抗う運命
雅斗が再び目を開けると周りは真っ暗なっていた。それに今回は夢の中に悪霊が出てこなかった。
「暗くなっている……ん?」
そして隣で小さい寝息を立てる美呼が横たわっていた。
「美呼……」
美呼を起こそうと手を伸ばすと、体育倉庫の扉の前に人の気配を感じた。
すぐさま確認するが、その人影は消えた。
「あの悪霊か……」
ゆっくりと体育倉庫出ると、いつもと何も変わらない体育館、だが何かがおかしい……路地裏の時と同じどんよりとした空気がただよう。
体育館の入り口に人影が見えた。すぐさまの方向へと走って行く。
「あなたは……」
「久しぶりだね……雅斗君……」
目の前には、宮下先生。だか夢の中と違い、感情があり、言葉に力を感じる。
「雅斗君……こっちに来なさい……もう帰る時間だよ……」
でも俺は体から冷や汗が出て来た。そして先生はゆっくりと此方に近づいて来た。影がある、実体がある。俺はその事が怖かった。
「久しぶりに話をしようよ……いっぱい話したい事があるんだ……」
笑顔で近づいてくる先生。すると体育倉庫のドアが開いた。
「雅斗!起きたなら私も起こしてよ!」
美呼が起きたて、俺の元へと近づいた来た。
「おーい!返事してよぉ!どうしたの?」
「美呼……下がったろ。危険だ」
「え?」
不思議そうな顔をする美呼だが、正面を見るとその表情は固まった。
「時雨さんもいましたか……3人で久しぶりに話をしましょうよ……」
「えっ……宮下先生……なの……?」
この時やっと気づいたが、美呼、驚きのあまり口が開いたまま膝を床についた。
「あぁ……嬉しいよ……私……俺は嬉しいよ……」
先生の様子がおかしい、ヨダレをたらし、目の焦点が合っていない。それに俺と言っている。
「は、早く行こうよ……2人共……俺と共に行こうぜぇ…早くぅぅ……」
呂律が回らなくなり始め、段々顔や体の形が崩れ、髪の毛は急激に腰のあたりまで伸び、赤黒い目、人間とは思えない大きな牙、黒い肌、巨大な右手と爪、ティラノサウルスの様な発達した足、そして2m近くある長い尻尾。宮下先生の身長約1m70cmから2m以上ある化け物へと変身した。
「な、なんだよ……あれ……」
「じわりじわりと絶望させて殺そうとしたのによ……2人も来たら我慢出来なくなるじゃねぇか……美味そうだなぁ。ヨダレが止まんなぁいな」
声もガラガラなドスの効いた声に変わり果てた。
このままじゃ美呼までもがあいつに襲われてしまう……逃げるしかないが入り口には奴が道を塞いでいる……どうすれば。
すると化け物は手を地面に付け、チーターの様にに2人の方へと猛スピードで走り寄って来た。
「立て!美呼!あれは宮下先生じゃない!」
「えっ……」
正気を戻し美呼を立ち上がらせた瞬間、化け物が1m間近まで接近し、右手を振り上げ俺の体めがけて振り下ろした。そのスピードは目では追えなかった。俺は美呼側に寄せ、倒れた。直撃は間逃れたが、右肩に一撃攻撃を食らった。
「くっ……!!」
「雅斗!」
右肩の肉が少しだけ抉られ、その部分から多くの血が流れた。制服は徐々に赤く染まり、すごくズキズキを痛みが襲ってくる。血を止めるためにただ肩を抑える事しか出来ない。そんな俺を見て化け物は不敵な笑みを浮かべ、爪についた血を舐め始めた。
「人間の血はいつ見ても綺麗だ……やはり食うなら人間だよなぁ……」
近くで見るととても怖い、体が自然とブルブルと震えてしまった。
「早くその血を……もっと吸わせろぉぉ!!」
化け物は右手を再び俺に目掛けて突いて来た。俺はうまく体を右に一回転し、化け物の突いた爪は床に刺さり、抜けなくなった。
「くっ……人間がぁ!ちょこまかとしやがる!」
「み、美呼!行くぞ!!」
「う……うん!」
痛みを堪えて美呼の手を力一杯握りしめ、体を引っ張り体育館から出る。ドアを閉め、渡り廊下から学校の教室の方へと逃げる。外へ逃げると言う手もあったが、広い場所に出ると、捕まる可能性が高まる。それになんとしても美呼を安全な場所へと避難させなければいけない。
体育館では化け物が床から爪を抜き取り、再び不敵な笑みを浮かべている。
「絶対に逃がさんぞ……絶対になぁ!!ゲームを楽しもうしようぜ」
閉められた体育館のドアを爪で切り刻み破壊し、その場から消えた。
雅斗達は3階の端の教室、そこの奥で美呼のハンカチで肩の傷を抑えてもらっている。
「痛っ!」
「我慢して。それに大きな声出すと場所がバレちゃうから」
「す、すまない……でも何とか落ち着いたよ……」
ズキズキとしていた痛みは美呼のハンカチを抑えていたら多少だが痛みが引いた。でも、血は中々止まる気配はなく、息も更に荒くなって行く。
「ありがとね……体育館で動けない私を引っ張ってくれて……」
「いいんだよ、それくらい……」
美呼は怪我1つ無くホッとした。だけど、美呼の目から何粒もの涙がポロリと落ちていた。
「本当ありがとうね……」
「それよりも早くここから逃げよう。感謝はそれからだ」
隠れてから10分後、学校中に化け物の歩く音や声は無く、静かな空間が2人の不安の煽る。
「いなくなったか……」
「今の内に逃げようよ」
「あぁ……だが気をつけて行くぞ。俺が先に見てくる。合図を送ったら来い」
美呼を教室に残し、なるべく足音を立てずに教室の外へ確認する。右、左と確認し、化け物がいない事を確認し、美呼の方へと顔を向けて来いと手招きをした。
だが、美呼は口を開けて言葉にならない声を上げた。
「あ……あぁ……」
「……⁉︎」
一呼吸起き、ゆっくりと廊下へと振り向くと──
「み〜つけたぁ〜」
踊り狂う様な舌を出し、顔を目の前に近づけて来て、三度右手を振りかざした。
「死ねぇぇぇ!!」
「雅斗!!!」
化け物の右爪が、雅斗の服を超え腹の肉をえぐり取った。服には爪痕が残り、体から大量の血が吹き出た。
「生きてるかぁ?小僧!」
「ぐわぁぁぁ!!ー
小馬鹿にする感じで俺の様子を伺う化け物。俺は痛みに苦しみ、息をするのがやっとの状態で手足は一切動かす事が出来ない。そして意識が段々と薄れて来た。
化け物はゆっくりと美呼の方へと近づいて行く。遠のく意識の中で、あの時の悪霊の言葉を思い出す。
『悪霊が見えるとゆう事は死期が近い訳だ』
その時雅時は思った。本当だったんだ……あの時の言葉……俺……死ぬのか。悪魔が言っていた言葉、それが実現になろうとしていた。
美呼の前で止まる化け物。自分の爪を舐めながら、不気味な笑みを浮かべている
「どうやって食べようかな〜」
「や……やめて……!」
美呼は腰を抜かし動けなくなっていた。
「やめろ……美呼に……近……づくな…」
手を化け物へと伸ばそうとするが、力が出ず、ただ化け物が美呼へと近づくのをみてるだけだった…
「美呼を……守れず……死ねるか……死んでたまるか……」
『その言葉を待ってたぜ……』
いきなり心の中に誰かが話しかけて来た。それもどこかで聞いたことのある声が。だが意識は無くなり雅斗の目をそっと閉じた。だが心臓は微かに動いている。
目を開けると無限に広がる黒い空間にいた。
「ここはどこだ……俺は死んだのか…」
辺りを見渡しても黒く、服は傷ついたままだが肩と腹の傷は治っている。
『俺の事覚えていないか』
「⁉︎」
どこからとも無く声が聞こえてくる。
「誰だ……誰なんだ」
『俺だよ俺、今日路地裏でお前に話しかけた』
「あの時の悪霊……?」
『あぁ、その悪霊さんさ』
姿は見えず、悪霊は声だけが空間の中で聞こえる。
「悪霊……ならさっきのは」
『あれは悪霊じゃない。あいつは悪魔だ』
「悪魔?悪霊と違いはあるのか?」
先生になりすまし、俺を襲っていたのは悪霊じゃなく、悪魔だった。訳がわからないが、悪霊の仕業ではなかった。
『悪魔はさっきの奴みたいに実体がある者の事を言う事だ。悪霊は俺みたいに一度死んで実体がない者の事を言う』
悪霊が言ってる事も気になったが、もう1つ気になる事を聞いた。
「俺は死んだのか!」
『お前は死んだと言うよりは生死の狭間にいる。ほぼ死んでると同じだな。それとあの女はまだ生きているが、あの悪魔に殺されるのも時間の無駄だ』
「死んでるのと同じか……美呼を……守る事が出来なかった……」
美呼を守れなかった自分が悔しくて、手をおもいっきり握りしめる。すると悪霊が意外な一言を言い放つ。
『まだ生きるチャンスがあると言ったらどうする?』
「チャンス……だと?生き返るチャンスがあるのか⁉︎教えてくれ!」
美呼を守れなかった自分が情けなく、そのチャンスに賭けるしかない。俺は悪霊の言葉に耳を傾ける。
『俺と契約する事だ』
「契約だと?」
俺はそんな事を考えた事もなく、どうなるのかも分からない。それにこの悪霊が言っている事が本当なのか疑問に思う。
『俺とお前が契約すれば一つの命となり生き返る事が出来る。死にかけたお前の体に、俺の霊魂と同化し、お前を生き返らせる事が出来る。その代わり……』
悪霊は言うのを急に止めてしまう
「その代わり何だ!教えてくれ!」
『俺はと契約すればお前の体は半分人間半分悪魔となる……』
「悪魔になるだと……」
悪魔になるという事は俺を襲った化け物と同じになるという事だ。つまり人間を捨てるのと同じだ。
『そうだ人間でもあり、悪魔でもある。悪魔の力を持つことになる……』
「くっ……で、でも……」
『お前はこのまま女と共に果てるか、俺と契約し運命に抗うかどっちを選ぶ。心配するな、身体は今までのお前のままいられる。別にあんなゲテモノにはならないさ』
どうなるかは分からない。だけどここで拒んだら美呼は死に、俺も死ぬ……
『契約するなら手を伸ばせ。早く』
俺は力一杯の声で悪霊言い放ち手を前に出した。
「俺は運命に抗う!!!!」
『なら契約完了だ……』
そう言うと伸ばした俺の手に何かが触れた。それはとても冷たかった感触だった。そして触れた瞬間、俺は化け物がいる教室へと先程の倒れたままで戻ってきた。




