エルフの王国16 エレシアの話
謁見の間を出ると衛兵達の案内で再びの控えの間に戻されます。
机の上にはお菓子とお茶がおいてあります。そこで一休みしてお茶を飲もうとしましたがドレスが非常に邪魔なのです。コルセットがキツくて動きにくいのも、もちろんのこと、それ以上に浮いている気がするんです。謁見の間でドレスを着ていたのは結局私だけでした。
家臣達は何か黒い礼装みたいなもの着ていましたし、残りはは衛兵と騎士ですよね。彼等が着ているのは鎧です。あとローブに身を包んだ魔術師みたいな人もいましたが……しかし魔術師はなぜローブを着ていたのでしょう。物語に出てくる魔術師は必ずローブを着ておりますが、何か暗黙の決まり事があるのでしょうね。しかし魔法を使うのに服はあまり関係無い気がします。魔法の動きを阻害しなければ良いだけだと思います。
「それでは早いところ着替えましょうか」
「あらあら、ここでヌードショーでも始めるのですか賢者様」
私の姿を見つめている瞳が目に入ります……。青いドレスを来たその婦人はフィーニアにどことなく似ている雰囲気もしますがフィーニアが陽気な感じがするのに対し、少し冷たい感じがします。動物に例えると蛇みたいな感じといいましょうか……。しかし、胸の曲線の角度が急すぎます……その点はフィーニアに負けていました。
「それでどちら様でしょうか」
「あらあら、私の事は妹から聞いておりませんか?私はフィーニアの姉で次女ディーニアです」
「……水使いさんでしょうか」
「あらあら、あの子は自分以外の事は何も話していない様ですね……」
確か話が長いのでフィーニアの話の大半を聞き流していたので、もしかするとその中で話しているかもしれませんが、聞き流していた部分はほとんど記憶にはないので当然ですがわかりません。
「そういえば、西の砦におられるとか。砦から離れて大丈夫なのでしょうか?」
「あらあら、賢者様はその話を聞いてくださりますか。実を申しますと西の方でとある協定が結ばれたのですが、それを発効するのに国王の署名が必要で、その署名をもらうためには頭の固い家臣たちを説得する必要があるので、その説明の為にわざわざ王宮まで来たのです」
「砦の方は開けなくて大丈夫なのでしょうか、砦にいるのが四王女の義務だと聞いておりますが……」
「あらあら、それはですね西の砦には綿密な連絡網を構築したら魔物の動きはすぐ把握できるようになっているの。だから他の地方みたいに魔物が来てから慌てて対応する必要が無いから大丈夫。そもそも国家防衛は組織がちゃんと動いていれば問題ないの。ほかの王女は頭を使わないから組織が属人的になって、対策が後手後手になっているだけなのよね。それに西の砦は王国の守りより外交の役目も大きいのよねぇ。あの外交の相手をする方が魔物と戦うより大変なの。異変があったときは速やかかつ詳細に都に報告にしないといけないことの。それに比べればフィーニアの居の方は森しか無いから楽よ。彼女は動物相手にしていればいいだけですから。北のフリーニアも蛇や蛙とにらめっこしているだけですよ」
王女がドヤ顔で言っています。しかし水の精霊の本領は攻撃より防御的なものですし、この王女みるからに戦闘は苦手そうですよね。居たら逆に邪魔になるのかもしれません。
「あらあら、これでも精霊の扱いはフィーニアより遙かに上ですわ。あの子は昔から精霊を暴走させたりして危ないったらありませんでしたし、そもそも精霊魔法の腕は私が一番ですから。ヴィアニアにも負けないわよ」
まぁフィーニアは話を聞かないタイプですし、訓練メニューも恐らく自己流に解釈して滅茶苦茶やってそうです。ただあのメニューは苦し紛れに作った方便ですから適当にやっても構わないしろものですね。他の三人の腕はわかりませんが次女のディーニアは四女のヴィアニアにライバル意識を持っているみたいです。
「しかし、私、上級エルフを見るのは流石に初めてです。この子、連れて帰ってもいいかしら」とディーニアが私の腕に絡んできます。隣で凍り付いていたエレシアが首を振っています。
その間イレイナはずっと口を閉じたままドアの前で置物用に立っていました。もしかしてイレイナはあれで、護衛をやっているつもりなのでしょう……全く訳に立ってない気がします。護衛ならこの状況を止めて欲しい所存であります。
「あらあら、エレシアも居たのね。お久しぶりですね」
「あ……ディーニア様……お……お久しぶりです」
「あらあら、そんなに緊張しなくても良いのよ。貴方にとってはお庭みたいなものでしょ。そういえば……」
エレシアは私にしがみついております。空気が一瞬張り詰めた気がしますが、扉が急に開く音がします沈黙が止まります。
「ディーニア王女様、控えの間には入らないでくださいと申しましたよね」
黒い襟服を来た女エルフが入ってきます。どうやらディーニアのお付き執事の様です。
「あらあら、そうでしたかしら……」
「ええ、何度も言いましたけど……それからそろそろ時間なので準備してください」
「あら、じゃあ勘違いかしら……それではまたくるからよろしくね」
ディーニア王女は女執事に引きずられて外にでていきました。それよりエレシアは大丈夫でしょうか?
「エレシア大丈夫ですか、悪は退治しましたから安心しなさい……」
頭を撫でてあげます。少し落ち着きを取り戻したようでエレシアは話始めます。
「あ……あのもう大丈夫です。実は……フレナ様に……話したいことが……」
エレシアが語った事を要約すると以下のようになります。
数百年前のある大戦の後、ある英雄と先の女王が結婚したのですが、その英雄にはすでに子どもが居たのだそうです。
そのため子連れの英雄を女王の夫にしてよいものかと家臣が二つに割れて賛成派と反対派の間で何十年も議論が行われていたそうです。最後は、女王が家臣を一喝して結婚を決めたと言うことです。女王の夫は、連れ子に関して何度聞いても『若いときの過ち』としか言わないのでその詳細は分かっていないそうです。
その連れ子の息子がエレシアの父のディルミス公らしいです。ディルミス公はエレシアと同じ髪の色をしており、エレシアと同様、森エルフでは無いそうです。王家は、ほぼ純血の森エルフですし、国王の資格も森エルフだけなので、そこに素性の知れない自分が紛れ混んでいるのは心苦しいと言っていました。
四王女は何も気にしていない様ですが、どうやら周りの奇異の目が気になるらしいのです。
そこで『森エルフで無い事がそんなに重大な事なのか』と聞いて見みました。
エレシアがいうには、エルフの王国の中でも森のエルフは特別寿命が長く、千年近くも生きられるが、草原のエルフや里のエルフはせいぜい数百年程度までしか生きられないそうです。ちなみにハイ・エルフの場合、千歳ではまだ子ども扱いです。実は私もまだ子ども扱いです。
森エルフは総じて精霊魔法に長けており体力・知力にも優れており、草原エルフや里エルフは基本能力ではとても及び着かないのだそうです。そこにエレシアは劣等感を持っているみたいでした。
ただし、森エルフの力と言うのは森からもたらされているものなので森が死ぬとその力を失ってしまうのです。そのため森のエルフは普段から森を守る為に警戒を怠ることができず戦いの場に赴けなかったそうです。ところが魔物が草原や森を闊歩するようになると草原エルフや里エルフが森に庇護を求め変わりに周りの警戒と森の管理を行い森エルフが魔物を狩ると言うすみ分けが徐々におこなわれる様になったとか……。この棲み分けは災厄の大魔王が現れた事による影響が大きく魔王と戦いには森エルフがおもむき里や草原のエルフ達は不在の森を守っていたそうです。災厄の大魔王との戦いで多くの森エルフ達が帰らぬ人になり〔赤き勇者〕の登場でようやく魔王を退治できたと言う話です。
その〔赤き勇者〕の力の源の森が今の王宮を囲っている森であり、その森を守る為に厳重な結界が張られているのです。森エルフは森を失うと力を失ってしまう為、エルフの王国が力を維持する為にこの森は死守しなければいけず、そのためには全てを出し尽くしても守らなければならないとのこと。都の森が失われたらその時点でエルフの王国は滅んでしまうらしいです。
「エレシアさん。……するとこの国の主は森で、その森を守る為に国民がいると解釈してもよろしいのでしょうか」
「え……え……そうとって……も構わないと思います……」
王宮の森は精霊に満ちあふれております。その力は王家のものらしいです。そうすると国王や四王女達は森のエルフの中でも別格なのでしょう。それに引き換え森の力をまったく引き出すことのできないエレシアはそのことをいつも気に病んでおり、役に立ちたくてもその為の力が無い事がかなり心苦しいようです。
「エレシアちゃん。可愛い」
思わずエレシアをぎゅっと抱きしめます。
「フ……フレナ様……く、苦しいです」
少し力を入れすぎました。もう少し優しく抱きしめることにします。
「それより、エレシアちゃん。これだけ話したら喉が渇きますよね。そろそろお茶にいたしましょう」
先程は変な王女の邪魔が入りましたので、今度こそエレシアと二人でお茶にしましょう。
それを見計らったかの絶妙なタイミングで扉が開きます。
「あ、賢者様、まだ居りましたか。これは吉報です。今からお茶会にしましょう。エレシアも一緒に来なさい」
「どちら様でしょうか……」どこかで見たような顔つきですが、あった事は無いはずです。
「お……王妃……様」とエレシアが言います。
「賢者様、私めは王妃フィルニアと申します。陛下の代理として参りましたのよ。謁見の間だと堅苦しいから、もっとくつろげる場所で賢者様と楽しく会話がしたいと夫が駄々こねていましたが、その書類の山を片付けてるまでは部屋から出さない様に外から鍵をかけてからまいりました」
この途中が話が飛んでやたら長い話をしすぎるのは、流石四王女の母上です。話を聞かない点についてはフィーニアにも引けを取りません。しかし閉じ込められた国王は大丈夫なのでしょうか……心配する間もなく王妃の話はさらに続きます。
「フィーニアが世話になったようでとても感謝しております。あの子は話は聞かない子ですし、お調子者ですから苦労なさったでしょう。それでも我が娘ですから可愛いものですよ目に入れても入れないぐらいには……それでね。あの子がまだ小さい頃の事ですが……」
母親だけあって良く分かっていると思いますがその後の蛇足が長すぎます。フィーニアの話はお腹いっぱいなので、そろそろ打ち切っても良いでしょうか……
「それより王妃様、先にお茶にいたしませんか?私、喉が渇いておりまして、早くお茶が飲みたいのです。それに小腹も空いているのです。何よりエレシアちゃんが疲れておりますので、少し(その口を)お休みしませんか……」
「あらここからが良い話なのに……それではお茶を飲みながら語る事にしましょう……あら、お茶が既に冷めてますね変わりのものをすぐにお持ちさせますわ」
王妃がベルをならすとポットを持ったメイドが慌ててやってきて王妃、私、エレシアの順にお茶を注いぐと入れたばかりのお茶の香しい香りが控えの間の中を包むように広がっていきます。
「これは焼きたてのアップルパイとミントクッキーですが、よろしければ皆様でお召し上がりください」
さすがメイドさんは気が利きます。どこぞの騎士とは大違いです。
目の前には林檎をのせて焼いた小麦の丸いうす板とミントを練り込んだ丸い焼き菓子が置かれています。つまり丸い薄い板がパイで、丸い焼き菓子をクッキーと呼ぶようです。
それではいただく事にします。
お茶菓子を食べながら王妃が滔々と語り続けます。はじめに四王女の事、次に四大騎士の話をしていました。四大騎士とは四王女が砦の主になる前の砦の主だそうです。四大騎士は東西南北に配置され、それぞれ風水地火の精霊魔法に長けた騎士が付く最高位の事を言い先代の四大騎士もかなり強かったそうです。四大騎士の話に入るとイレイナが突然話に割り込んできました。何でも四大騎士の一人が師匠だとか……。そういえば存在をすっかり忘れて居ました……。
四大騎士から四王女への 体制切り替えは数十年前に家臣が勝手に決めたそうです。
「そこまで王家に権限を集中させる必要はないですよね……それより、おかげで可愛い娘に会いたい時に会えないのです」と王妃は愚痴っていました。母親を子離れさせるために家臣が画策した気もします。
王妃の話は更に続いて王宮を出るときは日が暮れておりました。王妃はディーニアを探しに行くらしいのでエレシアを連れてフィーニアの本宅に戻り、エレシアとお泊まりすることにしました。
 




