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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第一章 エルフの王国
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エルフの王国24 荒れ地の冒険 前編

 現在、レシュティリアとの話し合いをしています。レシュティリアが言うには大サソリは夜行性なので夜より昼の方が動きが鈍いので昼に対峙したの方が良いそうで、出現場所も特定出来ているらしいです。砦の塔の上から遠眼鏡で群れの位置を特定できたそうです。

「砦から見える……つまり大サソリは砦に近づいている可能性があると言うことだ」

「確かにその可能性は切り捨てられません」

「うむ、だから早めに出ようと思う……サソリの群れが砦に近づかれてからフリーニア様が動かれてはなお困る」

「と……砦が無くなって……」

「そうですね……あの王女の事ですから砦ごと吹き飛ばしそうですね……それからこういうんですよ『砦なんぞ、またつくりなおしゃいいんだよ』……」

「に……似てます……」

 エレシアとレシュティリアが口を押さえて笑っています。

「んん……失礼。場合によっては砦から引き離す必要もあるかもしれぬな。なぜか砦に引き寄せられているような気もする」

「ぎ……逆に追い立てられている可能性は無いでしょうか」

「サソリが追い立てられているだと……確かに砂漠の大サソリが荒れ野まで出てきたとなると砂漠から追い立てられた事になるが……そもそも荒れ地から北爪山脈の間に砂漠など無いな……」

「山脈を越えてきた?」

「山脈の北に関してはあまり分かってないのだ……そこには大きな草原が広がって居るらしいが……北爪山脈は高い山々が連なっていてそこを超えるのは容易ではない……北東の湿地帯か北西の魔物の巣窟を通らないとそこまで行けない訳だ。だがそこまでするやつは普通は居ない。そこまでしても得るものが無い」

「そうすると北西の方角から流れてきた訳ですか」

「……しかしあの辺にサソリは住んでいるとは思えない。すると北東の湿地帯か……まさかな」

 レシュティリアがあり得ないと言う顔をしています。

「で……でも可能性はあるのですね……」

「ゼロでは無いぐらいだな……しかし仮に事実だとすると更なる警戒が必要になるかもしれぬ」

「何かいるのでしょうか」

「うむ竜だ……湿地には竜が居るとされているが……記録は無い……もし仮にそれが動いたとすると……だが仮定に仮定を重ねるのは愚策」

「つまり竜が動いた所為かも知れないと……」

 今は関係無い話なのでサソリに専念することにしましょう。

「うむ、ここ最近魔物の動きが活発になった理由がそれだとすれば辻褄は合う」

「魔物の生態系が乱れているのでしょうか」

「そこまでは分からぬ」

 ……猫耳騎士は生態系と言う言葉を知っていたようです。どうやら姉より賢そうです。

「それより問題がある」

「なんでしょうか……」

「恐らく黙って出て行くと王女が拗ねる」

「それが問題になるのでしょうか?」

「あちこちに八つ当たりされたらたまらn。この間も……」

 八つ当たりとは砦の中で破壊活動を行う事みたいです。そういえば宿舎の中に半壊しているものがたまに混じっていましたが……もしかしてあれはフリーニア王女の八つ当たりの所為でしょうか……。

「そうすると王女も連れて行き、火力を使えない様にしながら、サソリをなぎ払うしかないのでしょうか」

 これはサソリ対峙だけより大変な気がします。要するに王女の精霊魔法を封じながら戦う必要があるわけです。王女にクレーターを沢山作られたらサソリ対峙より後始末の方が大変そうです……。恐らく砦で働く人達の怨嗟の声が聞こえてくるでしょう。それは避けたいです。

「そ……それで、塔の上には登れないのですか……そ……そのサソリの群れを一度見てみたいです……」

 エレシアちゃんが言いました。この辺りの地形を把握するには上から見るのが手っ取り早いですよね。

「さすがエレシアちゃん、いいところに気がつきました」

「い……いえ、フレナ様がやりそうな事を考えただけですので……」

 エレシアちゃんが顔をあからめながら謙遜しています。それでは善は急げで早速見張り塔の方に行ってみましょう。

 砦の北側には三つの見張りの塔が建っており木材で建てられています。塔は壁よりも高く作られており遠くまで見渡せる様になっているそうです。右側の塔に向かいます。

「こちらの塔から大サソリが見えるのですか」

「そう聞いております」

「そ……それでは参りましょう」

 それでは見張りの塔に駆け上がります。足で軽く木材を蹴って塔の上まで軽々登っていきます。みるみる地面が小さくなります。上は見張り台が広く作られており何人も居られる様になっていますが、現在、塔の上で見張り番をしているのは二人の男性でした。

「うおっ」 見張り番が何かびっくりしたようです。何かあったのでしょうか?

 ……そういえばエレシアちゃんとレシュティリアさんがまだ来ておりません。

 下の方をのぞき込んでみると下の方の階段をゆっくり上っていくのが見えました。

「……まだですかぁーーー」

「フレナさんは軽業師ですか!」

 レシュティリアの叫び声が聞こえます。エレシアちゃんも何か言っている様ですがここまでは届いてきません。耳をピクピク動かせば聞き取れるとは思います。

 二人の男が呆然とその姿を見ていました。私、何かやらかしましたか……普通に塔を登っただけですけど……。

 見張り台の上には長い円筒が置いてあり、筒にはガラスがはめてあります。恐らくこれが遠眼鏡だと思われます。

 エレシアちゃんとレシュティリアが階段を上ってくるにはまだ時間がかかりそうなので、遠眼鏡のある方向を見つめてみます。そのまま徐々に視界を狭めていくと確かにそれらしき姿が見られました。

 そこは大きなサソリが何十体も群れをなしており、とりわけ大きい赤と青のサソリが二体いました。今は昼間なので休息中なのか動く気配はみられません。サソリの周りを見ていくと赤い大地が延々と続いており、草も木もほとんど周りに見当たりません。

 そこからぐるっと回りを見ていくと、砦の西の方の近くに大きな川が流れていました。その周りが穴ぼこだらけになっています。穴の周りには土を運び込む人の群れが居おり、その周りを迂回するかの様に水瓶を担いだ集団が歩いているのが見えました。水瓶はいかにも重そうでした。

 ……ちょうど辺り一面を見終わった頃、エリシアちゃんとレシュティリアさんが見張り台まで登ってきました。エレシアちゃんは息を上げております。

「皆さん遅いです」

「フレナさんが早すぎます。飛翔の魔法でも使ったのですか」

「え?普通に登っただけですけど……この程度の塔を登るのに飛翔の魔法を使う必要は有りません」

「……えっ」

「ハァ……ハァ……フ……フレナ様……それは普通とは言わないです」

 ……そうでしょうか……やはり外界は里と普通の基準が違うようです。

 レシュティリアは見張り番の二人をねぎらうと話を聞いていました。

「こちらの方に大サソリの群れがあるそうです」

「それならさっき見つけました。あの辺りですよね」

 指を差して言います。

「私には見えませんが……」

 エレシアちゃんは遠眼鏡を覗いています。

 遠眼鏡をゆっくり動かして狙いを定めているようです……

「お……大サソリが居ました……」エレシアちゃんが叫ぶと「どれどれ」とレシュティリアも遠眼鏡をのぞき込みます。

「かなり大きな大サソリが二体いるな……これは馬より大きい……象ぐらいはありそうだな……しかし予想より多い。しかも割と近くにいるな……あの位置だと明日には砦にたどり着く可能性が高い……そうなると今日でるしか無さそうだ」

 ところで象とはどういう生き物なのでしょう……馬より大きい魔物ですしょうか……。

「フ……フリーニア様なら『いい的になりそうだ』と言いそうです……」

「んー、それは困るな……」レシュティリアが考え込んでいます。「あの群れの中に上級精霊を打ち込まれて穴だらけになるのも、砦の中で暴れ回られるのも同じぐらい後始末が大変ではないか」

 レシュティリアは頭を抱えております。しかし、的になるぐらい大きいとすると象は竜ぐらいの大きさがあるのでしょうか……。

「そうなる前に倒してしまえば良いのですよね」

「それほどの大群となれば10人では片付けられませぬ。むしろ防御陣を引いて囮になっている間にフリーニア様が精霊を連打する展開が理想になりそそうです」

「その前にどうにかする手はないのでしょうか」

「しかし、こちらは攻め手にかけます。元々の計画では防御陣形で挑み、その間に冒険者に遊撃をおこなって貰うつもりでした。こちらの遊撃はフレナさんお一人で、エレシア様は後方支援になりますよね」

 冒険者ギルドの★10の依頼を受ける人は居ませんでした……現状をみれば私達が依頼を受けなければ今より悪い展開が待っていたような気がします。それでもあの程度ならどうにかなる気もします……実物を見てみないと何とも言えないところですが……。

「んー……あの程度なら一人でどうにかなるかも知れません」

「……確かにその軽業なら大サソリよりも早く反応できるだろう。だがあの数と二匹の象の様な大サソリはどうなさるおつもりか」

「それもどうにかなるでしょう。火力なら私にもあります」

「れ……例の冒険者ギルドを震わせた火球ですしょうか……」

「あれは、少しやり過ぎましたので今度はちゃんと調節しますから大丈夫です」

「そ……そっちではなく……荒れ野の大サソリには対灼熱耐性があります。火球ぐらいでは倒せないのでは……」

「火が駄目なら水でも氷でも風でも良いではないですか」

「あの……火とか水とか言っていますが……フレナさんの得意な属性は一体何なのでしょうか……普通の魔術師は一つです」とレシュティリアが聞いてきます。

「火・水・風・土・無の属性は全て普通に使えます」

「ええっ……まさかそんな人がいるとは……それが本当か分かりませんが、今はフレナさんがどれだけ頑張るかで……私の休暇が無くなるか決まりますので……できるだけ頑張ってください……後は王女様の魔法に巻き込まれて……死なないように……」

「休暇が無くなったり胃が痛くなったり大変ですね」

 里は毎日休みで平和でしたが、下界では皆忙しそうに働いております。

「た、他人ごとでは有りませぬ。フレナさんの身を案じていっているのです」

 どうやらレシュティリアの言いたい事は違っていたようです。

「……それではフリーニア様に報告してまいりますのでそのまま下で待機していてください」とレシュティリアは言うと登ってきた階段を降りていきます。

「では、私達も行きますか」

「あ……あの——……フ……フレナ様……」

 私はエレシアちゃんを抱きかかえると一気に塔から飛び降ります……。

 悲鳴が聞こえてきますが、この程度の高さなら飛び降りても安全です。そのまま落下速度を調節しながら降りていきます。安全とはいってもこの高さだと落下速度を少し調節しないと着地した後、足に響きます。

「さぁ……もうつきましたよ」

 腕の中で目をつぶったままぐったりしているエレシアちゃんに声をかけます。エレシアちゃんはゆっくり目を空け、そして私の腕の中から飛び降りました。

「し……死ぬかと思いました……」

 エレシアちゃんが怒りながらポコポコしてきます。こういうコミュニケーションも良い物です。

 そして、下の方で猫耳騎士が降りてくるのを待っています。

「……無茶しますね」

 階段を降りてきたレシュティリアは絶句しています。レシュティリアは「それでは王女様に報告に行き、部隊を連れてくるので、半刻後またここで」と言い残し去って行きます。

 その間に、こちらも戦闘準備をします。

 緑の貫頭衣(チュニック)に皮のベルトに剣を刺し、後ろに弓と矢を付けたら完成です。

 旅に出た最初の日と同じ格好です。

 エレシアちゃんは見たことのない白い服に(スタッフ)を持っています。これは新鮮な格好です。その服はゆったりしているのでその下に皮鎧を着込んでいるのでしょうか。

「ほぉ、これが巫女服ですか……」

「こ……これは巫女服ではありません。法衣(ヴェストメント)です……さ……祭礼があるときにだけ神祇官(ポンティフィクス)が着る服です……」

「お祭りの時に着る服ですか……」

「……す……少し違います。お祭りの時にも来ますが、基本的には祈りを捧げる時に着る服です……」

 それからレシュティリアが部下を引き連れてくる間、〔赤き勇者〕の神殿の神職の違いについて説明されました。

「つまり、神殿の中に引きこもっているのが巫女さんで、巫女さん付きのメイドさんが神官(プリースト)で外野で偉そうにしているのが神祇官(ポンティフィクス)で良いのでしょうか……」

「ち……違います。フレナ様……」

 エレシアちゃんが怒って拗ねてしまいました。拗ねた姿も可愛いです。

 要するに、神殿の奥で祈りを捧げているのが巫女で、神殿の管理や巫女の供回りが神官が行い、神祇官と言うのは儀式や祭礼の時に借り出される名誉職らしいです。名誉職なのでそれなりの家の出自ではならず、それで借り出されたと言う話のようです。神祇官の一番偉い人は最高神祇官ポンティフィクス・マキシマムで、国王が兼任し、神殿の長は大神官長ハイ・プリースト・チーフだそうです。


 外界はいろいろ面倒な仕組みが多いみたいです。

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