表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第二章 デレス君主国編
70/138

デレス君主国編19 戦闘の巻

 遊軍と言われても何をやって良いのか分からないので与えられた軍を二つに分ける事にしました。一つは五男グルクの率いる親衛部隊およそ三百。もう一つは私と竜の一人と一匹です。


「賢者殿、これはバカにしているのか?」


「いえ、最善の方法です。グルク様には北から周り込みゴブリンの右翼の横っ腹に突撃し軍列を乱して貰います。突撃したすぐに離脱し、隊列を整え直したら再び突撃を繰り返していただきます」


「それで賢者殿はどうするのだ?」


「南に潜み戦場を把握してから大将首を一気に狙い打ちます」


「そのような事が可能なのか……いや賢者殿なら……」


 五男が唸っています。


「まあよい。父上の命令だ。俺はそれに従うしかない。煮るなり焼くなり好きなようにしろ」


 ……人を食べる趣味はないのですが……そう言う言い回しなのでしょうか?


「戦闘が始まった後は北と南に分かれますから細かい指示は逐次念話で送ります……」


『こんな感じですがどうですか』


 念話を使って五男に呼びかけます。


「頭が不思議なもので鳴り響いているようだな……何かおかしな気分だ。こうやって指示が来るのか?分かった」


「それで戦闘の前に一つお願いがあるのですが?」


 私が頼んだ事は鷹匠にお願いして何羽の鷹狩り様の鷹を借り受ける事でした。この事は依頼を引き受ける時の条件の一つであると説明して欲しいと言い添えます。五男は二つ返事で〔大ハン〕に掛け合うと言ってくれました。それからしばらくしないうちに鷹匠が鷹を連れてこちらにやってきました。


 既に突撃していった四男が気がかりと言う事で予定を早めて出発する事になりました。かなり慌ただしい動きをしていました。私も一度天幕に戻り、まだ寝ていた竜をたたき起こすと馬に乗り五男を引き連れ進軍を始めます。


「我はお腹が減ったのだ」


「馬に乗りながらでも干し肉は食べられます」


「しかし……竜が馬に乗るとはおかしくないか?」


「今は人の姿をしているから良いのでは?」


「いやここは竜に戻ってパッと飛んでだな……」


「ここの人達を混乱させてどうするのですか?」


 やはりこの竜はもう少ししつけする必要ありそうです。


 戦場と見越した場所にたどり着くと隊列を整えます。


 左軍は三男、中軍は族長と六男、右軍に次男が約一千の兵を率いて整列します。全ての兵士は騎乗しています。デレスの兵は、ほぼ騎兵だけで構成されているとの事です。その後ろに後詰めとして〔大ハン〕の軍三千が整列します。私達は少し離れた場所に軍を構えます。目が良ければ肉眼で見るぐらいところにゴブリンの軍勢が見えてきました。


 そこで〔大ハン〕から借り受けた複数の鷹に視覚共有を施す空中に解き放ちます。空の上には既に多くの鷹や鷲が屍肉を狙って回転しながら飛んでいるのでそこに何羽が鷹が増えたとしてもおかしくは感じないと思います。鷹の目を通して戦場の様子を俯瞰して行きます。複数の鷹の視界を同時に通して見るのは難しいので重複する視界を融合させる視覚補助魔法を併用して視覚への負荷を下げていきます。それでも鷹から見える俯瞰視線と自分が見ている正面の視線の両方を同時に処理しないと行けないので注意が必要です。


 ゴブリン軍の布陣も〔大ハン〕の布陣も完全に丸わかりの状態です。〔大ハン〕の布陣はやはり統率されているらしく綺麗に馬が並んでおり上空から眺めた姿も綺麗に揃っています。一方ゴブリンの兵は戦線の部分から波打っていたりあちこちばらけていたり、そもそも隊列が崩れています。しかし、その後方に陣取っている隊列だけはヤケに統率が取れている感じで綺麗に揃っていました。ここが敵の本陣とみて間違いなさそうです。


 ゴブリン軍の最前線では既に戦っている様子が見られ、恐らく四男の軍だと思われますが……かなり劣勢です。そう長くない内に敗走しそうな感じがします。


 敵情視察はこの程度にしておき、自分の持ち場に向かうことにします。私と竜の初期位置は、本陣よりかなり南東に行った場所の岩陰です。この辺りは砂漠と草原の間ぐらいの荒れ地で、あちこちに岩が林立しています。ここに隠れていれば、まず敵に見つかる事はないと思いますが馬と自分達に更に幻術と隠蔽魔法を付与しておきます。


 しばらくすると四男の軍が敗走し、算を乱して本体の方に馬を飛ばしてきました。それを狼に乗ったゴブリン騎兵(ライダー)が追いかけてきます。幾ら俊敏な狼とはいえ大きい馬に簡単には追いつけず、引き離されていき四男はどうやら逃げ切った感じです。四男の軍はそのまま〔大ハン〕の居る後詰めのところまで馬を走らせていました。


 四男を追いかけていたゴブリン騎兵がデレス中軍に接触した時点で本格的な戦闘が始まります。まずデレス軍が近づいてくるゴブリン騎兵に弓矢の嵐を浴びせます。デレスで使われている弓は骨、木、皮を貼り合わせた短い合成弓で、それに動物の腱などで作った弦を張っています。射程は長くはなく威力もあまり強くないのですが短時間に連射が可能になっているようです。


 山なりに打ち放たれた矢はゴブリン騎兵の上を覆います。上方から来る矢の嵐に気を取られたゴブリン騎兵は一瞬ひるみ、そこで騎兵達は完全にばらけます。一分の狼は矢の嵐におびえ、後ろに向かって走り出しています。その上でゴブリンが何か叫んでいますが……ゴブリン語は分からないので何を言っているのかは分かりませんでした。


 その間に後ろに控えていたゴブリン歩兵が前身してきます。オーガやトロルに後ろから追い立てられているゴブリンは弓の嵐が有ろうとも前に進む以外有りません。打ち注ぐ矢を棍棒や割れた盾などで防ぎながら全身してきます。所々で矢の当たりどころが悪かったゴブリンが脱落していきます。しかし、数に任せて徐々にデレスの軍隊の最前列までたどりつきます。そのタイミングでデレスの前衛は武器を弓から剣やメイスに持ち替えゴブリンに対峙します。そして白兵戦が始まります。


 その間、ゴブリン右軍の様子を鷹の目を通して観察します。中でも隊列が乱れているところを見つけると念話で五男にその部分に突撃する様に指示を送ります。五男はその場所を確認すると馬の腹を蹴り飛ばし、部下の騎兵を引き連れその部分に突撃を行います。横からの奇襲にゴブリン右軍は散り散りに引き裂かれ隊列がバラバラになっていきます。そのタイミングで一度引き上げる様に指示を出します。五男はゴブリン軍を突破し、再び北の方に引き返していきます。そこで一回休憩を取るように指示をしておきます。


 その間に再び本隊の様子を観察します。


 ゴブリン軍の右軍は壊滅、中軍、左軍も前線が既に崩壊しています。しかし、後ろから押し出される様にゴブリンの軍勢は前に進んでいます。……というより督戦部隊が怖くて前に押し出されている状態です。一方デレス右軍は先行し、中軍・左軍は善戦しています。しかし、ゴブリンの軍隊はまだ崩壊するには至っていませんが後ろに行くほどゴブリン密度が薄くなり巫術師などの姿がはっきりと分かる様にはなっています。それではあの辺りに試しに火球(ファイアボール)を飛ばしてみることにします。


 しかし、視点を鷹から自分に切り替えるの面倒なので鷹の飛んでいる位置から火球を数発試しに打ちこんで見ることにします。こういう魔法のかけ方はしたことは無いのでちょっとした実験になります。


 頭でイメージを浮かべ魔法を発動させると空から複数の火球が浮かび上がり、真下に直撃します。


 火球が燃え上がり煙が浮かびあがります。その下を確認するとゴブリン達が良い感じに黒焦げになっているのが確認できました。ゴブリン軍の中央に良い感じに空間を作る事が出来ました。中軍に関しては前に突出しているゴブリンと後ろで待機している督戦部隊に上手い具合に分断されたようです。右軍と左軍も分断したいところです……。恐らく後ろに控えている督戦部隊が見えなくなればゴブリン達は算を乱して逃げ出すはずです。現状を分析するとゴブリン達は逃げるより前に進む方が生き残る可能性が高いと考えて居るから前に進んでいるだけだと考えられ、その後ろに居る門番がいなくなればゴブリン達は堂々と逃げだすでしょう。


「ところで我の出番はまだかな?」


 ……そういえば竜の存在を忘れていました。


「ノルシア良いですか。これからオーガやトロルの本隊が現れますから準備をしておくように」


「あれを全部ぶっ殺せばいいわけじゃな。朝飯前だ。今からひとっ飛びしてくるぞ」


「……竜に変身するのは無しです」


「この姿で戦えと?」


「今回はそうしてください」


「これも修業でしょうか」

「はい、そうです」


 ……上手く誤魔化せたでしょうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ