第3話 異世界の扉は遠かった
《承りました。では早速参りましょう、今すぐで大丈夫ですか?》
「荷物は……何か必要か?」
《特には必要ありませんよ、必要なものはあちらで全て揃いますし、それにレベルが低いうちはこちらの世界のものはあまり持って行けないのですよ。せいぜい着ている服や靴、小物程度でしょうかね》
「そんなことまでレベルが必要なのか……ええと、確か今の時点ではこっちとあっちの時間は同じなんだよな?じゃあ今日はあっちに行っていられるのはせいぜいあと5時間くらいか。0時前には帰ってきたいんだけど移動時間はどのくらいなんだ?」
《移動時間は10秒もかかりません》
「おお、そいつはいいな!よし、じゃあ行こう!」
うーん、なんか新居を見に行くような気分だ、ワクワクするなあ。
《では早速行きましょう。次元移動陣、発動》
謎の声がそういうが早いか、部屋の真ん中が淡く光り直径1メートルくらいの魔法陣ぽいものが浮き出てきた。
「おおっ!すごい!RPGっぽい!」
《さあ、それではこの陣の中央にお立ち下さい》
俺は謎の声に言われるがままに陣の中央に立つ。
すると陣が激しく光り、あまりのまぶしさに俺は思わず目を閉じる。
一瞬エレベーターのような浮遊感を感じたがすぐ収まる。
《さあ、つきましたよ。目を開けてごらんなさい》
そっと目を開けた俺の目の前には……
「っ……っっ…」
その景色に俺の声帯は麻痺してしまったかのようだった。
俺の視界を隠す勢いで『大きい』と言う言葉では言い表せないほど巨大な木が立っていた。
「っっっ……ぷはあああ…っはぁ、はぁっ…」
突然息苦しくなり、俺は呼吸困難状態になる。
驚きのあまり息をするのを忘れていたようだ。
ゲーム風に言えば世界樹みたいなものか。
幹だけで学校の校庭くらいはあるんじゃないだろうか。
そして幹もすごいが、枝も半端ない。先が霞んで見えない。
青々とした葉を纏い、枝の間から陽の光が差し込み、それはそれは幻想的でかつダイナミックな様相だった。
「すげえ……これが、異世界か……」
《これは全の大樹と言います。この世界を支える神の木ですよ》
「ぜんの、たいじゅ、か」
まさしく「全」ての木、と言うことか。
子供のころから慣れ親しんできたRPGの世界。
それを画面越しではなく、実体で目の前にして俺は年甲斐もなく感動に震え、……少し涙ぐんだ。
《どうです?来て良かったでしょう》
「ああ、本当に良かった。ありがとうな、謎の声さん」
《謎の声さん?私のことですか、まあ今は……それでいいです》
「なんだ、名前とかあるなら教えてくれよ。そもそもアンタ何者なんだ」
《まあそれはまたの機会に》
ものっそい流された。
《ではまず外部召喚者受付窓口に参りましょう》
「そんなのがあるのか」
《ええ、転生か転移か、自力で来たのか導かれてきたのか、その確認もあるので》
「やっぱり死んじゃってからこっちに来る人もいるのか?」
《いますよ。と言うか転生者がほとんどです》
「え、そうなのか」
じゃあ俺みたいなのって珍しいのかな?
しかし死ぬ理由も色々あるだろうが、なんかそういう人に会うと重い話になるかもだから会いたくない。
まあむしろ誰にも会いたくないから異世界に来てるんだけどな
謎の声に従い全の大樹の根元に行くと、いかにも木の妖精さんと言う感じの少女がにこやかに笑いかけてくれる。
「ようこそ、ええと、お兄さんは……あら?転生反応がないわ。もしかして転移でいらしたんですか?」
「あ、どうも。はい、俺は転移で来たんですけど」
「まあ! なんてお珍しい! 転移者なんて何年ぶりかしら!」
そこまで珍しいのか……。
「転移者の方でしたら特別受付となりますので、あちらの入り口からどうぞ」
そして少女は空を指差す。
全の大樹のど真ん中に、ででーんと豪華な扉が見える。
ビルで言えば10階建てくらいの高さだろうか。
「……冗談だろ……」
階段はもちろん、はしごもない。
どうやって登るんですか? これ。




