エルフの王国13 第三の街
昨晩は酷い目に合いました。お酒と言うものはやはり毒でした。昨日はお風呂に入り損ねましたしロクな事はありません。しかも今回の街は割と大きいので門に出るまでに時間がかかります。本当はしばらく街の中を探索してみたいところですがあまり良い思い出もないので都へ行く事を優先しました。
門をくぐるまでは暇なので、その間は馬とふれあっておきます……そろそろ人参が欲しいですか……藁で十分ですよね……うんうん頷いているようです。話せばわかる賢い馬です。恐らく姉より賢い馬だと思います。
城門を抜けるとまた似たような風景が続きます。しかしこの辺はずっと丘陵が続いています。曲線美を追求する身としては少し興味が引かれます。あの丘は曲がりすぎ。この丘はなだらかで良い感じですと丘を一つ一つ採点していくことにしていきます。暇潰しにはちょうど良いです。
丘陵地帯には小さな街があり、街を抜けると大きな川が通っております。八分の一エルフ里ぐらいの川幅があるでしょうか。それを西と東を分断しており、その中を悠々と水が流れております。街道はそのまま川にかかっている橋の上を走っています。
橋のたもとまで行くと、そこには番兵が立っていてお金を払えと言ってきました。橋を渡るのには通行料が必要で、橋を維持するのにもお金がかかるのだと言っていました。イヤなら船で渡るしかないとも言っていたような気がします。通行料は幾らと尋ねると『荷馬車は銅貨五枚だ』と言ったのでその金額を支払って橋を渡ることにします。橋は石造りでかなり頑丈そうに作ってある橋で、かなりの年期ものの様です。幾つかのアーチが橋を支えており、一つ一つのアーチはかなり大きめに作られています。アーチの下は水の中に沈んでおり恐らく川底に到達している様です。北側をみると船の姿が見えており、どうやら船で渡れないことも無いみたいな感じです。
ところで橋を渡りながらとても良いアイデアを思いついたのです。ここで魚釣りができそうですよね。これは釣り竿を試す大イベントです。この機会を見逃すわけにはいかないのはエルフの名折れと言うものでしょう。そこで橋を渡った後、番兵に「ここで釣りをしても良いか」と聞いてみました。橋の上では無く川辺なら釣りをしても構わないそうです。ただし網や罠や火の類は使ってはいけないと注意を受けました。
そこで道を外れた適当な場所に荷馬車を止め……馬、昼飯だ食え……釣り道具を持って川辺に降りてみます。それでは川のなかに少し足を入れてみましょう。靴を脱いで足の先っぽも川の中にそっと差し入れてみます。
「ちべたっ……」
川の水は冷たいですね。魚も縮こまっていそうです。
昨日お風呂に入りそこねましたし出来れば水浴びしたいと思いましたが、これだけ冷たいと水浴びは厳しそうな感じです。
持ち運んできた釣り竿を組み立てから無造作に川の中に釣り糸を放り投げてみます。待つことしばらく……糸が引いてます。これはかかったなと思い、竿を引っ張りあげようとすると釣り糸が反抗的な態度を取ります。これは大きな魚でしょうか?
竿を力任せに引っ張り上げてみると川の中の魚が急に飛び出してきて釣り竿は一気に後ろに飛んでいきます。上手くバランスを取りながら倒れ込まないようにします……。
「案外疲れますね……」
……そういえば何か釣れたのでしょうか……釣り竿の先の方を見ます。
地べたになんか転がっています……。大きな魚が口をパクパクさせながらうねっているのがみえました。それは両手で抱えないと持てないぐらいの大きさがありました……。名前は知りませんが……。
「しかし、コレどうしましょうか?」
まだ釣りを続けたいのですが、この魚だけでも食べきれない量があります。先に魚をどうにかしたいところですが……川岸で火を使えないのではそのまま焼くこともできませんし、生で食べるものではありませんよね……。
番兵に聞いて見みる「それなら近くに厨房を貸してくれるところがあるよ」と言う話なのでそこで魚を調理する事にします……いくぞ馬……。
この貸し厨房なるものは、この橋で釣りをする人達に貸し出ししている施設だそうで銅貨二枚で借りられるそうです。高いのか安いのかよく分かりませんが……番兵は休暇の日にはここで釣りをして過ごすので良く使っていると言っていました。そこまで行ってみると大きな魚がさばける様に巨大な水洗い場なども設置してあります。割と綺麗な厨房です……少なくとも以前の宿屋よりは綺麗に手入れしてあります。それから今日は運良く空いている日らしく貸し切り状態です。
それでは魚をさばいて調理することにします。流石に丸焼きにするには大きすぎる魚ですので調理してから食べる事にします。調味器具だけではなく調味料を積んできたのは正解でした。
「フレナは賢い子」と自分を自分で褒めておきましょう。
魚を一気にさばくと頭や骨や鱗など要らないものであふれかえりました。加工するとイロイロ使える気もするので乾燥させて荷馬車に放り込んでこんでおくことにします。
調理法や余った部位の処理の方法をいろいろ試していたら調理に意外に時間がかかってしまいましたが、ちょうどお昼時なので良いことにします。それでは焼いた魚と煮た魚と炒めた魚を食べることにします……この魚は淡白で雑な味でした。
それからお腹がはち切れそうなほどに魚と魚と魚を食べたのですが、結構魚が残りました……おい馬、食うか?……全力で首を振っています……もったい無いので取りあえず保存箱に入れて持っていくことにします。
川の岸辺では魚を開いて干してあり。沢山の魚が干してあります。ちょうど開いた魚を吊す作業をしている一団が遠くの方にみえたので話を聞いて見たいところなのですが離れているので声がかけられません。一団の居る場所は街道を外れて、その間の障害物が多すぎて行き着くのが無理そうなので声をかけるのを諦めて先に進むことにしました。
川を過ぎてみるとまた似たような風景が続いているのは相変わらずです。丘陵地帯も過ぎてしまったので曲線の美的評価すらできません。しかし、すれ違う馬車の数が徐々に増えてきた気がします。小さな街の間隔も縮まっており大体一エルフ里ほど歩くと必ず小さな街があります。もしかすると都に近づくけば近づくほどすれ違う馬車が増えるのでしょうか……そうすると都のあたりは街道の上が馬車で埋まっていそうです……数珠つなぎになっている馬車の姿を想像したら少し噴き出してしまいました。さてそうしてうちに大きな街にたどりつきました。そろそろ日も西に沈みかけている事ですし今日はこの街に泊まることにします。
この街は昨日と違って壁がないようです。どうも古い城壁を壊した様な気もします。それと言うもの街に入っときは比較的新しい建物が立ち並んでいるのですが、とある道を境にして急に古い街並みに変わっているのです。丁度そこから道路の幅も狭くなり荷馬車が通るのは少し厳しいぐらいに細いので。この荷馬車で旧市街を突っ切るのは少し厳しそうなので新市街を迂回しないといけなさそうです。
旧市街に入る手前に案内板が立っていました。それを見ながら今晩泊まる宿屋がどこにあるか探すことにします。どうやら右の方向へ曲がると宿屋街に出る様なので右の方へ進むことにします。今日は、お風呂に入りたいところです。
それから何軒か回ってシックな感じの建物で大浴場があるお宿を見つけました。お値段はなんと銀貨五枚。巾着の中を確認するとまだ十分な金貨が入っています。手持ちの銀貨を増やしたいところなので金貨一枚で払うと銀貨十五枚が帰ってきました。
早速、お風呂に入ることにします。颯爽と部屋に荷物を置くとお風呂道具をかついで大風呂に直行しました。
その大浴場はなぜか地下にあるのです。なぜ地下に風呂場を作ったのでしょう不思議なものです。それはともかく既にお風呂に誰かが入っているようです。子どもが楽しそうにお風呂の中を駆けずりまわっています。そういえば、この国に来てから子どもをみかけるのは初めてかも知れません。しかし曲線による美を生み出すにはまだ早すぎますね。この子が大きくなったらら緩やかな曲線を組み合わせたいい感じの体つきの大人になるのではないでしょうか。そんな事を考えながらお風呂に入りました。
「あら、お先に失礼しております。娘が騒がしいですよね。迷惑でしたらごめんなさい。私も元気すぎて困っていますのよ」
お風呂に入ると、柔らかい物腰で声をかけてくる柔和な感じな女性がいました。
「あのどちらから来られたのですか」
「ああ、都に居る夫のところに参るところなんですよ。久しぶりに娘が見たいと行っていましてね。こうして娘をつれてゆっくり観光しながら都に向かう途中なのですよ」
「それで旦那様は、都のどちらに居るのですか?」
「王宮で働いているのですよ。領土に手が回らないので、領土の方は私の方が見ていまして、今も忙しい時期ですけど旦那がどうしてもあいたいと言うので執事に押しつけてきたんですよ」
完全にのろけているようですが、もしかするとこの人、貴族とか言う奴じゃないでしょうかね……。
「あのどちらの貴族様で……」
「いえいえ貴族なんてものでは、夫は小さな村の領主でしてフィーニア王女のもとで働いている時に見初められて結婚しただけの平民です」
貴族と平民って簡単に結婚できるものなのでしょうか、昔よんだ物語ではかなりハードルが高かったような気がするのですが……この国では違うのかも知れませんね。これは要調査案件かもしれません。
「フィーニア王女ですか、変わったお人ですよね」
「フィーニア王女を知っておられるのですか?」
「少しお世話になっていたので……お世話もして居ましたけど」
「お世話ですか……」
女性が何か顔をあからめているようですが、私、何も間違ったことは言っていないですよね。その後、しばらくその女性とフィーニア王女についてお話をしていましたが、お風呂場で遊ぶのに飽きたようなのか「ママー」と言いながら子どもが私に向かって飛びついてきます。しかし子ども肌ってぷにぷにしてますね『ぷにぷに』ほっぺをつついたりしてみます。なんか喜んでいるみたいです。
「こらこら、そちらはお姉さんですよ。ママはこっちですよ。それにお風呂で飛び跳ねたりしてはダメよ」
母親が娘に向かって諭しております。
「すみませんね」「お姉さん、ごめんなさい」
「いえいえ、どういたしまして」
自分でもなにがどういたしましてなのかよく分かりません……。
お風呂から上がると夕食にしたいところなのですが昼間の残りを何とかしたいですね……部屋に草とパンをを持ってこさせて、残った魚を食べますか……既に冷めていますけど、保存箱に入れてあるので大丈夫だとは思います。
即時を部屋に運んでくれると言う話なのでサラダとパンとスープを部屋に運んで貰いました。銀貨一枚でした。これで魚を食べ尽くす事にしてしまいましょう。
当然、食べきれませんでした。流石に翌朝に食べる気にもなりませんでしたので、翌朝は宿屋の食堂で軽く朝食を済ませると宿屋を後にすることにします。
そういえば昨晩の親子はもう少しこの街に滞在するらしいので、ここでお別れです。




