エルフの王国2 大賢者の巻
「ようこそいらっしゃいました。賢者様」
お姫様らしい人が仰々しく言いました。
「あ、はい」
……このようの時はどのように対処したらよろしいのでしょうか……何せこのようにかしずかれるのは初めての体験です。里は放任主義ですし、そもそも偉い人は存在しません……里長——話の長い生き字引——が一応おりますが、単に一万年以上生きてる古株なので里長にされているだけでそもそも偉くはありません。里長の見た目では里の若衆とさほど変わらないのですが、ただ話がやたら古くてものすごく長いので周りから恐れられて面倒ごとを押しつけられているだけです。
「そういえば、なぜ私がハイ・エルフだと分かりましたか……あの狩人達は何を言っても話を聞きませんでしたが……そもそもハイ・エルフの存在を知らないようでした」
「それは私達の国には建国以来王家に伝わる預言があるのです……『白き月と青き月が交差したとき、東方の森からハイ・エルフの賢者があらわれ……」
「それで……魔王が復活したんですよね」
魔王の復活はこのパターンの預言の定番ですよね。そもそも私は別に賢者ではないですけども魔王が復活したともなれば戦わなければいけません。
「え、えっと、その先は『……迷子になってるから保護して差し上げなさい』となっております」
お姫様は戸惑ったような声で言いました。私はガクッと来ます。
「よろしいでしょうか……私は、まだ迷子にはなってませんけど……」
「ところで、ここはどこか分かりますか?」
女騎士が突然尋ねてきます。
「……分かりません」
笑顔で堂々と答えます。
「……すると、やはり迷われていたのですね……ここは、森エルフの王国の東の国境にある東の砦です。そして私は森エルフの国の第三王女フィーニアと申します。以後お見知りおきを」
王女がニッコリ笑う。そこは笑うところではないと思います……。
そもそもは私は迷子になってはいないないと断言したいところであります。里からの位置や距離もきっちり把握していますから家に帰ろうと思えばすぐに帰る事ができるのですから迷子の定義は全く当てはまらないと思います。ただ、この土地の名前を知らないだけです。
迷子の定義で延々とやりやっても不毛な議論が続くでしょうから先に聞きいてみたいことを優先にすることにいたします。
「そちら様は王女様なのですか……と言う事は当然王様が居るのですよね」
「ええ、父は都の方に居ります。私めは、国の東の最前線にあるこの砦の守備を任されております。随時、森の中を魔物が侵入してこないか警備しておりまして……。そこに偶然、賢者様が引っかかったわけです。残念ながら警備隊は賢者様の事を知らなかったようで大変粗相をいたしまして……」
また延々と長い謝罪をしはじめそうなので強引に話を断ち切ります。
「最前線と言うことは戦争が起きるのですか?」
「いいえ、東の砦はずっと平穏なのです。ですから私がその任務を遣わされているのでしょう。私めは四王女の中では一番の小物なので……」
四王女とは娘が四人居る事ですよね。きっと国王様と王妃様が頑張ったのしょう。しかし国王様と王妃様がどれぐらい頑張ったのか言うことは聞いてはいけないヤツでしょうから、この質問は切り捨てる事にします。
確か王様が治める国を王国と言います。君主制と呼んでいるやつでしたか……大昔読んだ本の記憶を思い出してみます……とある厚い本に国と言う概念とその政治形態について書いた本があることを思い出しました。その中に君主制について書いてあった気がします。細かいところが全く思い出せません。
私の住んでいる里、二百人ぐらいで自給自足できるますし政治とかそもそも必要無いので需要がない本なのです。政治とか言う代物は水利とか調停とか防衛とかそう言う事をするのですが、里の中で特に調停する事も無いですし良い意味でも悪い意味でも他人に無関心です。そもそも誰もが自給自足できますし。
魔王と戦う機会があったら指揮官などがいるのかもしれませんが、魔王ぐらいであれば魔法の角笛さえあれば十分ですから姉一人で十分でしょう。
しかし、この国は砦だけでも千人以上はいるようですし、この国全部を合わせると一万いや十万は居そうな感じがします……。そこまで人が沢山居るとなると政治が必要になるのでしょう。
それでは次の質問を投げかけてみます。
「それで都とはどこにあるのでしょう」
「それはですね……」
王女が言いかけたところで女騎士が丸めた地図を持ってきました。それは羊皮紙の上に彩り取りの筆で細かく書き込んだ地図で、広げると上で寝転がれるぐらいの大きさはあります。
「こちらがこの国の地図です。本来この地図は秘中の秘ですが、賢者様には特別にお見せしろと言う王女様が申しましたので」
女騎士がそう言うと、王女様が地図の内容を細かく説明してくれました。どうやら王国の東には巨大な森が広がっているようで、その途中で線——国境線と——が途切れて。その先は聖地などと書いてあります。その位置をよく見ると……おそらく、私どもの里のある場所のことをさしている様です。
ところで私どもの里が何故聖地などと呼ばれているのでしょう……。
東の砦から西側に向かうとすぐに森を抜けて大きな草原が広がっており、エルフの王国の本領の様です。どうやらエルフの王国は森の中では無く平原に広がっているようです。その中に一際おおきな赤い円が書かれています。そこは太い文字が『都』と書かれております。どうやらここが森エルフの国王の住まいらしいです。そこからいくつか線が——街道のようです——四方八方に伸びております。北は荒野と山脈が南は山岳と砂漠が広がっており、南と西の国境をすぎるといろいろな国の名前がいるようです。
とりあえず、次は都を目指すことにします。
「……と言う訳なのです」
王女が説明を言い終わると地図を丸めて女騎士が立ち去ります。
まだ、地図を見ている途中なのでしたが突然片付けられました……。西や南にある国の名前を読もうとしていた途中です。ただ王国内については大体わかりましたので問題ないと思います。
「ところで、つかぬ事をお聞きしたいのですが、森エルフと言うのはどうしてそのように横に耳が尖っているのでしょうか……」
「私達は上位種のハイ・エルフとは違いまして、横に耳が伸びております。ハイ・エルフは、耳が縦に尖っているのですね」
ところで、上位種とは何でしょうか?髪の色の違いとか耳の長さの違いでしょうか、それは割とどうでも良い事なので肝心な事を聞いてみます。
「ところで人間の耳はどうなんでしょうか?」
会心の質問を投げかけてみます。
「あ、人間ですか……。確か、人間は耳は尖っておりません。丸い耳をしています」
王女は驚いた様子でで答えてきました。場違いな質問をした気がしますが思わず口にだしてしまます。
「えっ、人間の耳は、丸いのですか?」
それは驚愕した新事実です。耳が尖っておらず丸いと言うことにまず驚きました。そういえば本の挿絵に描かれている人間は耳がかいてありません。あれば耳が無いのでは無く尖っていないからなのですね……一つ謎が解けましたが、新たな謎が浮かんできます……それでは人間は、どのように音を聞いているんでしょう。耳を動かさないと周囲の音が全部拾いきれません……それとも音を聞かないのでしょうか……。謎を解決すると新たな謎が現れる展開になってきました。
この謎を解明するには実際に人間に有って聞いて見るしか無いようです。
しかし、ここで人間について聞くのが悪いような気がしてきたので、人間についての質問は辞めておくことにします。楽しみは実際に人間さんに合ったときの為に取っといた方がいいでしょう。
それよりこれだけは絶対に聞いておかないと行けない質問が一つありました。これだけは絶対にしないといけない質問です。
「王女様、ここにお風呂はありませんでしょうか」
「……あ、賢者様はお風呂をご所望でしょうか」
「あ、ハイ。一日三回は入らないと気分が悪いので……。あと、湯泉があるならなお良いのです」
調子にのっていい加減な事を言ってしまいました。流石に一日三回もお風呂に入りませんが一日中入っている事はありますけど……。
「これは失礼しました侍従達……すぐにお風呂の準備をしてください……賢者様、大変残念な話ですがこの国の中には湯泉はありません。ずっと南の方の山岳地帯にあるとは聞いたことがあります。しかし、それほどお風呂が好きと言うことはやはりハイ=エルフはかなりの清潔好きなのですね……(長いので省略)」
王女が丁寧に言うと黒いワンピースに白いエプロンをつけ、頭の上にひらひらした頭巾の様な物を着けたた女性達が動き始めております。この方々は確かメイドと呼ぶのですよね……。髪の色は明るい緑、金髪、橙などといったいろいろなの髪をしており瞳も碧やら蒼やら紅など様々な様です。
そのメイドの中に混じると黒い瞳で濃緑の直長毛の王女が一際輝いて見えまてきます。しかし、ここのエルフは皆さんカラフルです。里では灰色の眼と灰色の髪しかみたことがありません。
少し思ったのですがこのように人を使うのは非効率だとは思いませんか。こういう作業は精霊さんに全部やらせれば良いのです。しかし、そういえばこの辺りでは精霊をあまり感じませんでした。砦の中は多少居るようですが……人を使うと言うことは……精霊が居ないところで行われる知恵に違いありません。精霊の少ない過酷な環境に耐えられるように考え抜いた結果だと思います。
それより南の山岳地帯に湯泉があるのですね。これは是否とも行かなければなりませんと心のメモに何度も繰り返し書き留めていきます。