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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第二章 デレス君主国編
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遅れましたが続きです

 冬の荒野と砂漠の端境を失踪している数台の馬車が砂塵を立てながら走り過ぎていきます。

 後には何本の轍が残っています。それを後ろ目に眺めています。この車列はエレシアちゃんの派遣団です。エルフの王国からフェルパイア連合に外交使節として赴いている最中で私はその馬車の一つに乗っています。

 フェルパイア連合は南の帝国の間に緊張が漂っておりエルフの王国の支援が欲しいと言う事ですがエルフの王国側としては取りあえず友好使節を送り真意を確かめたい部分があったのですがエルフの王国の四王女は最近不穏な動きをみせている国境の守りから離れる事が出来ず……姪——でよかったのでしょうか——にあたるエレシアちゃんに白羽の矢が当たったわけです。

 実務は外交官がやるので象徴的な意味が強いのですが退任です。そして私ことフレナもエレシアちゃんの護衛として冒険者ギルドから派遣されたと言う訳です。

 この顛末は前章に書いたはずなので割愛します。

 思えばエルフの里を出てきたのは晩秋の事でした。それからエルフの王国を転々として様々な情景を見てきました。大きなお風呂とか公衆浴場や風呂に入りたがらない人達、それからお手製のお風呂。他にも色々な光景が目を閉じれば思い浮かんできます。

 特に綺麗な曲線を描く丘達は特筆すべきことでしょう。

 既に年も暮れており風が吹き付けてきます。冬の荒野は空は一日中深く青く晴れ渡り雲一つみられません。そこに乾燥した寒気が吹きつけてくるので正直寒いと言うより痛いです。大地は枯れた草に細々と覆われそれが地平線まで広がっていました。

 最初は広大な地平線——森の中では見られません——に感動したモノですが流石に毎日見ているとても退屈な気分になるのでこうして馬車の後ろに出来ている長い轍をボーッとしながら眺めています。

 エルフの王国の南の砦を出発した私達はデレス君主国の都に向かっている最中です。デレス君主国はエルフの王国とフェルパイア連合の中間にあり一応フェルパイア連合には属しているもののその領域はフェルパイア連合の域外とされています。言わばオブザーバーと言ったところでしょうか?

 都と言ってもデレス君主国の都は半年ごとに変転としており夏場はエルフの王国の近くに都があるのですが冬場はずっと南の方のフェルパイア連合側に都が移るのだそうです。

 馬車はデレス君主国の中を走っている訳ですが、ずっと人影は見当たらず灌木や鹿などの動物の姿が見えるだけでした。むろん遠目で見れば目に入るとは思います。

「この辺りに人間さんは居ないのですか?」

「こ……この国の住民は、冬場は寒いのを嫌って皆さん南へ移住するそうです」

 エレシアちゃんが言います。綺麗なスカイブルーの髪を持つエレシアちゃんは四王女の従妹にあたり王位継承権こそないものの王家の一員としての資格は十分あるそうです。しかしながらエレシアちゃんは自分の出自が森エルフではなく、そのため精霊魔法が扱えない事をかなり気にしているようです。その代わり治癒魔法を得意とし神祇官(ポンティフィクス)の地位に就いています。神祇官は神官でもなく巫女でも無い神殿関係の役職だそうです。

 普段エレシアちゃんが来ている服は、学校制服と呼ばれるモノですが今回は外交使節なので正装を着ます。秘書官の話では別に学校制服でも構わないそうです。しかし外交に於いてははったりを利かせるのが重要でこれぞエルフと言う格好をすべきだと延々と熱演されました……正直里長の話とどちらがマシかと言うぐらい長々話していた気がしました。

 もっとも今は馬車の中なのでエレシアちゃんは割とラフな格好をしています。それでも十分着飾っている様な感じです。

「一人残らずですか?」

「墓守や戦士などが若干残っているそうですがこの辺りには居なさそうですね」

 ユリニアが答えます。ユリニアは清掃係の正装を着ています。メイドさんと何処が違うと問われても説明しにくいのですが黒っぽい感じです——ところでユリニアとエイニア——面倒なので右と左と書きます——は、なぜこの馬車に乗っているのでしょうか?

「だってさぁ。狭いところじゃ剣も弓も使えないじゃん。こういうとき素手とか小刀みたいなもんが一番使えるでしょ。誰か襲ってきた時、役に立たないじゃん」

 エイニアが言っています。ユリニアと対の清掃係の正装を着ています。着崩しているのが少々気になります。ユリニアとエイニアと言いますか清掃係一般に言える事ですが頭を覆い隠しているので髪の色はよく分かりません。お風呂で見た気もしますが正直覚えていません。

「誰が我に刃向かうじゃと?」

 ノルシアが言います。オーソドックスなワンピース、それも長いスカートに大きなフリルの着いた白いエプロンを付けています。頭は波打つようなホワイトブリムを装着しています。どこから見てもメイドさんに見えますが中身は古代竜です。古代竜は生き物としての性質と精霊としての性質の両方を持ちは土属性の精霊でもあります。この属性により人の姿を取ることが可能だそうです。変身する度、細部が変わるので細かい容姿に関しては記述する意味が無いのですが今のノルシアは茶色の髪と茶色の瞳をしています。

 竜に刃向かう人などそうそう居ないと思いますが、それよりその『我』と言う一人称はそろそろ変えて貰いたいところです。まだまだ人の世界について教えないと行けない事が多そうです。

 本来この馬車には私とエレシアちゃんの二人が乗っているはずだったですが……なぜか五人も乗っている訳です。この馬車は六人乗りなのでまだ余裕はあるはずですがなぜか手狭に感じます。正直他の馬車の方が広々としていそうです。

 出立時は十六人で構成されていた派遣団も途中で武官が一人増え、竜も増えたので十七人と一匹に増えています。私、エレシアちゃん、左右の武官、外交官、二人の秘書官、通訳、会計、私付けの竜、それから御者が八人います。南の砦の地震の一件で派遣団の人員も入れ替わっています。都から着いてきた護衛武官は南の砦の復興作業に借り出され変わりに南の砦で働いていた清掃係の右のエイニアと左のユリニアが護衛武官として着いています。清掃係と言うのはどうやら砦の腐敗を清掃する係らしく隠密行動を主とする武闘派組織でヴィアニア王女の先代が作った組織だそうです。王女も何人清掃係がいるのか把握していないらしいですが上位者は一桁番台と呼ばれる九人です。この二人も一桁番台だそうです……どうみてもそうは見えませんが……気配を悟られない様に動く仕事だそうですから弱そうに見せかけているだけかも知れません。

 清掃係は理気術と呼ばれるエレメンタル(元素魔法)エンチャント(付与魔法)とは異なる東方からと来たと言われる特殊な魔法を使います。私の見立てでは体内の魔素(マナ)のみを利用する下代魔法(ローエンシェント)の一種です。

 御者も半分ぐらい入れ替わっております。

 それから竜です。今は便宜上人の姿をしていますが中身はまごうことなき古代竜の一族です。生態系の乱れで古巣を追い出され新しい住処を探す為に洞窟ごと移動し地震を起こしていた迷惑極まりない人物……竜物です。そのまま居られても迷惑なので人の姿をさせて私が監視することにしています。ヴィアニア王女がノルシアと言う名前を付けました。

 私——仮の名をフレナと名付けました——は、大きな森の深部にある里に住んでいるエルフです。エルフの王国では上級(ハイ)エルフと呼ばれ灰色エルフに分類されるそうなのですがなぜ《《上級》》なのかは未だに分かりません。

 なお共通語においてエルフは上級種と一般種の二種類に分類され私達、灰色エルフ以外に白エルフ、太陽エルフ、月エルフなどが上級エルフらしいのですが他のエルフは昔聞いた事がある様な無いような感じでよく知りません。昔読んだ本にはそんな名前が出てきたきもしますが……。それはともかくエルフの王国のエルフと里のエルフは見た目が若干違います。耳が縦に飛び出しているか横に飛び出しているか髪の色が灰色かそうで無いかといった感じ。ちなみに森エルフは濃い緑色(ダークグリーン)の髪を持ち、草原エルフは明るい緑色(ライトグリーン)、里エルフはバラエティに富んだ髪を持ちます。

 私は里で千年近く育ったわけですがその里の中央には太陽に届くかと言うほどの高い塔があり、そこには本が沢山詰まった図書館があります。無造作に本が置かれているその図書館で私は外の世界について書かれた薄い本や人間についての本を沢山読んで育ちました。それから人間についての興味が湧き出しこうして外の世界を旅にしているわけです。しかし里を出て最初にたどり付いたエルフの王国でかなり長い間滞在し人間さんは冒険者ギルドや外交官に居る特別な方々しかまだ知りません。一般的な人間さんに関してはこれから赴くフェルパイア連合で沢山あえるでしょうか?現在、期待と不安が交錯しています。騎士みたいなおかしな連中ばかりだと困ります。


 ……などと暇なので今まであったことを轍を見ながら色々整理してみました。


 その間も馬車は寒空の荒野の中をひたすら走っております。代わり映えの無い風景がひたすら繰り返すだけの荒野です。雲一つ無く寒い風が吹き付け荒涼とした大地が広がっているだけなのです。

 南の砦からデレス君主国の冬の都までは60エルフ里——10エルフ里が大体1日で移動出来る距離なので6日かかる計算になります——ほどあるそうでまだまだこの情景が続くそうです……。

まだかかりそうです。

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