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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第三章 アルビス市民国編
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アルビス市民国編 序

アルビス市民国編は、途中までアップして後から書きなおしていましたが話数分割の問題で一度削除してアップした方が楽ではないかと判断しました(旧版は既に完成しています)

 題 気まぐれな鬼 作:詠み人知らず


 夢か(うつつ)か分からぬ世界(うつろい)に現れし 幻影(まぼろし)の中に微睡(まどろ)聖女(おとめ)


 それは幽世(かくりよ)から抜け出した狂気の道化(いかれたおばけ)なのか


 浮世(うきよ)から飛び出した好奇心の権化(ものずきなおに)なのか


 ひたすら人を惑わし 知を虜にしながら 気ままに人の世を通り過ぎていくもの


 ただひたすらに むさぼり歩き 何もかもを求めつづけて


 先への道を切り開き その爪跡をひたすらその地に刻み込んで過ぎ去っていく——




 私達は現在、デレス君主国からアルビス市民国に向かう途中です。御者の引く三台の馬車に分かれてフェルパイア連合の北の境界にあるアルビス市民国に向かっている訳です。馬車に乗っているのは私こと灰色エルフのフレナ、エルフの王国の王甥ディルミス公爵の娘で王位継承権六位の治癒術師(ヒーラー)神祇官(ポンティフィクス)で可愛く尊いエレシアちゃん、それからお付きの筆頭秘書官、筆頭がつかない秘書官、死にそうな顔をしている外交官、通訳、それから清掃係と呼ばれる右のエイニアと左のユイニアと後、存在感の皆無な会計の合計八人とオマケの人の姿をしている雷嵐古竜サンダーストームドラゴンノルシアが一匹です。古竜は、怪我を負ってエルフの王国の南の砦で暴れていたところを物理で保護しました。ちなみに清掃係の二人はメイドの様な格好をしています。黒いエプロンドレスの中には短剣(ダガー)や吹き矢が隠されていたりします。右のエイニア——森エルフの言葉で左の子の意味——はぶっきらぼうな口調で髪を短く整え理気術を操る剣闘士、左のユリニア——同じく右の子の意味——は髪を馬尾(ポニーテール)に整え丁寧な口調で話す魔法弓師でやはり理気術を操ります。理気術と言うのは、この世界で一般的に使われている外部の魔素を取り込んで唱える元素魔法、付与魔法などとは違い、体内の気を練って(ことわり)に干渉する術です。気には大雑把に分けると内気と外気の二種類の二つがあるのですが、一般的には身体の延長で使える内気の扱いを得意としており大抵は肉体強化術を得意とします。理気術には精神干渉系の術もあるらしいのですが右と左の二人は弱い念話(テレパス)ぐらいしか使えないそうです。ちなみに名前と地位の関係がややこしいく良く名前が混乱するので、私は単に右と左と呼ぶ事が多く名前はよく忘れています。なお名前を忘れると時々練習と叫んで不意打ちを掛けてきます。無論、全部返り討ちにしてあげています。


 私はエレシアちゃんの護衛として雇われエレシアちゃんのフェルパイア連合の巡行の旅についています。


 アルビス市に向かう道中は、国境にいたるまでは延々と草原が続くだけで特筆するものはありません。その間、筆頭書記官はアルビス市民国及びフェルパイア連合で必要な知識をエレシアちゃんに教えていました——そもそもこの馬車は私とエレシアちゃんの二人の為に用意されたもので、筆頭書記官が乗り込んでいるのがおかしいのです——私もその話に耳を傾けていました。フェルパイア連合の成り立ち、国の制度、身分制度、宗教と言ったものをかいつまんで説明し、残りはフェルパイア語の勉強に時間を割いていました。ちなみに通訳や筆頭書記官は当然、右の左の二人もフェルパイア連合で仕事をする機会があるためフェルパイア語には通じている様です。そのためフェルパイア語の講義はエレシアちゃんに対して行われました。


 筆頭書記官曰く「フェルパイアでも共通語は使えますが、それは身分の高い人に限られます。しかしフェルパイアは必ずしも王政を取るとは限らず、寡頭政、民主政といった政体を取る国もあります。こういう国では偉い人が立派な身分の出身とは限らず、共通語が満足使えるとは限らない」そうです。特に民主政の国では共通語は外交以外では一切使われず、ほとんどフェルパイア語を使うそうです。そのためこれからフェルパイア連合の大使として赴くエレシアちゃんは、フェルパイア語に通じている必要があるそうです。共通語を扱うのは上位冒険者、大商人、貴族ぐらいでそれ以外は一部の例外の国をのぞいて国民のほとんどはフェルパイア語しか使えないそうです。


 そして筆頭書記官の猛特訓が始まりました。


「す……すこし……お……覚える単語が多すぎてついて行けなくて……」


 筆頭書記官が馬車から離れた隙にエレシアちゃんがそうこぼしました。話を横で聞いていた私はフェルパイア語の性質が大体理解できたのでかみくだいて説明してみます。


「この《捕らえる》と言う単語は《ドクドゥ》と言いますよね。《持つ》は《ドケドゥ》、《手に入れる》は《ダカド》です。どれも手で捕まえると言うニュアンスがあります。この単語の共通点は何でしょうか?」


「あ……フ……フレナさま、もしかして子音が同じではないでしょうか?」


「エレシアちゃん、正解です。実は、この3つの単語は全てdkd(フェルパイア文字がないのでアルファベットで代用)と記述するのです。同じ語源の言葉は基本的に子音が全部同じ語形をするのがフェルパイア語の特徴なのです」


「そ……それは分かりましたが、これだけの単語をどうやって覚えるのでしょうか……」


 確かに、このようにグルーピングしていけば単語が覚えやすいとは言え、流石に数千の単語を数日で覚えるのは厳しい気もします。私は昔読んだ本の中にフェルパイア語で書かれたものがあって、その内容を丸暗記していたのでそれほど苦労はしませんでしたが……ただ本が古くて言い回しがかなり変わっているところで少し苦労したぐらいです。


 ……しかし密かにオーガ・ロード呼ばれるだけだって筆頭書記官はかなり無茶振りをします。


「挨拶や最低限必要な言い回しに絞って覚えていくのが良いのではないでしょうか?エレシアちゃんには通訳もつきますしにつくまでは数ヶ月ぐらいかかりますからいきなり全部抱え込まないで少しずつ勉強していけば良いのではないでしょうか?言葉を覚えたら使うこと。使わないと忘れてしまうものです」


 実際のところは百年ぐらい使わなくても思い出せるものですが思い出すのには割と時間がかかるのでよく使うものはすぐに思い出せる様に頻繁に使うべきだと思います。


「そ……そうですね。さすがフレナさま。地道に頑張ります」


 エレシアちゃんは努力家で、何時も一生懸命ですし、地頭もかなりよいので必ず結果がついてくるはずです。エレシアちゃんの頑張りを認めてあげるのが一番重要ではないかと思いました。


 そうしている内に《砂の大瀑布》が見えてきました。《砂の大瀑布》は、デレス君主国とフェルパイア連合を分けている天然の障壁です。デレス君主国がフェルパイア連合の友好国であるにも関わらず連合に正式加入していない理由は、生活習慣、人種の違い以上にこの天然の障壁の影響が大きいそうです。《砂の大瀑布》で砂嵐が起きると一月以上は通行止めになり事もあるそうです。勿論、無理矢理通過する事も可能ですがそれなりの技量のある戦士や冒険者でないと難しく、商品を抱えた商人などは手前で立ち止まるしかなくなるそうです。このような天然の障壁がフェルパイアとデレス君主国を分けていました。


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