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祓魔師の少年(4)

無数の魔獣達が、全方位から少年目掛けて飛び掛かる。少年は刀を強く握りしめ、魔獣の攻撃を紙一重に避け、1体1体確実に斬っている。だが無数の魔獣の前には、流石に全ての攻撃を避けきれず、少しずつかすり傷を負っていく。


「くっ……」


魔獣達も一度攻撃しては離れ、また別の魔獣が攻撃するというコンビプレイで仕掛けている。

雅斗は魔法陣で動けず、さらに体力も無くただ見てるだけだが、力を出して少年に語りかける。


「おい!俺の呪文を解け!そしたら助けてやる!」

「戯言を抜かすな!」


そう言うと少年は魔獣達の中を無理矢理突破し、森の中を飛び回り奥へと姿を消す。魔獣達もすぐさま追いかけて行った。

魔獣達は姿を消した方向へ向かう。突如奥から無数の刀が直線上に飛び、魔獣達へと襲いかかる。魔獣達の急所を確実に刺し、次々と撃退して行った。唯一森の奥に辿り着いた数匹の魔獣は、少年が目を瞑り、無数の魔法陣を展開していたのを目撃した。そして再び少年は呪文を唱える。


架蝉旋風陣(かせんせんぷうじん)


落ち着いた小声で唱えると、再び魔法陣から無数の刀が飛び交い、残った魔獣達目掛け、刀が突き刺さり倒れて行く、そして少年の目の前には何十匹にもなる魔獣の死骸だらけとなった。


「ふぅ、片付いたか」


森の中は静かになり、少年は魔獣達が倒れている側を自分の肩のホコリを手で振り払いながら雅斗の元へと平然と歩いて来る。


(あいつがピンチになれば、この呪文を解いてくれると思ったがダメみたいだな)

「諦めんの早すぎだ!」


諦めが早い悪霊と、未だ諦めない雅斗。すると雅斗は少年の後ろで何かもぞもぞ動く紫色の大きな塊を見えた。


「おい!後ろ見ろ!後ろ!!」

「そんな手には乗らんぞ。まっ、動けないからそんな事言っても無駄だけどな」


必死の呼びかけに、全く聞く耳を持たない少年。後ろに全く気づいてないようだ。そうとは知らず、右手から赤い魔法陣を出し始める。

雅斗は気づいた。大きな塊は、魔獣達の死骸達が集まり、1つの物体として再構成している。そのため、少年が倒した魔獣達全部が塊へと集まって行く。


(メンドくさい奴らだな。死んだのに1つに纏まりやがって……)

「ど、どうなるんだ。集まったら……」

(1つの魔獣へとなる。自我がない危険な魔獣にな)


死骸が集まった巨大何だ塊からは骨が剥き出しの長い右手が出てきて地面に手をつき、左手からも骨が剥き出しの長い手が地面につく。出て来た場所からは、紫色の体液が溢れ落ち、地面を溶かしており、軽い煙が出て来た。そして異常な異臭を放っている。流石にその異臭に気づいた少年はようやく塊の方へと向く。


「何だ⁉︎これは……」


驚きのあまり口を開けたまま、動きを止めた。右手の魔法陣も消えた。

塊は、異様に筋肉が発達した右足と左足が出て来た。そして後ろの方から、2本の尻尾が出て来た。その尻尾の先端の方には、鋭利な銀色の突起物がある。更に顔が液体をこぼしながらゆっくりと出て来た。顔半分がで出来ており、夥しい量の小さな目と1本の鋭利な牙、緑色の長い髪の毛、そして口から紫色の体液を常時垂れ流している。その液体も地面を溶かしている。生き物として形を整い始め、大型魔獣へと変身を遂げた。大型魔獣はガラガラな大声で叫んだ。あまりにも大きな声に威圧され思わず後ろに下がったしまう少年。


「くっ……架蝉旋風陣!!」


とっさに呪文を唱え、無数の魔法陣から刀を魔獣へと発射する。魔獣は一歩も動かず、全てな刀が直撃する……が全て身体を貫通した。ダメージを食らった様子も一切無い。


「ちっ!!」


刀を持ち強く握りしめ、魔獣の右手目掛けて走る。魔獣は右手を少年に向けて素早く振り払う。少年は右手の下を滑り込んで、攻撃を回避する。方向戻し、素早く魔獣の右手を刀で切り取り、魔獣の正面へと出た。骨の右手がずり落ちてバランスを崩した魔獣、体液が一気に垂れ流れる。


「よし!」

「危ない!!」


安堵の表情の少年だが、雅斗の声が聞こえた頃には遅かった。左を見た瞬間、魔獣の左手が目の前まで迫っていた。防御する暇もなく、攻撃が身体に直撃する。身体全体にダメージをくらい、勢いよく木に激突する。

魔獣は体を少年の方へと左手と両足でゆっくりと方向を変える。そして右手が失った場所から再び骨が飛び出てくる。


「再生能力持ちか……」


遅い速度だが少年の方へと動き始める。魔獣が接近して来て少年は余裕で避けた。だが魔獣は止まらず、そのまままっすぐ進み続けた。魔獣が通った場所は、地面が溶け、草木は腐り、異臭を放っている。


(自我がないあの魔獣は目的もなく、破壊をし続けて)

「何⁉︎」


魔獣の進む先には街があり、もし魔獣が街に到達したら大惨事になる。ここは山頂だが到達するまで時間がない。


「おい!あいつを何とかしろ!!街に到達したらどうなるか分かってるんだろうな!!」

「……」


手が震えている少年。


「俺の呪文を解け!俺なんかよりもあいつの方がもっとヤバいぞ!!」

「うるさい……うるさい!悪魔め!!僕1人で倒せる!!」


そう言うと、少年は1人で魔獣の方向へと飛び去って行った。


「クソっ!!あんなの1人じゃ倒せねえよ!」


少年は雅斗の声に耳を傾け向けず、悔しがる。すると突如体に掛けられていた魔法陣が全て解け、動けるようになった。


「動けるようになった……」

(体力は大丈夫か?)

「あぁ、多少はあるさ」


雅斗はすぐさま少年の方向へと走って行った。高い木の上で、走っていく雅斗を眺めているロングコートの少女がいた。

少年は魔獣に追いつき、手を横に払い呪文を唱える。


「架蝉旋風陣!!」


魔法陣から無数の刀が勢いよく飛び出て来て、魔獣の後方に攻撃する。やはり攻撃は貫通して傷がすぐ治った。


「こっちに関心を向けさせられれば!サンクション!!」


再び刀を魔法陣から発射し、関心を向けようとすると、魔獣の尻尾2つが少年目掛けて、ゴムのように伸ばしていく。1つ目の尻尾の先端にある鋭利な突起物が少年に足に擦り、気を取られたその瞬間、もう1つの尻尾の突起物が少年の右肩を肉をえぐり取るように貫いた。少年はそのまま木に叩きつけられた。魔獣は見向きもせず進み続ける。


「ブハァッ!!」


魔獣は右肩の突起物をゆっくり抜き取り、再び尻尾を倒れている少年を標的に定めている。少年は痛みに悶えていて、薄目で魔獣を睨んでいる。そして尻尾2本が少年へ狙って尻尾を伸ばして来た。2本は同じ長さで同じ直線上で、少年の胸部分目掛けてまっすぐ伸びて行く。


「うおぉぉぉぉ!!!」


当たると覚悟し目を瞑った瞬間、目の前に刀を思いっきり振り下げて、2本の先端を切り落とした雅斗の姿があった。


「き、貴様……なぜ魔法陣が……」

「お前が解いたんじゃないのか?とにかくあいつを食い止める!!街へは行かせん!!」


雅斗は魔獣へと突っ走って行った。


(魔獣の正面へ出ろ!)

「おう!」


木の間を素早く潜り抜け、魔獣の正面へと出た。だが依然と進み続ける魔獣。


(刀に力を入れろ!真っ二つに切り裂くぞ!」

「分かった!!はぁぁぁぁぁ!!」


両手で持った刀に、意識を全て刀へと向け、段々と刀から紫色のオーラが出て来始め、オーラで刀の長さが倍になった。


「これぞ奥義!!魔箋剛冥刀(ませんごうめいとう)!!」


雅斗は魔獣の目の前で大ジャンプし、魔獣の頭上から首を一撃で切り落とした。魔獣を倒したと思いきや、まだ動いており、左手で振り払おうとするが雅斗はすぐさま悪魔の左手にして、魔獣の左手を返り討ちにして破壊した。バランスを崩し、地面に崩れ落ち始める。


「お前も早くしろ!復活するぞ!!」

「僕に指図するな……」


少年は立ち上がり、右手に黒色の魔法陣を生み出し、そのまま地面に叩きつける。すると、魔獣の頭上に黒の魔法陣を現れた。


(これが僕の限界だ……もう少し大きければあいつを消せるのに……)


魔法陣は魔獣の頭上に現れたが大きさが足りず完全に消すことができない。

魔法陣の存在に気づいた雅斗は魔獣の後ろ足へと滑り込み、足を2つ共切り落とした。完全にバランスを崩し倒れる。残った右手だけで進んで行く。だが足を切り取ったおかげで魔法陣のの範囲内に魔獣の体が入った。雅斗の掛け声とともに少年は大声で呪文を叫んだ。


「さぁ行け!!」

「喰らえ!!!洸憐珠陣(こうりんしゅじん)!!」


魔法陣から光が降り注ぎ、魔獣の体をゆっくりと溶かしていった。そして跡形もなく消えて無くなった。


「た、倒した……」


少年はニヤリと笑いそのまま倒れてしまった。雅斗も体力を使い果たし倒れた。

魔獣は山の中部で撃退に成功し、被害は最小限にとどめた。2人が倒れているところに、黒いロングコートの少女が飛んで来た。そして少年の所へ歩いて行った。


「あんたはまだ未熟者ね、ろくな呪文が唱えられないのね」

「……やっぱり姉さんだったか……あいつの呪文解いたのは」

「1人じゃ勝てないと思ってね。まっ……片付いたからいいけどね。あと1人……」


すると雅斗の方へと向かおうとする。赤い魔法陣を生み出して


「待て姉さん!それは僕の獲物だ……僕が倒す」


少年は力を振り絞り立ち上がり、雅斗目掛けて叫ぶ。


「今度だ……また今度来る!その時にもう1度勝負だ!!そしてお前の悪魔を消す!」

「あぁ……上等だ。俺も強くなってやる」

「好きにしなさい」


少女は少年の肩を持ち、生み出した魔法陣の中へと入ろうとする。すると少年は雅斗に一言いう。


「俺の名は、神咲兵治(かみざきへいじ)!覚えておけ!」

「影山雅斗だ!お前も覚えておけ!」

(面白い祓魔師もいるもんだな)


お互いの名前を言い合い、今度こそ魔法陣の中に入ろうとするが


「ちょっと頼みがあるんだが……」


夕方の病院、夕日で空はオレンジ色に輝いている。

雅斗の病室に、メガネをかけた口紅が濃い看護婦が入って来た。


「雅斗君!お元気ですか!!ってすごい汗⁉︎大丈夫⁉︎」

「いや、あの……えぇ、大丈夫です」


雅斗の病室から響き渡る看護婦の声、そして病院の屋上から、空を眺める兵治と少女。


「影山雅斗……その名前覚えたぞ」


そして2人は魔法陣の中へ入り消えた。

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