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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第三章 アルビス市民国編
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アルビス市民国編16 冒険者戦その五

 実は《霧》を使ったのには理由があって、それは《霧》は雷亜属性の魔法と相性が良いのです。霧をまいた空間は雷がよく通るのです。これは雷亜属性の扱い方として《里》で学んだ基本の一つです。そもそも精霊魔法に於いて雷亜属性は火属性と風属性の組み合わせで作られる亜属性の一つでこの亜属性と相性が良いのは水属性と金亜属性などで、相性が悪いのは土属性などです。つまり雷亜属性の魔法は水属性や金亜属性などと組み合わせることで効率良く威力を増すことが可能なわけです。元素魔法——と外の世界で呼ばれている下代魔法——も精霊魔法と全く同じ火・水・風・水の四大属性と無属性により構成されているので、精霊魔法と同じ組み合わせて相性や亜属性が決まる事は元素魔法でも同じ訳です。どのような知識も応用が利く訳です。


 右手と左手の間に風を滞留させるとそこに白い火花が溜まっていきます。これは《霧》と風と火の摩擦によって作られた雷亜属性の魔素(マナ)です。雷亜属性の魔素は相手が体勢を立て直す前に十分な量が集積できたのでそれをそのまま矢として放ちます。


雷砲(リュービエニニュ)!」


 それに対して僧侶は「神よ我に水の恵みを」と唱え、付与術師はその水を固化し、魔法使いがそれを固めます。


 《雷砲》は水の壁に当たると散開します。


「我らが雷の魔法に何の対策もしないと思うてか?我らは雷を放つ魔物も何度か倒したことがあるのだぞ。これはイカヅチオオオオカミを相手するときに使った秘策」


 魔法使いが言います。それを受けて僧侶が説明します。


「神の作りし《真の水》は雷をはじくのだ。それゆえ我が《真の水》を呼び、それを付与魔法使いが固め壁にし、法使いの防御魔法と組み合わせる事で雷撃をも弾く真なる水の壁が出来るわけだ」


 どうでも良いですけどこの魔法使いは秘策をペラペラしゃべり過ぎな気がします。しゃべったら秘策ではなく既知の策です。


「そうですか?」


 《真の水》は雷を弾くと言うことは真でない水にすれば雷を通すと言うことでしょうか?そこで巾着の中から取りだしたものをその水の壁の中に投げ込んで剣でかき回してみます。時々壁から顔を出す槍使いの槍が邪魔ですが取りだしたモノを水にかき混ぜるだけですのでさほど時間はかかりません。


「汝なにをしているのか?」


「これは実験ですよ。少し待ってください。それではもう一度行きますよ《雷砲(リュービエニニュ)》」


 今度は《雷砲》は壁を通過し相手の内側で炸裂します。槍使いが慌てて槍を引き抜きましたが雷の直撃を浴びたようで気絶していました。


「汝はいったい何を混ぜたのか?」


「ただの塩ですけど?真なる水が雷を通さないのであれば不純物を混ぜた真ならざる水なら雷を通すと思ったのでちょっとした実験です」


「いや、それ以前の問題の中に我らが水の壁の中に塩を混ぜ込むとか非常識な行為が何故出来るのだ?そもそもその塩は一体どこからだしたのだ?」


「この巾着の中に入った奴ですけど?」


 魔法使いが絶句しています。決して非常識な話はしていないとは思いますけど。《収納(ストレージ)》の魔法を付与した巾着の中に塩を入れておく事は普通だと思います。旅中不可欠な水と塩を十分量確保するのは常識です。


「その袋の空間を広げたとしてだな重量はどうするのだ、それからどうやって維持するのだ。《空間拡張》は常時膨大な魔力を消費する魔法だろ」


「《空間拡張》などと言う効率の悪い魔法は使っていません」


 収納(ストレージ)はただ空間を広げる《空間拡張》とは違い別空間に隔離された倉庫を構築しそこに蓄積する魔法です。別空間に放置するだけですので魔力を消費するのは中に放り込む時と取り出すだけです。常時魔力を消費するような非効率な魔法を使う必要はありません。全部、エルフの王国で読んだ魔道書の請け売りです。


「では一体それは何だ」


「何でも入る巾着です」


「その魔法は膨大な魔力と技量を消費する超高難易度魔法《収納(ストレージ)》だな。やはり、ただのエルフでは無いと思ったが、これはさすがに非常識過ぎる……一回立て直しが必要だな」


 魔法使いが《防御》の魔法を解き、付与術師が《水の壁》を崩すと水が床に流れ落ちていきます。その流水に紛れて剣士と剣闘士が再び飛び出してきました。


「それなら某も雷撃の魔法で応戦させてもらおう。神速と血まみれよこの魔法は詠唱に時間がかかるゆえ前衛を頼むぞ」


「「おう」」


 剣士と剣闘士が飛び出すと共に魔法使いが魔素薬瓶(マナ・ポーション)を飲み干します——魔素薬瓶は普段は足元で割って使うそうですが飲んだ方が、より多くの魔素を取り込む効果があるそうです——魔素薬瓶を飲み干すと魔法使いが長い呪文を唱え始めます。


「『ロジェル・チュルチェン・ブルレン・シュルピー・デフィーニミル・フェルニー・フェルニロム・エネル・クヴェネン・ワンシュル・リニル・ロニ・ロチェル・メレンユ・ジュディル・メウェニル・マレリ・エレニ・ヨミル……』」


 魔法使いが拙い《里》の言葉で話しだします。訛りが酷すぎるので最初の『ロジェル』を『天気(ポーリエ)』と仮定し推測で解釈するとこんな感じの意味になりました『今日は天気が良かったので朝から散歩に出かけました。春の日差しが心地良くうっかり寝てしまいそうな陽気です。とても気持ち良く、花の咲き乱れる林の中を歩きました…………ところが春の日差しを浴びていると突然雲がもくもく現れて晴天を覆い隠してしまい、どんよりした雲は空を暗くして鳴きそうな顔しており閃光の一瞬後に大きな轟雷が響いて私はびっくりしたのでした』と言う呪文の様です。


 しかし、これは呪文と呼べるものなのでしょうか……少し首を傾げてしまうような内容です。


 そこで呪文っぽく書き直すと『蒼天良き日なる今日にて朝より気ままに歩くもの春たる日差し心地良く油断させば眠り落ちしげき陽気にいと楽しき気分なりて花の多く咲く林の中を歩きし時、突然現れし覆い隠しき黒き吞雲は蒼天を泣き顔に変える者なりて閃光を放ち壮大なる轟雷を響かせ我を驚かせるものなり』になるでしょうか。やはり呪文と呼ぶには少しおかしい気がします。


「ところで、これはどういう意味の呪文なのでしょうか?」


 上から降り注ぐ《雷撃》を左手で振り払うと魔法使いに尋ねてみます。


「これは『空よ、黒き闇で纏し雷撃を落とせ』と言う意味の呪文だぞ。そんなことも分からぬか……」と魔法使いがこぼして居ますがこの呪文にそう言う意味は絶対に無いと思います。


「……汝、この魔法を打ち破ったのか?翼竜(ワイバーン)も一撃で屠らんとす、この魔法を……」


 魔法使いが驚いています。《雷撃》を呆然とみていた剣士と剣闘士が武器を構え直すと再びこちらへ向かってきます。


「俺らが時間を稼ぐから連携頼むぜ」


 後ろでは僧侶が気絶した槍使いを回復させる魔法を唱え、付与術師は剣士と剣闘士に強化魔法をかけ直しています。魔法使いはしばらく呆然としていましたが気を取り直すと次の攻撃魔法を準備に入って居ました。この辺りの気持ちの切り替えの早さは連携の得意なパーティだからでしょう。


「ここからが俺等の本領、連携攻撃だ」


 剣が振り下ろされるのを受け流すと次に連接棍が打ち下ろされ合間に槍と矢が飛び込んで来ます。それが途切れ無く繰り返されます。更に一撃で仕留めんとする《火球》や《魔法の矢》が飛んできます。《念話》の様なものはどうやら使っておらずどうやら彼等の連携は訓練や互いの癖を見ることで実現されている様です。


 これを体さばきだけで凌ぐのは少々大変なので手の動きに少し変化を加えることにします。


「さて剣・棍・槍の三位一体攻撃を避けられるかな?」


 剣士が右側、剣闘士が左側に位置し、槍使いが素早く後ろに回り込もうとします。素早く移動して背後を取られるのは避けたいところですが私の背後に僧侶と魔法使いがかけた《聖盾》と《盾》が少々邪魔です。どうやら味方に使う防御魔法をあえて敵にかけることで相手の行動を制限する《《秘策》》の様です。


 右から剣戟を受けつつ左からの連接棍の回転を躱すと今度は後ろから槍の一突きが来ました。軽い足のステップで避けますが連接棍の回転が避ければ避けるほど高速になり次の一撃までの間隔がどんどん短くなっていきます。


 前からは魔法使いの《火球》、上からは付与術師の弓が降ってきます。そして加えて僧侶が防御魔法で私の周囲に圧迫をかけてきます。合間に魔素薬瓶を何本も飲み干していました。


 これは一度体勢を立て直す必要がありそうなので一瞬の隙を見て《跳躍》し、魔法使いの後ろに回り込みます。


 そこから足を後ろに蹴り上げ魔法使いを突き飛ばします。


 ドウッ


 魔法使いが僧侶にぶつかり倒れ込みます。あの鎧にぶつかるとかなり痛そうです。


 そのまま弓を構えると魔法の矢をつがえて付与術師の頭を狙い打ちます。


 ペコッ


 吸盤上になった矢先がハーフエルフの頭に刺さります。


 その様子がおかしいので思わず少し噴き出しそうになりました。


 前衛の三人は急に姿を見失って距離感を図りかねたのか互いにぶつかりあって床に転がっています。


 ——その間に花火を打ち上げることにします。


 通常の《火球》の数十倍にもなる大きな《大火球》を頭の上に掲げると前衛の三人に向かって放り投げようとします。


「ま、まて……降参だ」


 剣士がどこから取り出したのか分かりませんが白旗を振っています。


「——勝負それまで、フレナの勝ち!」


 と言う《拡声術式(アナウンス)》が流れました。


 上に掲げた火球は……仕方ないので《大火球》を上に打ち上げると大きな花火の様に爆発しました。


「いや、お嬢ちゃんタフだな……こちらは体力が顕界だ」


 息切れしながら戦士が言います。


「——まだまだ行けますけど?」


「「「「「「無理無理」」」」」」


 〔金獅子の夜明け〕の面々はそう言いながら床にへたりこみました。


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