒消しを与えると少女の瞳に少しずつ輝きが戻ってきました。そこで少女に何故このような屋敷に居るのか尋ねてみました。


「……騙されたのです」


 少女は遠い目をしながら身をすくめて小さな声で呟きやきました。集中して聞いていないと聞き逃してしまいそうな小声でした。


「騙されたと言いますと?」


 私はそれについて問いかけてみました。


「……実は私達家族は街のハズレの方で市民として暮らしていました。市民と言ってもその日の食糧に何とかありつけるぐらいの庶民でした……そんな準市民より貧しい暮らしをしていました」


 ここで少女の言葉が詰まりました。それから少女は首を傾げ過去の情景を思い出そうと言うそぶりを見せながら再び言葉を紡ぎ始めます。


「……それでも一家四人は慎ましくそれでいて楽しく暮らしていました。貧しいながらも暖かく優しい母親と親切で頼もしい父親……それから可愛くわんぱくな弟に囲まれていました……そんな幸せな暮らしが何時までも続くかと思っていましたが……そこで急な事件が起きまして……」


 再び少女の言葉が詰まります。今度はあまり思い出したくないことを必至に言葉にしようとしている感じでした。表情は少し暗く悲しげな声で細々次の言葉を話し始めます。


「……ある日、父母が……馬車の車軸に巻き込まれまして……即死だったそうです……それで……それで……」


 そこからは声を出すのも必死な状態で……呼吸も荒くなってきたので……気分を落ち着かせる香りを出す魔法をかけて巾着からコップを取り出して冷たいお水を飲ませました。


「……気持ち良いお水……生水は危険なのでと飲んではいけないのですが……この水は特別なのでしょうか、それとも白湯なのでしょうか?」


「安心してください。それは特製の水です」


 森で濾過された綺麗な水をエルフの森から出る時に少し詰め込んで来たモノです。もしデレス君主国で水に困ったら使おうと思いましたが筆頭書記官の準備が良く水や食糧が不足する事は道中一度も無く結局使いませんでした。和らいだ香りが部屋を巡り水を飲んで少女は少し落ち着きを取り戻したようで少女は続きを途切れ途切れに話し始めます。


「……それで、母が昔お世話したことがあると言うここの屋敷の女中長の元に相談に行ったのです。ここの女中長は小さい時は良くうちに来ており、困ったことがあったら何時でも来てくださいと言っていたので……ところが、屋敷に相談しに行くと女中長が怒りの形相で借用書と言うものを持ち出して『あんたの両親に貸した金が未だ戻ってこないんだ。今ここに書いてあるお金が用意できないなら借金と引き換えに奴隷になってもらうよ』と……」


「……それで奴隷に?」


「……ええ、姉弟ともにそうなりました……」


 この国では市民が借金が支払えない場合、奴隷になることで借金を返済する制度があるそうです。借金によって奴隷になったものが身分を回復するにはその借金の少なくとも倍の額を支払わないと行けないそうですが、それが出来るのは剣闘奴で成功したほんの一握りぐらいだそうです。借金を差し引き出来る金額には上限があるそうで壮年の男子が金貨一枚だとすると女性はその半分の銀貨十枚、子どもに至ってはさらに半分の五枚だそうです。奴隷にこのような価値の差が付くのは労働力の差だそうです。特に子どもは成人するまで生き延びられないので安いのだそうです。確かにすぐ死にそうだと、この街の入口の奴隷の様子を思い返しました。


「ここの評議員は庶民派と聞きますが相談されたのでしょうか?」


「ええ、相談しましたが……元市民だろうが奴隷の話は聞くに値しないと門前払いを……そして奴隷として僅かに貰える賃金は利子といって取り立てられてしまっています。そして私が病気で働けなくなると今度は弟を剣闘奴として売り飛ばしたと……」


 少女はうつむいて悔しそうな顔をしていました。その奴隷と言うのがお金で解決するならどうにでもなるのですが試しに聞いてみる事にしました。


「ところでその借用書には何と書かれていたのでしょうか?」


「……恥ずかしながら文字が読めないので何とかかれていたのか分からないのです……しかし父や母に女中長が時々お金の無心に来ていたのは見ているので今になってみると騙されたのでは無いかと思うのです」


 ここで騙すと言うのは私が昼下がりに起きてくると姉が「今日のお昼はもう食べちゃった」と言うのとは違う感じの様です。それより古い知り合いを酷い目に合わせようと思うのは人間さんの本性なのでしょうか?それともこの女中長だけなのでしょうか?その事に関してはもっと調べないと行けないと思います。


 それより一庶民を奴隷にして働かせるのが庶民派と言うものなのでしょうか?そこで《念話》で左右の口の悪い方に借用書と言うものについて尋ねてみることにしました。


『あ、調べとくよ』だそうです。


 この件に関しては口の悪い方に任せる事にしました。弟さんの手がかりに関して質問してみましたがめぼしい 手懸かりは見当たりませんでした。思い当たるのは奴隷身分になると言う虎の穴コースでしょうか?虎の穴コースを調べる必要がありそうですが……口の悪い方から『闘技場の中は無闇に調べるな』と言われているので取りあえず後回しにして起きます。それより早く十連勝してエレシアちゃんを馬鹿にした評議員を土下座させる方を優先させます。


 ——明日の相手は著名冒険者パーティ〔金獅子の夜明け〕でしたか……少しは戦いがいのある相手だろうと思うと楽しみです。


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