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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第一章 エルフの王国
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エルフの王国29 派遣団の出立

 図書館で軽く暇を潰して屋敷に戻ります。馬との会話も忘れません。さらば馬よまた会える日まで……。

 そして幾日か過ぎ、出立の日が来ました。

「エレシアちゃん、いってらっしゃーーーーーーーーーーい」

 王妃が、エレシアちゃんにハンカチを振っています。

 今現在、王宮内の広場で壮行会が行われている途中。立食形式で様々な食事が並んでいる最中、ちょうど王妃の演説が終わったところです。

 もちろん私は並んでいる皿から食べ物をごっそりのせて食べています。王妃の話はとても長いので、話を聞くより聞き流して食べるが吉です。現在皿の上には小麦粉のパンと挽肉を丸めて焼いたものと草が載っています。丸めた挽肉は少々食べにくいので草と一緒にパンに挟んで食べることにしました。これが以外に美味しいので周りの人にも勧めていました。

 当然のごとく私の周りに居る皆さんも同じように王妃の話を聞き流して、皿をつついているので食べているので問題ありません。

 聞いたところによると王宮内のパーティは、いつもこんな感じになって「王妃が長話している間に食事を取り合うのです」と言う話でした。

 広場の中には大勢の人が居ます。最低でも里二つ分の人がいるでしょうか……。集まった人は各自、エレシアちゃんに激励の挨拶をしていきます。エレシアちゃんの周りは人だかりが出来ており近づくことも出来ません。出発すればしばらく二人きりですし少し我慢です。それから私の方にも何人か挨拶に来ました。その中に大使館から挨拶に来たドルスさんがいてまた髭の話で盛り上がりました。

 壮行会の中には人間さんや冒険者ギルドのメンバーももちらほら居るようです。

 そして中央には「エレシアちゃん、いってらっしゃい」と書いてある大きな垂れ幕がぶらさががっています。すさまじく大きな垂れ幕です。エレシアちゃんはそれを見たとたん恥ずかしそうにうつむいてしまいました。


 ……

 ……


「もしかして、準備ってこれのことですか……」

 不安に思って演説を終えて戻ってきた王妃に尋ねてみました。

「いえいえ、それだけではありませんよ。まぁ100人ぐらい動員して三日三晩かけてようやく間に合わせましてけど……ホントは王宮全部に張り巡らせたかったのですが、それまでやるには時間が一年ぐらい足りませんでしたわ」

「なにか力の入れ所が違うと思うのですが……」

「いえいえ、エルフの王国の威信がかかっていますからこれぐらいしないとダメなのですわ。今回の外遊は他国にエルフの王国の力を知らしめるもの相手に舐められるような貧相な壮行会をやったら行けません。これは国と国との関係ごとの根幹にかかわることなのです」

 見せつける威信の方向性がかなり違うと感じたのですが……王妃が言うでもしかして正しいのでしょうか……よくわからなくなりました。

 奥の方を見ると王様がこっそり覗いて居ました。王様は奥の方で執務中と聞いていましたがこっそり覗いていたようです。それを王妃がめざとく見つけだします。

「あらあら、王様もエレシアちゃんを見送りにきたのですか……そこに隠れてないで出てらっしゃい。ミュンディスフラン君」

 王妃が国王陛下を容赦なく引き釣り出してきます。

「おい、執務の休憩で通りかかっただけだ」

 国王の抵抗もむなしく王妃に引きずり出されてきました。

「ほらほら、王様も挨拶する、する」

 国王陛下を容赦なくひっぱたきます。

「おお、エレシアよ。国王の名代として異国と親交を深めてくるが良い。そして賢者殿、エレシアをよろしく頼みましたぞ」

「そんなお堅い言い方じゃだめでしょ。もっと親しみを込めてもっと砕けた言い方をしないといけませんわ。ほらエレシアちゃんも固まっています」

 王妃はそう言っていますが、エレシアちゃんが固まっている原因は根本的に違う気がします。はっきり言えばどん引きなのですが、もしかしてエルフの王国ではこれが正しいのでしょうか.……。

 近くに居たメイドを捕まえて聞いてみます。

「これ、どうおもいますか」

「それは、どういう意味でしょうか?」

「いえいえ、このように大きな垂れ幕を下げて、得体の知れない壮行会をしている事についてです」

「王妃様が正しいといえばそれは正しい事ですわ。きっと素晴らしいことです」

 他人事の様なセリフを返されました。

 そのうち楽器を持った一団が広場の中央にあるステージにあがり、演奏を始めます。何種類かの金属で作った楽器や大きな笛らしき楽器を担いで悠然とした音楽を奏でます。音響は王宮の中に響き渡り、軽快で爽快な旋律(メロディ)が流れ初めます。時には悲しげで荘厳になり、麗らかで晴れやかになり、律動(リズム)と共に徐々に盛り上がって行きます。最後は王宮全体を巻き込み静寂と共に終わります。

 音楽が終わると一団は挨拶し、周りから大きな拍手なされました。

「これは、エレシアちゃん賛歌よ。今日の朝完成したばかりなの」と王妃が言いいました。


 壮行会が終わるとようやく出立準備です。必要なモノは〔なんでも巾着ん〕——収納(ストレージ)の魔法を付与(エンチャント)した袋にそういう名前をつけました——の中に入れてあります。

 外交官から公女の従者としてふさわしい姿をするようにと言われましたが狩人の軽装で十分ですよねと抵抗してみます。本に出てくるエルフはみんな格好していますから問題ないと思います。人間さんから見れば恐らくこちらの方がエルフとして正しい姿だと思います。変にかしこまったエルフはエルフでは無いと思われるのではないでしょうか。そんな感じで抵抗しています。

 それならせめて賢者らしい格好でお願いします逆に頼みこまれています……いえいえ賢者の姿とかダメですよ。そもそもフィーニアの勘違いじゃないですか。職業では無くあだ名のようなものでしかないのです。職業は魔法剣士です。なので魔法剣士……いえ狩人の格好で十分だと思います。永遠と抵抗を続けていたらやっとのことで折れくれたようです。

「フ……フレナ様、国からでたら幻術はとかれるのでしょうか……」

「解いた方が良いでしょうか?」

「お……恐らくその方が安全だと思います……」

「それはどういう意味でしょうか……」

「そ……そのうち分かると思いますが、元の姿で見慣れないエルフぐらいに思われた方が恐らく安全です……」

 この姿だと人間さんの世界はそんなに危険なのでしょうか……。そもそも田舎村のエルフと勘違いされるように変装していたわけで、正体がばれている今となっては変装する必要は全くないのですけど……。

「この姿で冒険者ギルドには登録されていますけど……それは大丈夫なのでしょうか」

「ああ、それなら大丈夫。僕が保証するから問題ない。幻術を解くと灰色の髪で縦長い耳だよね。すでに直してあるから」

 どこからか声が聞こえてきます……ルエイニアがいつの間に何処に潜んでいた様です。そこだなと場所を見定めてると既に消え失せています……。ここでようやく腑に落ちました。ルエイニアは、幻術が使えるのです……しかも私とは違う系統の幻術が使える様です。私の使っている幻術は星を起源とする系統のものですが、ルエイニアはそれとは全く違う幻術を使いこなしている様です。それで気配に気がつかない訳ですか……。後は種さえわかれば後はどうにか対処できるはずです。もちろんルエイニアの使う幻術の系統さえ分かればの話ですけど今のところは不明です。


 そんなこんなで、ようやく出発です。ただ大げさな壮行会と違いエレシアちゃんの外遊使節はこぢんまりしております。四頭立ての馬車が二台で、そのうち一台に私とエレシアちゃん、もう一台にお付きの外交官と護衛武官が乗ります。秘書官と通訳、それから会計が付くらしいです。

 四頭立ての馬車だけあって中は大きくて広いのです。一台は6人乗りの馬車を二人で占有している訳ですから横になって寝ることも出来ます。馬車の中には簡単な仕切りがありプライバシーも保てる様になっています。王女クラスになると一人で一つの馬車を使うそうですが、国内の移動早馬に乗って移動するらしいので馬車で移動することはまりないらしいです。国王クラスになると二つの馬車を使い、それに四台以上の護衛がつくと言う話です。

 馬車の中にお風呂が無いのが残念です。聞いてみたところ誰も考えた事がないそうです。そもそも無理で無いかと言われました。しかし、お風呂付きの馬車って素敵ではありませんか。機会があったらお風呂付きの馬車を作ってみたいと思います。

 馬車以外には補給用の大型の荷馬車が二台ついています。これには衣裳や食糧などを載せてあるそうです。

 そしてこれらの馬車を引く御者がいます。荷物運びを兼任し、運転は交代しながらするので8人いるそうです。

 派遣団は総勢16人になります。こぢんまりと言っても大きなキャラバンです。

「ほんとはこの三倍ぐらい用意したかったのよね」とは王妃の言葉なのですが……流石に約50人を引き連れて移動は流石に面倒だと思います。

 各国には連絡網が張られており、何かあったときそこから連絡が入るそうです。そのための仕組みが馬車の中に細工されているそうです。念話(テレパシー)の魔法でも使うのでしょうか……。ところが念話が使える魔術師はかなり少ないと魔法の本には書かれていました。

 馬車が王宮を出て、都を後にします。王妃の送り声が都の外まで聞こえてきたのは気のせいでしょうか。


 馬車は南の街道を進んで、南の砦を目指します。流石に大型の馬車が四台もあるので、普通の旅より時間がかかるそうです。荷馬車で3日でかかるところが4ー5日かかってしまうらしいです。それから馬の数が多いのでそれだけの食糧も補給しないといけないそうです。王国内では街に立ち寄るときに補給するそうです。街道には要所要所に国王直属の駅と呼ぶ施設があるそうです。そこには馬の餌や交代人員がおかれており簡易休憩所もあるそうです。国王直属なので王家の馬車しか利用できません。早馬などはこの駅を利用して王国内なら一日以内に情報を伝達する事ができるそうです。どうりで噂が伝わるのが早いわけです。


 南の砦までは順調な旅でした。王国内の移動ですから夜は豪華な宿屋に泊まり、お風呂も入り放題です。昼間は馬車の中でエレシアちゃんとお茶を飲みながら作戦会議です。

 作戦会議と言っても今のところは雑談するだけですが今一番大事なことです。

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