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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第二章 デレス君主国編
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デレス君主国17 大晦日の巻

 軍議が続いているようで治療を終えた後はする事が無く夕飯の時間まで暇になりました。その時間を使って〔なんでも巾着ん〕に重力魔法を付与して改良を施していました。収納(ストレージ)の魔法を付与したこの巾着はどんなにモノを入れても重量は変わらないのですが、中身の容量に合わせて重量が変化するような細工を施してみました。入れすぎの時は重くなるので荷物が管理しやすくなると思います。便利だからと何でもかんでも入れてしまうと父の部屋のような腐海と化してしまいます。便利だからこそ入れすぎていないか要らないものが入れっぱなしになっていないかしっかり管理する事が重要なのです。ついでに巾着に出し入れするものの重さを軽減する効果も付与しておきます。これで竜であろうと岩であろうと巾着に入れる事が出来ます。巾着の中に入れられたらの話ですけど。


「主は魔法を覚えて応用するのが極めて早いな」


「下代魔法は全て法則に基づいて動いているので原理さえ覚えてしまえば全て応用が利きます。例えれば料理と同じ事です。新たに見知らぬ素材にであっても加工方法と調理の仕方さえ分かれば、今までの調理法や調味料がそのまま使えるわけです。さらに言えば同じ素材でも調理しだいで全く違うものを作ることもできます。例えばで小麦と甘味を組みか合わせればお菓子が作れますし、甘さを控えめにすれば夕飯のおかずが作れます。下代魔法はそれとあまり変わりません。ところが外の世界の元素魔法や付与魔法は、料理に於ける調味料や調理法を理解しないまま一字一句レシピどおり調理しているだけなのです。卵からプリン、オムレツ、玉子焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵、卵スープが作れるにも関わらず本に書いてあるとおりのゆで卵の作り方以外を覚えないのが外の世界の元素魔法や付与魔法みたいの現状みたいに感じます。ゆで卵と言っても半熟、じっくり、固め、塩を付けたりソースにつけ込んだりと色々なバリエーションがあるように少し工夫するだけでいくらでも魔法は作れるのにも関わらずです……」


 まだまだ説明が足りない気がしましたが竜が遮って言います。


「料理の例えばサッパリわからぬがエルフの上位種がおかしな連中だと言う事だけが我には分かったぞ……魔法の創造はそんなに簡単にできるものではないのか?」


「その辺りは知識と経験次第だと思います」


 そういえば料理をしない竜に料理の例えをするのは失敗だと思いました。魔法の付与をしていると夕飯の時間になり食事を族長の侍従が運んできました。


 侍従言うには軍議の結果、戦闘の準備は行うが年末年始の祭祀は滞りなく行う事に決まったそうです。


 族長曰く「なぜならご先祖様の加護が今こそ必要からじゃ」だそうです。


 今日はこれ以降特に変わり映えする事も無く翌日になりました。デレスの暦では第12の月の最後の日で一年の最終日に相当するので年の最後を迎える盛大な祭が行われるそうです。一年の最後の日は一年で夜が一番長くなる冬至の日でもあり太陽の力が一番衰える最後に日に相当します。そのため新らたな年に太陽の力が再び勢いを取り戻す様に盛大な儀式を行うそうです。ご先祖様をお呼びするのもこの儀式に於いて重要な役目があるからそうですが詳細なところは過去の伝承でも伝わっておらず誰も知らないそうです。


 少し気がつきましたがゴブリンなどの夜行性の魔物は夜が長いほど活動時間が長くなります。つまり冬至前後はゴブリンやトロルなどが活動するのには最適な季節になります——夜の風が寒くて痛いと言う事を無視すればの話です——ゴブリンの軍勢がこちらを目指しているのも時期的に動きやすいのもあるのでしょうか?


 翌朝になると周りは慌ただしく駆けずり回っています。エレシアちゃん達は客人なのでそんな中でゆっくりしている訳ですが、どうにも落ち着かない感じです。


「今日ぐらいはゆっくりしましょう」と声をかけておきます。


 大晦日の会場の設営は、次男と四男の指示で行われているそうです。〔大ハン〕は軍議にかかりきりだそうです。三男は今日は安静しているはずですし五男は戦闘の準備をしているのでしょうか?


 今日は特にする事もないのでエレシアちゃんとお外でひなたぼっこしていると、すぐ近くで祭壇の設営が始まりました。祭壇の左側を次男が右側を四男の指示で行っているそうです。エレシアちゃんは筆頭秘書官に後学の為に見学しなさいと言われて、その様子を眺めていました。なお竜と左右の三人は別の用事で出かけるそうです……恐らく羊肉でも食べに行ったのではないかと思いますけど、それはどうでも良いことなので祭壇の設営をボンヤリ眺めることにします。


 次男の方を見ると最初に若者達を集め今日の目的を丁寧に説明し、「今日、一番働いた奴には羊を一頭やる、二番目には……」と宣言していきます。それから完成形を図示し、それぞれに役割を分担させていきます。指示が終わると全体の様子を見ながら人員を調整したり、アドバイスをしたりしている感じの様です。次男の下の若者達はテキパキと作業を進めています、四男は「俺の言うとおりやれ」とひたすら怒鳴り散らしていました。四男の下で動いている若者達はやる気なさそうなだるい感じで作業を遅延させているのが見て取れました。それを見て、四男が、また怒鳴り散らしています。途中で邪魔しに行ったりして作業が全く進んで居ない様でした。エレシアちゃんは見てられない様な顔をしていました。


 正午近くになると次男の作業は既に終わっており若者達は軽食を食べている様でした。それを見て私達も昼ご飯を食べに一度天幕に戻ることにしました……四男の方は日が暮れるまでに作業が終わるのでしょうか?たぶん無理な気もします。


 そうこうしているうち日が暮れていきます。今日の祭祀は真夜中に行われる為、仮眠を取っておくように言われたので、早めの夕食を食べると少し仮眠する事にしました。


 私達は、未明に起こされ、天幕を出ました。真夜中に吹き付ける風はとても冷たく痛いです。しかも今日は月が出ておらず星々だけが輝いていました。その中でも一際目立つのが南の空に見える鷹座ーーとデレス人が呼んでいる星座ーーでした。


「これから大晦日の祭祀を始めるのじゃ」迎えに来た族長が言います。四男が作業していた部分がどうなったのか聞きたい所ですが聞く暇も無く祭祀が始まります。


 祭壇で南中する鷹の星座を見上げながら〔大ハン〕が祭祀を執り行いました。〔大ハン〕の左右には熊や狼や鷹などの装いをした集団が取り囲んでいます。彼らは巫術師(シャーマン)と言い祭祀を執り行う各氏族の代表だそうです。彼らは奇妙な踊りをしながら時々奇声を上げておりその中央で聞き慣れぬ言葉を読み上げているようです。読み上げていたのは〔大ハン〕の氏族の言葉だと思いますが正確には分かりませんでした。


 祭壇の前では晴れ着を着た女性達が演舞を待っています。楽器の音に合わせて曲刀を振り動かしながら身体を踊らせています。その様子は昔、薄い本で読んだ天女の様な気がしました。


 そして鷹の星座が南中する瞬間やってきます。それは今年が去年になる瞬間です。その瞬間に併せて〔大ハン〕が引き続き祭祀を続けます。南中に至った瞬間、銅鑼の音がデレスの大地を覆います。大歓声が沸き起こり、〔大ハン〕がゆっくり祭壇から降りていきます。


 集まったデレスの民は、それぞれ自分達の天幕に戻っていきます。


「これでご先祖様への祭祀は終わりじゃ」 族長が言います。


 余韻に浸りたいところですが眠いので寝ることにします。仮眠を取ったとは言え夜も更けていますし。ゆっくり寝る事にします。エレシアちゃんは疲れていたのか隣で半分寝ていました。起こさない様に抱きかかえて天幕まで連れて帰ることにします。



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