子悪魔の頼み事⑵
顔を上げるとキャップとマスクとサングラスを付けた明らかに怪しい男がいた。
「うわぁぁぁ‼︎だ、誰⁉︎」
「落ち着いて‼︎私は君のお父さんの友達だ‼︎」
「お、お父さんの⁉︎」
「あぁ……さっおじさんの車に乗るんだ。病院に行こう。君のお父さんが事故ったんだ‼︎」
「えぇぇぇ⁉︎」
現世の事を全く知らないイルノは、不審者何て事も全く知らず、基本的な事しか知らないため、変なおっさんの車に乗り込んだ。するともう1人おっさんが乗っていた。おっさんがドアを閉めた瞬間、口をガムテープで塞がれ、両手をガムテープで縛られた。
「ん〜⁉︎ん〜⁉︎ん〜〜⁉︎」
「黙れ‼︎これで殺されたく無かったら黙れ‼︎」
男が見せてきたのは鋭利なナイフだった。それに魔力が全くないイルノは抵抗虚しく車で何処かに連れてかれた。
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日差しが強い昼頃、雅斗は静観駅付近の街をぶらぶらと辺りを見渡しながら歩いている。建物が多く、人が行き交い、大きな建物には巨大モニターが設置されている。モニターからはニュースが流れてくる。
ここ数日、幼児誘拐事件が相次いでいます‼︎お子さんをなるべく1人にしないようにお気をつけてください‼︎
そのニュースを見て雅斗は心配そうな顔になる。
(何だ?あのガキの事が心配なのか?)
「あぁ……微量の魔力が全く感じなくなってな……それにあんなに人間を信じている……変な事に巻き込まれていないか心配でな」
(魔界に帰ったんだろ……)
「だといいんだけどな)
雅斗は多少の後悔をしていた。確かに手伝うと人殺しになる。だが、もう少し何とか言えなかったのかと後悔している。
(獅子の子落としってことわざがあるだろ。自分の子に試練を与えて一人前に育てるって)
「そりゃ……そうだが……猫にビビる奴に本当人殺しを出来るのかって……⁉︎」
すると、雅斗の頭に何か違和感が感じ、雅斗は街中で立ち止まった。テレパシーみたいな頭に何かが話しかけて来た。
ーー雅斗兄ちゃん助けてぇ‼︎ーー
「この声は⁉︎イルノ⁉︎」
イルノが泣きそうな声で雅斗の脳に話しかけて来た。
「何処にいるんだ⁉︎」
ーー変な人間に変な乗り物に乗せられて、変な場所に連れてかれているんだよぉ‼︎ーー
「変な人間……変な乗り物……変な場所に連れてかれている……」
雅斗がたどり着いた答えとは……
「まさか‼︎誘拐されたのかぁ⁉︎」
「くそっ……その乗り物から何か見えるか⁉︎」
ーー森の中で……遠くにとっても大きな山が見えるーー
「大きな山⁉その山に︎特徴はあるか⁉︎」
ーー山の上が白い……事かな……ーー
「まさか……」
雅斗の顔が青く染まって来た。森の中、そして山の上が白く染まっている……
「ふ、富士の……樹海ぃ⁉︎」
(こりゃまて遠い場所だこと)
ーー早く助けてぇ‼︎ーー
(まさか助けに行くとは言わないよな)
「……行くしかないだろ‼︎俺達がもっと話を聞いとけば……でもここから富士山までめっちゃ時間がかかる……新幹線に乗って行けば……」
雅斗はポケットから財布を出し、お金を見る。
「……これしかない……」
ポケットから出したのは500円玉一個だった。
(……)
「どうやって行けば……」
(ちっ……めんどくせぇガキだぜ……おい‼︎いい作戦があるぞ。乗るか)
「な、何だ⁉︎」
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「こんな事して本当に大丈夫なのかよ⁉︎犯罪じゃねぇか⁉︎」
(助けに行くんだろ‼︎腹ぁくくれ)
雅斗はフードを深く被り、静観町の川にある鉄道橋の鉄骨の上に乗っている。風が吹き荒れ、今にも落ちそうになるが、鉄骨に捕まり踏ん張る。
そして遠くから新幹線が猛スピードで鉄道橋に近づいて来るのが見えた。
(もうすぐ来るぞ‼︎飛び降りる準備をしろ‼︎)
「……やるしかねぇか‼︎」
新幹線が雅斗達の真下を通って瞬間、雅斗は飛び降りた。
「やけくそだ‼︎このヤロぉぉ‼︎」
雅斗は刀を出し、真ん中の車両に突き刺そうとするが勢いよく新幹線の上部にぶつかり、何回もぶつかりながら、後ろの車両まで吹き飛ばれた。
「落ちてたまるかぁぁ‼︎」
最後尾の車両まで吹き飛ばされ、そこで力を振り絞ってて上手く片手で刀を車両に刺してしがみついた。
雅斗の身体はボロボロになって、頭からは血が流れている。いつ振り落とされてもおかしくない状態だが、歯を食いしばって耐えている。
(このまま富士山まで耐えろよ‼︎)
「う、うるせぇ〜‼︎」
雅斗が新幹線は富士山の方角へと進んで行く……
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イルノは富士の樹海へと誘拐犯に連れてかれていた。車は森の中へと入り、横たわっているイルノが見えるのは大量の木の横を通り過ぎているだけだった。そして車が激しく揺れ、その度にイルノが軽く宙に浮く。
「んーー‼︎」
「うるせぇガキだな〜黙らせろ」
「おう」
そう言うと後ろの席に乗ってる男がイルノの顔を1発殴る。イルノの鼻から血が流れて来る。そしてイルノは後悔した。
人間ってこんなな生物だったなんて……お父さんとお母さんが言っていた事は本当だったんだ……人間は醜く、卑怯で、自分より弱い奴にしか威張れない生物だって……雅斗兄ちゃんも言ってた……下手に優しさを信じる過ぎると、逆に辛い目に合うぞって……僕みたいなよわっちい奴じゃ生き残れないよね……ロジさんが言っていたように……
そして車は止まり、縛られたイルノは雑な扱いで車から放り出された。
そこは木が生い茂っており、草もイルノの顔を覆い隠すくらい伸びきっている。地面には虫が歩いており、虫を見た瞬間驚いて後ろに背を向けた状態で素早く後ずさりした。
「ひぃぃぃ‼︎‼︎」
そしてそのまま木に頭をぶつけて気絶してしまった。
「こいつ気絶しやがった……」
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そして雅斗は刀で新幹線にしがみついて数時間……線路の下は木が生い茂っており、遠くに山が見えてきた。
「おっ?あれは⁉︎」
雅斗が見たのは富士山だった。
(よし降りるぞ‼︎)
「おう‼︎」
雅斗は新幹線から飛び降り、そのまま木に葉っぱに直撃し、木の枝に擦りながら地面に落ちた。葉っぱがクッションになり、雅斗は何とか軽傷ですんだ。
「痛てて……この先が富士山か……ロジ‼︎魔力を感じるか?」
(僅かに感じる……あっちの方だ)
「富士山の方面か……よし行くぞ‼︎」
雅斗は痛めた腰を抑えながら無理矢理立ち上がり、急いでイルノがいる方向へと走って向かった。
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「おい起きろ‼︎おい‼︎」
「ん……ん⁇」
男の声に、イルノが目を冷ますとサングラスとキャップを被った男2人がナイフをイルノにチラつかせていた。
「ん〜‼︎ん〜‼︎‼︎」
「もう殺すかこいつ?」
「あぁ……じっくりとな……」
イルノの目には涙が溜まって来た。悲しみの涙なのか、人間を信じ過ぎた自分の悔し涙なのか……
「こいつ泣いてやがるぜ‼︎」
「ゆっくりと楽にしてやるからな……だからこれ以上泣くなよ‼︎」
怒鳴り散らしナイフを目の前に見せる男達。泣き叫ぶイルノ。だがここは富士の樹海……泣いても騒いでもイルノの声は誰にも届かない……
イルノは不審者の1人に地面に顔を押し付けられた。
「まずはじっくりと痛ぶってやる‼︎」
「ひっ‼︎辞めてくれぇぇ‼︎」
「騒いだって誰も来ねぇよ‼︎こんな所にはな‼︎」
不審者が拳を振り上げると、何か倒れる音と共に、不審者を人影が隠す。
「本当に誰も来ない……かな?」
「ん?何だ?……⁉︎」
そこには倒れているもう1人の不審者とボロボロの服装の雅斗が背後にいた。
「雅斗兄ちゃん⁉︎」
「だ、誰だ貴様⁉︎」
そう言いながら、不審者は雅斗に見えないようにナイフを隠し持つ。
「さぁ……その子を離してもらおうか。離したらお前に危害は加えない」
「ガキが一丁前な事を言うな‼︎」
怒りの声をあげる不審者は隠し持っていたナイフを雅斗の顔目掛け突き刺す。
「ふんっ‼︎」
迫るナイフに雅斗は微動だにせず、すぐさま刀を出し、そのままナイフを上空に弾き飛ばした。すると不審者は刀を急に出した雅斗に驚き、腰を抜かしてしまった。
「ひっ、ひぃ〜‼︎」
激しい怒りがこみ上げて来た雅斗は刀を不審者に向ける。
「怖いか……この状況が……こいつも同じを今、味わっていたんだぜ……死の恐怖を……」
「ひっ……ひぃ……」
(どうする?殺すか⁉︎殺すのか⁉︎)
怯えて言葉にならない声を上げ、気絶する不審者。そしてワクワクした声で不審者を殺すか聞くロジ。雅斗の答えは……
「イルノ……こうゆう時こそ、お前の出番だ……」
「えっ⁉︎」
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1時間後……
「うっ……何だ……う、動かない⁉︎」
「紐で結ばれている⁉︎」
2人の不審者が目を覚めると紐で手足が結ばれている。
すると目の前にイルノが無表情の立っていた。
「お、おい‼︎ガキ‼︎俺達の紐を解いてくれ‼︎」
「解いたら無事に家に帰らせてやるから‼︎」
イルノは自分の拳を握りしめると、姿が徐々に戻って行く。
「え……えっ……何だよ……お前⁉︎」
「貴方達は僕を騙した……」
声と身体が震え始める不審者達。そしてイルノは幼稚園児ぐらいの体から変化した。
宙に浮遊する黒いマントとフードを羽織った、顔の隠れた赤く光る目の悪魔になった。
「ば、化け物ぉぉ‼︎」
「助けてくれぇぇ‼︎‼︎」
ジタバタと暴れる不審者達、イルノがゆっくりと近づく。
「ここは富士の樹海ですよ……誰も来ません……貴方が言ったんですよ……」
「ゆ、許して……」
「貴方達みたいな悪は……滅べ……」
今まで聞いたことのない低く、暗い声で言うイルノ。そしてイルノはフードに手を掛けた。そしてゆっくりと外した……
「う……ウギャァァァァァ‼︎‼︎」
その顔を見た不審者達の悲鳴が富士の樹海に響き渡る。
そしてイルノの魂球に2つの黒い魂が入って行く。イルノがフードを被ると雅斗が木の裏から出てきた。
「これでいいの……雅斗兄ちゃん……」
「あぁ……」
(中々やるじゃねぇかガキ)
するとイルノは雅斗に頭を下げる。
「ごめんなさい‼︎僕のせいで……」
俯くイルノに雅斗は優しく頭を撫でた。
「いいんだよ……これから気をつければいいんだからな。まっ、ここまで来るのは大変だったけどな」
軽く笑う雅斗。するとイルノがポケットからある物を取り出した。
「これあげる……助けてくれたお礼に」
「これは……?」
それは魂球と同じサイズの水晶が渡された。水晶の中には青い炎が燃え上がっている。
「これは炎燿球と呼ばれる魔界でのラッキーアイテムみたいなものだよ。すこしでも役に立てれば……」
「ありがとう」
「じゃあ僕魔界に帰るね‼︎雅斗兄ちゃん‼︎ロジさん‼︎ありがとうございます‼︎また会えたら会いましょう‼︎」
イルノの身体が徐々に透明になっていく。笑顔で手を振るイルノに、雅斗も笑顔で手を振る。
「また……会えたらな」
そしてイルノは現世からいなくなった……
「さぁ俺達も帰るか」
(どうやってだ?)
「あっ……」
(またあれやるか‼︎)
「えぇ……」
雅斗は再び新幹線にしがみつき、静観町へと帰ることが出来た……
そして数日後に富士の樹海にて100歳位の男2人の死体が見つかった事が明らかになった……2人の死因は未だはっきりせず、何故あの場所に居たのかは不明な未解決事件となった……