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ハイエルフの人間学入門  作者: みし
第一章 エルフの王国
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エルフの王国23 火の王女の巻

 食堂は大きな部屋に素朴な机が並んでいる質素な場所でした。北の砦の食堂は右の食堂、左の食堂と言うように場所が分かれているだけで騎士も執事もメイドも同じ場所で夕食を取るようです。ここの食堂は立食形式に近く並んでいる料理を自分でお皿にのせて、それを自分で食卓に運んで食べる形式で、ちょうど混んでいる時間でメイドや騎士がお皿を持って並んでいます。

 皿に沢山草を置こうとしましたが……そこにあるのは干し草ばかりでした……肉と干し草を適当に皿ののせて空いている席にエレシアちゃんと座ることにします。

「いただきます」

 ご飯を食べる時の呪文を唱えます。

「お、ここ空いているのか。じゃあ相席させてもらうよ」

 濃い緑(ダークグリーン)の短髪の女性がいきなり横に座ってきましたドレスを着ているはずなのですが、なぜか鎧を着込んでいる雰囲気を醸し出していました。そのドレスは烈火の様な赤色をしています。しかし胸の部分が直線なんです・・・・・・緩やかな曲線は美ですが直線はそれとは別物なのです・・・・・・まことに残念です。

 ……席はまだ空いている気がするのですが……。

「フ……フリーニア様……」

「お、エレシアじゃねぇか。久しぶりだな。するとこっちが冒険者のフレナさんか」

「初めましてフレナと思いします。あなたが依頼主なのでしょうか」

「そう、北の砦の主をやっているフリーニアと言うんだ。よろしく」

 フィーニアよりさらに雑な感じなこの方が四王女の一人の様でした。なぜか姉に近いオーラを感じます。

 フリーニアは、挨拶を一通り済ませると骨付き肉にかぶりついていました。

「この肉はやっぱり食べずらいよなぁ……」と言いながら王女は骨付き肉から肉を引きちぎっていました。

 なぜかエレシアちゃんの教育には悪い気がするのですけど気のせいでしょうか……。

「それでエレシアちゃんは、フリーニアさんの事をどのぐらい知っているのでしょうか……」

「じ……実は……フリーニア様にはあまり有ったことが無く……でも噂話では良く聞いておりました」

「ああ、こっちはエレシアが赤ちゃんの時から知ってるから……まぁ昔は今ほど忙しくなかったら度々会う機会はあっけどが覚えてないかなぁ……最近は魔物や魔獣だと出ずっぱりで……休む暇もないぐらいで都にも顔出していないからなぁ……」そう言うと次の肉にかぶりついていました。

 みるみる皿の上に肉の骨が山積みになっていきます。

「あ、もう無いのか……もう一皿食べるか。じゃあ、この席は取っておいてくれよ」

 そう言うと料理を取りに行きました……恐らく肉と肉と肉を取りに行くのでしょう……

 ちまちまと草を食していますが……やはり干し草はあまり美味しくないですよね……干し草は草の旨味が凝縮されているので、ちゃんと調理すれば美味しいはずなのですが、干し草をそのまま出すのは流石にいただけないです……恐らく、これは馬が好きそうな感じな味ですよね……後で馬に聞いてみましょう。

「それでエレシアちゃん、フリーニアさんと依頼について話をして置いた方が良いでしょうか?」

「ん……んどうかな……」

 エレシアちゃんの歯切れが少し悪いです……。しかし作戦を一度依頼主から聞いておかないとまずいのでは無いかと思います。なのでフリーニアが戻ってきたタイミングで尋ねてみました。

「あの、フリーニア様、大サソリ退治の件ですがどのような計画で退治するのでしょうか?」

「ああ、そんなのドバーッと行って、ドカーンとやれば良いだろ。最悪、イフリートを上からたたきつけてやれば良い。とにかく火力が必要だな。そういえば何時退治に行くんだ……後でレシュティリアに聞いておくか」

 ……エレニアちゃんの歯切れが悪い理由が良く分かりました。ディーニアがフリーニアを眼中にしていない理由もよく分かりました。だとすればディーニアがライバル視する四女のヴィアニアはくせ者なのでしょうか……。フリーニアには作戦と言うものはありません火力でなぎ払えば全部大丈夫と思っている様です。お付きの騎士も頭を抱えてる理由もよく分かります。それだけ自分の精霊魔法に自信があるのでしょうか、しかし精霊魔法は火力では無いですよね……。細かく制御できてこその精霊魔法のだと思います。火力が望みなら下代魔法(ローエンシェント)の方が向いています。イフリートを何体も召喚するより空中から星を叩き落とす方が遙かに楽なのです……。

 それはともかく、この王女がしでかす前に全部終わらせた方が良い気がします。後で猫耳騎士と王女を出し抜く作戦を立てておきましょう。

 王女の方を見ると肉を勢いよく食べ散らかしております。

「北の砦は、フラットな組織なのが自慢だ。ディーニアは組織をやたらと複雑にしたがるかこういうのは単純明快な方が良いだろ。全員同じ飯を食い、全員で突撃。それ以外は何もいらねぇ」とフリーニアがエレシアちゃんに向かって言っています。

 ——エレシアちゃんは頷いていますが……さすがに四王女を基準にしたフラットな組織と言うは部下にはキツいのではないかと……なんだか部下が可哀想です。サソリ退治に借り出される部下達は今頃戦々恐々としてそうです……。それでこっそりギルドに依頼を出していたわけですね。

「エレシアちゃん、お腹はいっぱいになりましたでしょうか?」

「わ……私はもう十分食べましたけど……フ……フレナ様はどうでしょうか……」

「私も十分食べましたので、お風呂……そういばお風呂は無いんですよね……」

「ああ、悪いなぁ。水さえ何とかなれば風呂ぐらい入らせてやれるんだけどな。水くみに行くのも大変でな。毎日、片道一エルフ里の水源まで汲みにいかないといけなくてさぁ」

「一エルフ里先に水源があるのでしょうか?」

「北の山脈から来てるみたな大きな川があるんだ。毎日ここまで皆で水を汲みに行くわけだ……」

 フリーニアは、壺を抱える仕草をします。

「も……もしかして、歩いて汲みに行くのでしょうか……」

「そりゃ当然だろ。道も悪し、それに訓練にもなるからな」

 フリーニアは笑って言っていますが、むしろ一エルフ里ぐらいなら水路を引いた方が早い気がするのでしょうか……何かできない事情でもあるのでしょうか……ディーニアならきっとそうする気がします。

「砦まで水路を引けば良いのでは……ああ、でも砦の近くに寸断されますね……。」

「水路?そんなこと考えたことも無かったわ。そういうのは設計とか管理が面倒だろ。素直に水くみに言った方が楽だぞ」

 ……なんか駄目な気がします。

「で、さぁそれより…………フレナだっけ?おまえ東の砦の方から来たんだろ……何か面白い事は無かったか?例えばフィーニアがまたやらかしたとかさぁ」

 どうやら東の砦の件は既にここまで伝わっている様で……仕方ないので精霊魔法の講義を行います。

「……それで、このように精霊を細かく制御すると無駄なく力を扱える訳です」

「なんかまどろっこしいな。そう言うのはドカッとやれば良いんじゃ無いか?」

「いえいえ、精霊は繊細なものです……どちらかと言えば細かい作業の方が向いてるのですよ」

「でも火の精霊ってさぁ、やっぱ火力じゃん。火力は浪漫だろ。それにフィーニアみたいにドジばかりしてるならともかく、精霊の制御は正確だぞ……ドカーンっとやればどんな敵でも一撃だぞ」

 ……それは単に範囲を丸ごと焼き尽くしてるだけですよね……魔力は大きいもののそれを有効に扱うのが苦手なようです……。おそらく姉より大雑把な人が要るとは思いもしませんでした。どうりで感覚的に噛み合あわない様です。

「しかし、東の砦のお風呂は良かったですね……」

「そりゃこっちでも水さえあれば風呂を作りたいけどさぁ。今日も、みんなが精一杯水汲みして水のやりくりしてるんだ……そこは我慢してくれよ。」

 んー……それこそドカーンと水路でも引けば良いと思うのですがどうなんでしょうか……。

「ま水さえあれば後はイフリートでお風呂を沸かしてやれるけどな」

「イフリートだと水が煮えたぎって蒸発しませんか」

「それh試してみないと分からんぞ」

 このようなやりとりをフリーニアとした後、食堂を後にし割り当てられた宿舎の方に向かいます。宿舎の部屋はそれほど広くなく、自宅の部屋より少し小さいぐらいです。そこに寝台(ベッド)が二つおいてあります。北の砦の基本の仕様だそうです。

 寝台は人一人十分寝られる大きさですがそれほど広くはありません。一人と言ってもフィーニアの屋敷の様に巨人サイズではなく標準的な人のサイズです。そこに荷物を置いてエレシアちゃんと語り合うことにします。

「フ……フレナ様……なにか奇妙な視線を感じませんでしたか?」

「実は奇妙な視線には慣れてしまっているので良く分かりません」

「こ……ここの砦の者ではない者が……どうやら紛れ混んで見張っているような気がしました」

「もしかすると冒険者のギルドマスター・ルエイニアですかね……」

「そ……その可能性はありますね……でもそちらの方を見ても、そのような姿はありませんでした……」

「んー……ルエイニアは幻術が使える感じでしたから……もしかして幻術を使っている可能性があるでしょう……しかし幻術なら見破れるはずなんですけどねぇ……」

「フ……フレナ様、も……もしかすると幻術ではなく、変装術では無いでしょうか……」

「変装術……それは初めて聞く魔法です。エレシアちゃん、それはどういうものでしょうか」

「へ……変装術は魔法ではなく単なる技術です……こ……高度な化粧の様なものでしょうか……魔法を使っていないので魔法で探知出来ないと思います……」

「んー。魔法ではなく技術で紛れ混んでいるとすると簡単には探せませんね……」

 もっとも化粧程度の技術なら固有波長を探知する魔法で探す事は不可能ではないのです。ただルエイニアの固有波長がわからないので探知できません。冒険者ギルドの審査の時、特徴を記憶しておけば良かったのですが……。人には指紋の様な特徴があり、それを常時拡散しています。呼吸の息の中に混じる魔素(マナ)もその特徴の一つですが、それら情報を鍵にして探す魔法がある訳です。

「ギルドマスターの事は取りあえず置いときましょう。それよりレシュティリアと打ち合わせをしに行きませんか……」

「は……はぁ」

「王女が動くより前にサソリ退治をしようかと思います……それには連携が大事ですよね」

「フ……フレナ様ならそのような細かい事は気にされなくても大丈夫だと思います……サ……サソリ百匹ぐらいは一人で片手間で始末出来るのでは無いのでしょうか」

 ……なにか買いかぶられている気がします。

「いえいえ、あの程度の情報だけで判断するのは禁物です。まず地理と出現場所や生態を知らなければなりません……。あらかじめ相手を知ればそれだけ楽できますから……魔物事典みたいなのがあるとなお良いのですけど……」

「ま……魔物事典なら……王立図書館にはあるのではないでしょうか……」

 ……やはり図書館に行く必要があるようです……。しかし、その本を読む為には先にサソリを退治しないといけない訳です。これは難題です。

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