エルフの王国38 南の砦 二日目の巻1
昨日は悪夢でも見てたのでしょうか、しかし今日は爽快な目覚めです。
現在、中央の塔に付随した屋敷の中で早めの朝食を取っているところです。結局昨日のドタバタは一体なんだったのでしょうか……。騎士と言うのはすべからず変態の様なので深く考えても無駄な気がします。それより朝食を楽しむことにします……。昨日の味の無い餌と違って朝食はちゃんとしたモノが出てきました。朝食にはパンと草に卵を焼いた奴を添えて食べています。パンは、ややいまいちな感じは否めませんが、焼いた卵に塩をかけるとそこそこ美味しいです。
「フ……フレナ様、おはようございます」
朝食を楽しんでいるとエレシアちゃんが起きてきました。
「昨日はよく眠れましたか?」
「え……え……フレナ様のおかげで」
エレシアちゃんは、ここのところずっと緊張しておりましたからそこから解放されて疲れが出たと思います。そういう面でいえばあのドタバタも悪くはなかったのでしょうが、こちらは精神的にかなり疲れました……。それにルエイニアもまた姿をくらませていますから警戒しないと行けません。まだこの砦の中に潜んでいそうです。
それより秘書官や外交官の皆さんはどうしているのでしょうか……。御者の皆さんも無事食事にありつけたでしょうか?エレシアちゃんに話を聴いてみるとどうやら大丈夫だったようです。少し肩の荷がおります。食事も少しまともになりそうです。それより出立出来るのは一体何時になるのでしょう。現在、秘書官や外交官が次に入る国との調整を行っているらしいですが、一寸時間がかかりそうな雰囲気だそうです。あまりここには居るのは良くないのでさっさと出たいところですが、調整が終わらないとなると仕方ないですね……。きっと調整と言うのは里長の話をひたすら聞かされるようなモノなのでしょう。かなり大変だと思います。何か労うものでも用意しないと行けないでしょうか……。
「い……いえ、彼等もお仕事でやっていますので……」
「お仕事ですか」
「……対価は国がちゃんと払っている……はずです」
エレシアちゃんは後半部分を自信無さそうな感じで言っています。そこに王女が声をかけてきます。
「賢者殿は、朝も早いのだな。エレシアちゃんもおはよう」
「これはヴィ……ヴィアニア様、申し訳ありません気がつきませんでした。おはようございます」
「そんなに堅苦しくなくてもいいぞ。妾が許す」
「あ……はい」
どちらも可愛らしいです。
「ところでクァンスス達はどうなるのでしょうか?」
「現在、清掃係が取調中だ」
「ところで清掃係とは一体何なのでしょうか?」
ただお掃除するだけならメイドさんで十分です。そう言う大仰な名前を付ける必要は無いと思います。
「綱紀粛正をになう妾の秘密部隊じゃ」
「それでは、最初から清掃係に調べさせれば良かったのではないでしょうか?」
「……んん……まぁそうだな……塔の中でかなり急を要する用事があってだな。しばらく外のことがおろそかになっていただけじゃ。決して清掃係の存在を忘れていたわけじゃないぞ」
王女が顔をうつむきながら言います。やはり可愛いです。
「まぁ、奴らは奴隷に落とされてでも下働きでも良いからこの塔に置いてくれなどとほざいているがな。これだけ砦の中を滅茶苦茶にしてくれたし、良くても放逐だろう……妾にも責任があるからな……この紙を返してくれと言われたが却下だこれは全部焼却する」
懐から沢山の紙を取り出します。昨日回収した王女の肖像画ですね……。
「これが、まだ塔の中にありそうだな……それも回収しなければならぬな……」
「一枚貰ってもいいですか?」
「賢者殿、汝も向こうに行く気か……」
慌てながら王女が言っております。
「ほんの冗談です」
「なんだ冗談か……」
王女がほっと胸をなでおろします。
「では北の砦に送ると言うのはどうでしょうか?」
自然崇拝とかやってる人達なら、ああいう生活も平気だと思って助け船を出してみます。
「んー問題は、北の塔の守り手が居なくなることだな……賢者殿変わりを努めて貰えぬかな?」
「いえ、私は単なる冒険者で王国に仕えてはいません。今回は国王の依頼でエレシアちゃんの護衛をしているだけですから……」
一切間違った事は言っていないはずです。
「ん……それは困るな……誰か良さそうな奴は知らぬか?」
「レ……レシュティリアさんとかどうでしょうか?耳が少し気になる意外はちゃんとしているかと思います」
エレシアちゃんが猫耳騎士を推薦しております。
「だが、あやつは確か姉の懐刀だよな。引き抜いても良いものだろうか……?」
生真面目な猫耳騎士の胃腸の事を考えるといっそのこと引き抜いてこっちにいた方が良いと思います。少なくとも南の砦は北よりはマシだと思えます……北の砦はには脳筋しか居ませんし、真面目な性格ほど胃腸によろしく無い気がします……猫耳騎士が居なくなっても北の砦は気合いでどうにかすると思います。
「問題無いと思います」
そこでエレシアちゃんの援護射撃をしておきます。
「……ではその方向で考えておくか……ただの配置転換で済ませるとはまぁ妾もまだ甘いかな」
「いえ、それで十分過ぎると思います」
「早速、打診する事にするかの……。賢者殿、連絡役には誰が最適だと思うか」
「ルエイニアが良いかと思います」
「そこでルエイニアは今どこにいるのじゃ」
「その辺に潜んで居るのではないでしょうか?」
「そ……そこで見ました」
エレシアちゃんが指さした方にメイドに扮装しているルエイニアの姿が見えます。何やら幻術で誤魔化そうとしているようですが、その気配ははっきりと感じられます。
「ルエイニアさん、そこで聞いていましたよね」
「え、僕はルエイニアではありませんよ」
あからさまに怪しい反応をしました……。試しに幻術を解除してみます……どうやら上手くいった感じです。ルエイニアの使う幻術は私とは術式が違うはずですが解除が上手くいった理由はよく分かりません。機会があったら調べたいと思います。
「やっぱり、バレたか……」
「……バレるの承知で潜んで居ましたよね」
「ちぇ、なんか面白くないなぁ」
「それなら北の砦までひとっ走りしてくれませんか」
「そのお代は高いよ」
「お代はヴィアニア様が出しますので」
「ええい、妾を置いてきぼりにして話を進めるな。こいつを持って姉上のところへ行くが良い。報酬ならギルドに払い込んでおく」
王女はどこからか取り出した手紙をルエイニアに押しつけます。
ルエイニアは、少しふてくされたような表情をしていましたが観念したように言います。
「そこまで言うなら行きますよ」
「では、行ってらっしゃい」
「すぐは出ませんよ。今から朝ご飯食べるもん」
ルエイニアが拗ねております。ルエイニアはメイドを呼ぶと朝食を頼んでいます。朝食が目の前に置かれるとパクついていました。
「ヴィアニア様、それではお先に失礼します」
ルエイニアを放置して一旦部屋に戻ることにします。
それではまず、これから行くにデレス君主国付いて予習をしたいと思いますが……資料が何も無いです……本が少ないのは問題あると思います。ここから一番近い図書館は王都にあります。近くに居るメイドに聞いたところ南の砦も本らしき本は無いそうです。仕方ないので秘書官に話を聞きに行くことにしましょうか……。
秘書官は忙しく動き回っていて捕まりませんでした……。仕方ないのでエレシアちゃんと……エレシアちゃんも捕まりません。秘書官に捕まっているのでしょうか?
「ところで、賢者殿、何を暇そうにしているのか?暇なら妾の相手をするがよい」
不意に王女がこちらに話しかけてきます。逃げた方が良いでしょうか?
「ヴィアニア様、今調べ物をがありまして、手が離せないのですけど……」
「大した事ではあるまい。妾に付き合うが良いぞ」
この王女は一体何を言っているのでしょうか……。
「私は、調べ物で忙しいのですけど……」
「なら妾も付き合うぞ」
そう来ましたか……調べ物は正直手詰まり状態なので打開策を見つけたいところですが、それを王女に頼むのは泥沼に入りそうな気がします。ここはやんわり断りたいところです。
「いえ、この程度の事は一人で出来ますので……」
「賢者殿、そう言わずにな妾もまぜろ」
王女がヤケになれなれしい気がします。やはり何か企んでいそうな気がします。警戒は怠らないことにします。
「ヴィアニア様、それより、クァンスス一味はほっといて良いのでしょうか?」
「それは、清掃係に全部任せてあるし、ルエイニアが帰ってきてからでも良いだろ」
……そう返すとは思いましたけど……。
「南東の砂漠の異変の方はどうするのですか?」
「それは、起きた後でもいいじゃろ」
「モリーヌスはまだ寝ていますか?」
「三日ぐらいは起きない様に命令しておいたぞ」
「大人しく寝ているのでしょうか?」
「寝させるように命令しておいたから問題ない」
どうやら今日も悪夢が続くのでは無いかとそんな予感がしてしまいます。まぁ気のせいでしょう。
それよりお風呂に入りたいところです。何だか昨日の疲れがどっと出てきましたし、何より入れる時にはお風呂に入った方が良いです。それには後を付いてくる王女をどうにかしないと行けません。お風呂は湯船にお湯を張って貰わないと行けないのですが……いっそのこと火精でお湯を沸かしてしまうのも一興かもしれません。ただ精霊は館の中にはいないので、塔の中に移動しないと行けないのです。塔の中に入るには王女の許可が要ります……。王女に付き合うか突っぱねるべきか大変悩む所です。
あれこれ考えても仕方有りませんし、取りあえずお風呂に入ることにしました。
そのため、王女を振り切って一旦部屋に戻ることにします。
メイドにお風呂の準備を頼むとお湯を張るのに時間がかかるそうなのでその間に昨日の出来事を整理したいと思います。
巾着の中から紙を取りだして昨日の出来事を思い出しながら筆を走らせていきます。
昨日の出来事を振り返ると思わず溜息が出てしまいます……。何やら既に遠い昔の出来事の気がします。
「ふぁぁ……」
一旦、筆を置いて背伸びをするとメイドさんの呼ぶ声がします。
そういえばお風呂をお願いしていました。そこで湯船の方に向かうと二人のメイドさんが待っています。
……
……
「ところで、なぜヴィアニア様がここに居るのでしょうか?」
「妾が居たいから居るのだが悪いか?」
「いえ、悪くは無いのですけど……」
王女は、いつの間に部屋に来たのでしょうか……。深く考えても仕方ないので取りあえずお風呂に入ることにします。
やはりお風呂は気持ちいいものです。疲れがサッパリします。もう少し足が伸ばせると良いのですが……。
「……ところで……ヴィアニア様、なぜそこにいるのでしょうか?」
「メイドと言うものはこうして主を待っているものではないのか?何なら身体も洗うか?」
それでは、フィーニアみたいですよね……流石に面倒そうなので遠慮しておきます。
「……そもそもなぜメイドの格好をしているのでしょうか?もしかして昨日の着てみてハマったとかそう言うのではないでしょうね……」
「……」
どうやら図星だったようです。
「だって、だって妾も自由に遊びたいもん。王族という身分は結構面倒だもん。姉上達は天然だからいいけど妾はキャラを作らないとやってられないもん」
なんだか幼児退行している気がするのですが……王女はどうやら拗ねているようです。
「分かりましたから……後で、相手してあげますから外で大人しくし待っていてください」
「しょ、しょの言葉にいちゅわりは無いにょな」
「な、無いですけど……」
「では、後で妾に付き合って貰うぞ」と言うと王女は部屋から出ていきます。




