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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第一章 エルフの王国
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エルフの王国35 北の塔の巻2

 現在、北の塔の中に居ます。漂う空気が微妙に異なる事からはっきり理解出来ます。ここは砦の中でもかなり異質な空間になっています。南の三つの塔と異なり北の塔だけこのような空間になっているのかは謎です……。中央の塔も少し異質な感じがしましたが似たような感じでしょうか……。

「塔の中と行っても、まだ地下十階だがな……ここから上に向かわなければならぬ」

 王女が上の方を指さします。釣られて上を見ますが単なる石の天井でした。

「賢者殿、上の階の様子は分かるか?」

 なんとなく王女に犬扱いされている様な気もするのですが、気の所為でしょうか……。

 それはともかく、聞き耳を建てると上数階は誰も居なさそうです。十階以上、上はノイズが多すぎてよく分かりません。結構沢山の人が動いている事だけが分かります。

「ここから数階は誰も居ません。その上はよく分かりません。地上は人が出入りしているようです」

「んー、特異点は見つからぬか……」

 この塔には特異点などと呼ぶものが有るのでしょうか。ところで特別に異なる点とは一体何なのでしょう。その辺りについて王女に聞いてみます。

「そのようなことか?特異点は異変の起きている場所の事だぞ」

 地下の方では異変みたいなものは感じ取れませんでした。最も上の方は分かりません。

 北の塔は、南の三塔と違いかなり広く作られています。今居る地下十階は大きな円形の倉庫になっているようです。もっとも周囲には何もありません。石の床と石の天井がひたすら広がって居るだけで、高さは手を伸ばしても天井には届かないぐらいの高さがあります。跳躍すれば天井に付くことは出来ますが、先程の地下道に比べるとかなり広い空間になっています。

 これぐらい広いと背伸びができるので取りあえず、凝り固まった身体を動かしておきます。これから忙しく立ち回りをしないと行けなさそうな気がしますので……。

「さて、これから奴の企みを暴くのだ。まぁ、まずここの塔を上に登っていく必要があるのだがな、この地下十階は秘密の階であるから、塔にいる奴もここに空間があるのは恐らく誰も知らぬだろう……まぁそう言う訳で出入り口も少し特殊でだな……」

「特殊と言いますと?」

「いや、天井に出入り口があるのだ……だが妾では天井に手が届かないのでだな、そういうわけで賢者殿よろしく」

「つまり、ヴィアニア様を担いで上の階に跳躍しろと言う話でしょうか?」

「簡単に言うとそう言う事だな」

「まぁ分かりましたけど、出入り口はどうやって開けるのでしょうか?」

「それはだな……こうやって、天井に紋様を綴ると出入り口が開く様になっている」

 王女が、上に向かって指を動かす仕草を見せます。

 この高さだと担いだだけでは届かない気がします。肩の上に立ってもらってようやく届く位です。

「それでは上に担ぎ上げますので、その紋様を書いてください」

 場所を教えて貰い、そこで王女を肩に載せてから立ち上がります。王女はそのまま起ち上がり、天井に紋様を書こうとします。

「賢者殿、もう少し高くならんか?」

「そういわれましても、踵をあげた状態が限界です」

「まぁよい。他の手を考えてみよ」

 そういわれても……と周りを見渡すとハシゴが見えました……。暗闇に溶け込んで少し見にくい場所にハシゴが立てかけてあります。以前ここに来た人が置いていったのでしょうか?

「そこにあるハシゴを使ってみましょう」

「ではハシゴをしっかり抑えていろよ……絶対にその手を離すなよ……あと揺らすなよ」

 王女にそう言われると揺らしてみたくなりますが、ここはぐっと我慢することにします。王女はハシゴをよちよちと登ると天井に紋様を書き上げます。紋様を書き終わると天井が光だしてゆっくり虚空を見せ始めます。

「これで地下九階にいけるな」

 地下九階から五階までは同じ構造です。ハシゴを担いで上に昇っていきます。地下四階は、いくつかの部屋に区画が区切られており、物が乱雑に置かれている部屋にでました。

「地下四階は、相変わらずだな……」

 乱雑に物が散らばった倉庫の様子を見て王女が言います。

「ここから先は、塔の従業員も来られる区画になっている。良く注視したまえ。賢者殿」

 そこで私は、聞き耳を立ててみました。近くに気配は感じ取れません。上の階はどうでしょうか……恐らく大丈夫な気がします。しかし、上二つの階は少し出入りがあったような気配がしました。

「ヴィアニア様、地下三階までは人の気配が無さそうです。しかし、地下二階は出入りが有った気配があります」

「んー、地下三階は武器庫、地下二階は酒の貯蔵庫だ。このあたりは出入りがあってもおかしくは無いな。地下四階は要らないもの置き場だな……少し整理しろと何度も言っているのだが、このザマよ……」

 王女が、周りを見渡しながら呆れかえっています。

「それより、賢者殿。ここから変装が必要だな。それでは着替えるか」

「ヴィアニア様、何に着替えるのでしょうか」

「これじゃ、妾達は、まずこの服に着替えるのじゃ」

 そこに掲げたのはメイド服です……。一体どこから取り出したのかさっぱり分かりませんが王女が二着のメイド服を持っています……。この辺りに転がっていた感じでも無い様です。

「……達って私も入っているのでしょうか?」

「それは当たり前だろ?」

 王女が不思議そうな顔をして私を覗き混みます。

「ではでは、着替えるぞ」

 ……

 ……

「こんな感じでしょうか」

 くるりと回ってみます。なんだか気恥ずかしいです。

「んー、賢者殿よくお似合いだぞ」

「いえいえ、ヴィアニア様も可愛らしいです」

「……ん?妾をバカにしたか」

「いえいえ、褒めています」

 《可愛い》と言う言葉に過剰反応したような気がします……。

「では、幻術とやらをかけてくれ。この髪の色ではバレるじゃろ」

「それもそうですね……」

 濃い緑(ダークグリーン)の髪の色は、森エルフの証です。この髪の色のメイドは逆に不信にみられます。その意味では私もとても目立ちますね……。

 それでは地味に見える様に幻術を書けます。

「えいっ」

 桃色と水色の髪はどうでしょうか……。

「おお、賢者殿……意外にいけるぞ……ところで背は高く出来ないのか?」

「ここから動かないつもりであれば可能なのですが、移動するとなると幾つか問題があります」

「それは何ぞ?」

「身体の感覚が狂うので動きに支障がでてしまいます。慣れるまで少し時間がかかりますけど……」

「ええい、その程度の事か……やってみせよ」

「……どうなっても知らないですよ」

 ……と言う訳で、王女の身長を私より少し高くしてみました。

「うむ、なんだか気持ちが良いぞ……おっっと」

 バランスを崩して、よろけております。

「……支障が出ると……」

「この程度、妾にとっては支障とは言わんわ。ほら、賢者殿さっさといくぞ」

「あのーヴィアニア様、妾と賢者殿も辞めた方がよろしいのでは……壁に目ありと言いますし、その口調も改めないと」

「ああそうだな。今はメイドだったな。メイド風の呼び名に変えておこう」

「それでどういう呼び名にしましょう。私はフレニアにしようと思います」

「フレナだからフレニアか……捻りもない安易な名付けだな。でわ妾はミーニアと名乗るか」

(ちなみにミーンは大きいと言う意味です)

「では、ミーニアさん、上に行きますよ」

「わかった、フレニア」

 それから、倉庫の中をかき分けて地下四階を抜け出そうとしますが、内側から鍵がかかっています。ただ鍵の仕掛けが単純なので、針金一本で開けられそうな感じですけど……。

「鍵なら、わら……私が持っている」と王女はどこからから鍵束を取り出すと扉を開けます。扉を開けると真っ直ぐ廊下が続いており、その先は地下三階への階段がありました。

「それでは行きましょうか」

「しかし、メイドの口調は難しい……な」

 王女は、廊下の壁にぶつかりながら進んで行きます……どうやら身体のバランスが上手くとれていないようです、無理に背を高くするのは動作が支障がでる言ったはずなのですが……王女は構わず辺りに身体をぶつけがら進んで行きます。

「しかし、この身体は動きやすいな」

 どうも無理をして言っている気がしますが気のせいでしょうか。

「何、もうなれた」

 どうみてもまだ慣れていない気がします。

 地下三階、地下二階はそのまま悠然と通り過ぎます。この辺りは倉庫が幾つかあって、地下三階は防具、武器などの保管庫、地下二階は、酒——毒の一種——が置いてあります。

「この階、全部が酒置き場なのでしょうか?」

 これだけの毒があると大惨事では無いのでしょうか……。

「うむ、ここは希少なワインなどの酒が置いてある。中には千年物もあるぞ……」

 ワインとは葡萄から作った酒の事を差すようです。ワインは熟成させることで味や風味を増すモノがあり、二十から三十年ぐらい経ったものが希少品として扱われるそうですが、百年経ったものは特に珍しく、千年物になるとほとんど無いそうです。ワインもこれだけの時間が経つと飲めるものでは無い気もしますが、キチンと保管すれば千年経っても飲めるそうです……。

「千年物……と言うことは千年前に作った酒があるのですか?」

「言い伝えによればそう言う事だな……まあ、こいつは誰も飲んだことが無いから実際に旨いかどうかは知らんが……千年前のワインと言うのが最大の価値だな。ここの倉庫には希少な酒が置いてあるが数自体はそんなに置いてない。……まぁ飲む奴がいないからな」

「ヴィ……ミーニアさん。お酒は、無理に飲む必要は無いと思いますけど」

「まぁ、兵士の憂さ晴らしにこういうものが必要になるのだ……だから、常備してあるのだが、自然崇拝をしている北の砦の連中は、加工品は一切取らないとか抜かして酒も一切飲まないらしいな……だがあいつらは常時酔っ払っているみたいなモノだから酒飲みよりタチが悪い」

 王女の後半の語気がちょっと強めになっています。少し興奮している気がしますが……大丈夫でしょうか。

「落ち着いてください、ヴィ……ミーニアさん。」

「賢……フレニア殿。もちろんわ……私は落ち着いていると……ます」

 王女が少し焦っているようです。今まで見せたことの無い顔をしています。なんだか可愛らしくなってきました。

「こうしてみるとエレシアちゃんの親戚なんですね」

「エレシアには似てはおらん。あのような繊細な心など持ち合わせてわおらぬ。なにせ妾だからな」

 むしろムキになっているところが余計に可愛いらしいです。

 そろそろ地下一階にたどり尽きます。地下一階は食料庫や物置があるようで食材を取りに来たり、掃除をしているメイドさんが居ます。その中をあたかも用事があってどうどうと通り過ぎていきます。

 ……どうやら気がつかれなかったようです。と言うより気にとめなかった方がより近いかも知れません。

「それでだ、賢……フレニア殿、そろそろ上の方の様子は分からぬ……りませんか?」

「ミーニアさん。そうですね」

 私は聞き耳を立てていきます。ついでに鼻も利かせてみますが、泥臭いのやら青臭い草の匂いが漂ってきたので鼻は遮断することします。耳を研ぎ澄ますと上の方から金属音が聞こえてきました。

「どうやら上の方に十数人ぐらいの武装集団が居るようです」

「ふーむ、どうやら奴らがいるようだな。では上にあがるとするか」

 そこで偉そうなメイドに突然呼び止められます。

 もしかしてバレたのでしょうか……どうしましょう……。

「あなたたち、見慣れないメイドね。一体どこから来たのかしら?」

「妾……私は、中央の塔から応援に来たメイド……でございます。このように指令書を持ってお……ります」

 悠然と王女はそう言うとどこからともなく取り出した書面を偉そうなメイドに突きつけます。メイドはその書面の文字をじっと眺めて、静かに首をもたげると「確かにヴィアニア様の文字ですね……。正しい命令書です。しかし、おかしいですわ……。今日増援が必要な用事があったかしら……」偉そうなメイドが首を傾げています。

「私も分かりませぬ。ただ、ヴィアニア様の命令で来ておりますゆえ……」私はついでにそう言って起きます。

「なら仕方が無いわね。ヴィアニア様が何を考えておられるかは分かりませんので。ただくれぐれもクァンスス様の邪魔をせぬように」

「現在、クァンスス様は塔におられるのでしょうか?」

「つい先程、戻られたばかりです。疲れていると思われるので用事が無い限り上には行かないようにしてください」

「「はい、わかりました」」

 二人でハモって返事をします。

 偉そうなメイドが通り過ぎると王女が言います。

「誰が、そんなの守るか。さて、さっさと上にいくぞ」

 こうして私達は塔の二階に昇っていきます。


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