子悪魔の頼み事?
夜10時頃……雅斗は部屋のベッドで寝転び、天井を見上げている。そして1人でボヤく。
「なぁロジ……」
『なんだ?』
「悪魔の中にはいい奴はいるのか……」
『……』
ロジは意外な質問に一瞬黙り、そして雅斗に語った。
『悪魔なんぞにそんな思考があると思うか?』
「どうゆう事だ?」
『悪魔には何がいい事で、何が悪い事なのか教えてくれる奴なんて1人もいない……知っていたら悪魔なんて存在しないさ……』
「……複雑な世界だな……魔界も……」
『ふん……』
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夜中……雅斗が寝ていると、声が聞こえて来た……
(誰か助けてぇ‼︎誰かぁぁぁ‼︎)
子供のような声が眠りについている雅斗を苦しめる。
「あぁ……うるさいなぁ……」
無視して布団を被り、眠りに就こうとすると……
(誰かぁぁ‼︎誰かぁぁ‼︎)
「誰だ‼︎この声は⁉︎」
雅斗は飛び起き、周りを見渡す。
「くっそ‼︎誰の声だ⁉︎休みなんだから寝させろよ」
『ふっ……微量の魔力を感じる……』
「微量の魔力?ちっ、寝つく事が出来ねぇ。見に行くか……」
雅斗はパジャマの上にジャケットを着て、窓から外へ出て行き、家と家の屋根を飛び越えながら、声がする方向へと向かう。
「一体何なんだよあの声は……」
「うぇぇ〜ん‼︎誰かぁ……助けてぇ」
雅斗が到着した場所は、ゴミステーションの前だった。そこには古い着物を来た小学生位の子供が雅斗に背を向けてしゃがんで泣きじゃくっている。
「これが魔力を発していた奴か……」
雅斗は刀を出して、いつでも襲われて大丈夫なように構えながら近く。
『ビビってんのか⁉︎』
「ビビってねぇよ、もしこれが罠だと思うと不安でしょうがない……」
雅斗は恐る恐る泣いている子供を覗きこむと……
「本当に来てくれたんだ‼︎」
「えっ⁉︎」
それはねずみ色をしたおでこにツノが生えた涙が浮かんでいるビー玉みたいなまん丸な目が特徴の悪魔だった。だがそれ以外は人間っぽく、服装がちょっと古い事を除けば。
だが子供が雅斗を見た瞬間、大声を上げる。
「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎人間だぁぁ‼︎」
子供は電柱に身を隠した。雅斗が見た感じでは、悪魔達とは違い、普通の子供がコスプレしたようにしか見えなかった。
『微量の魔力は悪魔のガキンチョかよ……』
「ちょ……ちょっと待て‼︎俺は確かに人間だが半分悪魔だ‼︎」
「ほ、本当に……?」
「あぁ……本当だ‼︎」
雅斗は握っている刀を消して、攻撃の意志はないと告げる。隠れている子悪魔のツノがピクピクと揺れ、そして動きが止まり電柱から出て来て、雅斗に近き口を開く。
「お兄ちゃん本当に悪魔なの?」
「まぁな……色々とあって……」
『お前の名前はなんだ?ガキ』
「い、今のは悪魔の声⁉︎」
ロジの低い声にびっくりする子悪魔。雅斗が優しく話しかける。
「コイツはなロジって言うんだ。死んで身体がないんだが、俺と契約を結んで今は半分悪魔で半分人間なんだ」
「契約……学校で習ったような……」
「学校とかあるんだ……」
雅斗は子悪魔について尋ねた。
「君の名前は?」
「僕はイルノ……お父さんとお母さんに現世に行けと言われて……」
「お父さん?お母さん?」
そして子悪魔のイルノは語り始めた。
「子悪魔は、1度現世に行って人間に化けて、1人殺さなきゃ行けないんだ……」
「……」
「でも僕、まだ人間に変身出来る力がまだ未完成で……こんな姿に……」
「確かに……」
確かに肌はねずみ色で今風の人間とは違う古風な着物の服を着てて違和感丸出しだ。するとイルノはポケットからある物をだした。
「この魂球に、人間の魂を入れてから戻って来なくちゃ行けないんだ……」
「これが魂球?ただの透明の球じゃねぇか?」
(こんなの魔界でも見た事ねぇぞ?)
それは野球ボール位のサイズの透明な水晶の球だった。
「人間の魂を閉じ込めれば魔界に帰れるんだけど……僕、そんな殺すなんて勇気がないから……あんなに怖い生物……僕に殺す事なんて出来ないよ……」
「だからここにいるって訳か……」
「そもそも何で悪魔と人間はお互いを憎み合い、お互いを嫌っているの?」
「……それは……」
するとイルノの後ろから黒猫がトコトコと歩いて来た。
「にゃぁ〜」
「う、うわぁぁ‼︎ね、猫だぁ⁉︎」
イルノの足に顔をスリスリして来た猫を見た瞬間、顔が青白くなり、目は白くなり、その場に石像のように倒れた。
「ダメだ……こりゃ……」
(どうするんだこいつ……』
『放ったらかしもあれだしな。はぁ……これしかないか……」
呆れた雅斗とロジが行った行動は──
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朝──
イルノが目を開けると、ベットの上で布団を被されていた。
「はっ⁉︎ここはどこ⁉︎僕は一体⁉︎」
「起きたか……」
『猫で気絶するなんて悪魔失格じゃねぇか?』
「……」
「それは流石に言い過ぎだろ……」
ロジがキツく言うとイルノが顔を下に向けた。
『人を殺す悪魔が猫なんぞ殺せないんじゃ、一人前にはなれんな』
「う……うぅ……」
イルノの目に涙が溜まり出した。涙に気づいた雅斗はすぐにイルノの頭を撫でる。
「まぁまぁ泣くなよ……」
「あ、ありがとう」
『泣かれたら堪んねぇしな。こんなガキに……』
ロジのボソッと小声で言った言葉が、イルノの耳に入り、イルノの涙腺のダムを決壊させるには十分な言葉だった。
「うっ……うえぇぇぇぇぇん‼︎‼︎‼︎」
「何泣かしてんだよ‼︎バカ‼︎」
『お、俺は本当の事を言っただけだぞ‼︎』
「余計なお節介なんだよ‼︎美呼にバレるじゃねぇか‼︎」
イルノの轟音の鳴き声に雅斗は片耳を塞ぎ、イルノに布団をかぶせる。そしてドアが開く。
「雅斗?何か大きな音ださなかった?」
「だ、大丈夫だ‼︎何でもない‼︎」
美呼が不思議そうにするが、雅斗は冷や汗を掻きながら、イルノを必死に布団の中へと閉じ込めている。だがイルノは布団の中で叫ぶ。
「……‼︎……‼︎‼︎」
「雅斗⁉︎本当に大丈夫⁉︎風邪でも引いてる⁉︎」
「本当に大丈夫だから心配しなくていいぞ‼︎」
「……ならいいけど」
納得しない顔で美呼は出て行った。
「ひっく……ひっく……」
「はぁ……はぁ……何で俺がこんな目に……」
『めんどくせぇガキだな……』
「お前のせいだろ……」
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その後何とか泣き止み、イルノは語り出した。
ここに来たのは2日くらい前の夜……
お父さんの魔力で、僕はこの状態でこの街の公園に送られたんだ……
「ここどこ……?」
僕はこの公園のぶらんこ?って言う遊具で遊んでたんだ……そしたら……
「君?何処の子?」
青黒い服と帽子を着ていた男の人が居たんだ……しかも腰に棒を持っていたんだ……
「それって警察じゃあ……」
僕……思わず逃げちゃって……
次の日も僕が街を歩いていたら……
「あぁ〜可愛い⁉︎なんのコスプレ⁉︎これ食べる?」
短いスカートと変なパシャパシャなる道具を持った女の人達が僕を囲んで居たんだ……
「女子高生じゃ……」
変な食べ物をくれたりしたけど、怖くなって逃げちゃった……でもあの平べったいサクッとした食べ物は甘くて美味かったかな。
「それはクッキー……」
その他にも、僕と同じくらいの見た目をした子供達がさっかーって遊びに誘われたり、おばあちゃんに挨拶されたり、本当に大変だったよ……
そして昨日の夜にあの場所で兄ちゃんにあったんだ……
本当に怖かったんだ……
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この話を雅斗が思った事は……
「お前が勘違いしてるのは人間の優しさだ」
「優しさ⁉︎」
「悪魔の事は良く分からんが、人間って言うのは困ってる人を助けるんだ……」
「そ、そうなの?」
「あぁ……そうさ……」
「で、でも……人を殺してこの球に入れないと……帰れないし……」
雅斗は自分の顎を摩り考える。
「う〜ん……」
『おいガキ‼︎』
「ひっ、ひぃ〜‼︎」
ロジに怯えるイルノ。思わず雅斗の背中に隠れた。
「お前嫌われるようだな。ひひ」
『うるせぇよ‼︎ガキ‼︎一人前の悪魔になりたければやるんだ‼︎1人で生きていけねぇぞ‼︎』
「お、おい……」
雅斗が止めようとするがロジは言い続けた。
『俺だって1人で戦い、1人で死んだんだ。1人になるのは必然的な事だ。こんな事で躓いていたら親も悲しむぜ』
「……」
『人間なんぞの優しさに触れて殺しが出来ないだと⁉︎甘ったれるな‼︎』
そう言うとイルノは下を向き浮かない顔をしながら、そっとベットから降りた。
「ありがとう。雅斗兄ちゃん、ロジさん……」
雅斗の部屋の壁をすり抜けて出て行こうとする、イルノに雅斗が一言申した。
「1つ言うが、人間は全員が全員いい奴と思うな……下手に優しさを信じる過ぎると、逆に辛い目に合うぞ」
「うん、分かったよ」
そしてイルノは雅斗の家から出て行った?
『お前もそんな事言えるんだな』
「うるせぇよ」
静まり返る雅斗の部屋。雅斗はベットのイルノが寝ていた場所を触れるとそこには多少の温かみを感じた。
『あれが良かったのか』
「……手伝う訳にもいかんしな……人殺しの……」
『確かにこれはあのガキの問題だ。俺達がとやかく言う事はない』
「そうだな」
ロジの言葉に雅斗は静かにうなづくしか無かった……
「何で人間と悪魔は……なんでこうも合間見えないだろうな……」
『俺に聞くなよ……それは俺にも分からん事だ』
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昼頃……雅斗の家を出て行ったイルノは、トボトボとうつむきながら街を歩いている。昼なので日が差しており、イルノの見た目は明らかに浮いている。
「……あれは……?」
それは幼稚園児くらいの少年が親と共に歩いていた。
「あれが現世の子供……か……はぁ‼︎」
イルノは身体に力を入れると、イルノの見た目は古臭い服から幼稚園児の服を着て、ねずみ色の肌から人間の肌色へと変化し、特徴のあるビー玉みたいなまん丸な目はそのままに、普通の幼稚園児くらい子供の姿へと変わった。
「おぉぉ‼︎これで人間界に紛れ込めるぞ‼︎」
イルノは先日少年達数名がサッカーをしていた公園へと向かう。すると少年達がサッカーを楽しそうにしていた。
「き、昨日の子達だ……」
イルノは公園の端で隠れながら見ていると、サッカーボールがイルノの元に転がって来て、それを拾うと少年がイルノに向かって手を振っている。
「あっ……」
「そこの君‼︎ボールとってくれる〜⁉︎」
少年達が近づいて来て、イルノはちょっと怯える。すると少年達は優しく話しかけて来た。
「君もやる?サッカー?」
「えっ……いいの?」
「もちろん‼︎多い方が楽しいし‼︎」
「……やる‼︎僕もやる‼︎」
そう言いながらイルノは笑顔でサッカー少年達と遊ぶ事にした。
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数時間後……サッカー少年達と別れたイルノは土まみれになり、服装もボロボロになった。だがイルノはそんな事を気にしないくらい笑っていた。
「楽しかったぁ〜‼︎人間っていい人ばっかりだなぁ〜お菓子も分けてもらったしぃ〜‼︎現世って楽しいじゃん‼︎」
するとイルノの背後から1人、濃い男の声が聞こえて来た。
「君‼︎ちょっといいかい⁉︎」
そしてイルノが振り向くと……