お前の名は……
祓魔師の少年との戦いの夜、病院で飯が出た。ご飯や味噌汁、野菜が多めの惣菜など、バランスの良い食事だ。
「久しぶりのご飯だ!」
(これが人間の食べ物かぁ?肉はないのか肉は?)
「人間はバランスの良い食事しないとダメなんだよ」
(俺の口は絶対に合わないな)
確かに肉があまりなかったが久しぶりの食事に雅斗は目を光らせてご飯に貪りついた。すると悪霊の様子がおかしい。
(何だ⁉︎この味は⁉︎この感触は⁉︎)
「ん?どうしたんだ?」
(もう1回それを食べてくれ)
「あぁ」
言われるがまま、ご飯を頬張る。すると悪霊がまたビックリした様子で早口で喋って来た。
(これはなんて言う食べ物だ?)
「ご飯……だけど」
(ご飯か……中々のものだな)
その後も他の食べ物を食べる度に、美味いだの、しょっぱいなどうるさく食べるのに集中出来なかった。でも1人で食うよりは寂しくなかった。
(人間の飯がこんなにも美味いとは思わなかったぜ)
「他にもいっぱいあるぜ。もっと美味しいのが」
(本当か⁉︎)
「あぁ」
悪霊と和気藹々と喋っているが、病室の外では看護婦達が、1人で喋っている雅斗を心配している声が
「雅斗君1人で喋ってるわ……」
「幽霊か何がかしら……」
悪霊の声は契約者にしか聞こえない為、周りから見れば1人で喋っているようにしか聞こえない。だがら雅斗が1人で何かと楽しそうに喋っているように見える。
そして就寝の時間、電気を消し病室は窓から入る月の光で多少明るい状態。布団に寝転がりながら雅斗は月を見て喋り出す。
「そう言えばお前に名前ってあるのか?」
(俺に名前……無いな)
「無いのかよ⁉︎」
思わず身体を上げてしまった雅斗。
(あぁ、俺には名前なんて無かった)
「仲間とかからは何か呼ばれてなかったのか」
(仲間なんかいないさ。俺は天涯孤独だ)
「……」
神妙な面持ちになる雅斗。疑問に思ったか、悪霊は雅斗に問いただす。
(どうして名前が気になるんだ?)
「名前ないとどう呼べいいかわかんないだろ。俺が考えてやる」
(……)
悪霊は黙り込み、病室が静かになる。雅斗は腕を組み、目を瞑って深く考え込む。悪霊自身は思っていた、名前……それは必要な物なのか……
場所は変わり、とある巨大ビルの屋上。祓魔師の少年兵治とその姉が、風吹く街を静かに眺めている。その中姉が先に口を開く。
「今回の事は内緒にするけど、次は父上に報告よ。」
「うん……何であの時姉さんはあいつに掛けた呪文を解いたの?」
兵治は落ち込んだ表情で、姉に聞く。姉は冷静に答える。
「未熟者のあんたに少しは痛い目にあってもらおうと思って」
「僕はもう立派な祓魔師だ!本気を出せばあんな魔獣……」
怒りに身を任せた言い方で言い、力強く拳を握る。
「いくら剣術や格闘術が優れていても、祓魔師としての呪文が唱えなければ意味がないわ」
「そんなもん練習すれば出来る!僕は影山雅斗を倒す!!この手で!!」
そう言うと兵治は、魔法陣を生み出しどこかへ消えていった。兵治がいなくなった後、姉はボソッと言った。
「1人で何をやっても無駄……あいつにはそれが分からない。チャンスをあげたのに……」
場所は戻り病室。悪霊の名前を考えていた雅斗だが、軽い寝息を立てて寝てしまっていた。
(ちっ……寝やがって……ん?)
病室に気配を感じ、ドアの方を確認すると、幽霊の宮下先生が立っていた。
(こんばんは)
悪霊に笑顔で挨拶し、先生は一礼した。
(またあんたか……)
(あの事を雅斗くんに言ってくれましたか?)
(あぁ……)
数日前、雅斗がまだ気絶しており、寝込んでいる時の夜中。とある人物が病室に来た。
(あんたは……確か)
(雅斗君の担任をやらせてもらってた山下と申します……)
先生は一礼し、雅斗の側まで来る。
(あんたが俺に何のようなだい)
(1つ頼みがあるんです)
(何だ)
(私はもうこの世から霊体ごと消えたと言ってくれませんか)
(何でだ?)
先生は下を向きながら、語り始める。
(これ以上私の事で、あの子を困らせるのは辞めようと思って。私は雅斗くんから離れることにします)
(どうしてだい)
疑問そうに聞く悪霊。先生は続けて喋る。
(あの子を成長させる為です)
(どうゆう事だ?)
(それは………)
そして、時は戻り……
(本当にありがとうございます)
(1つ聞いていいか。お前は小僧の事をどう思っている)
(雅斗くんはとてもいい子です。友達があまりいなかった雅斗は、私に毎日のように色んな話を楽しそうに話してくれました。お化けを見た話やら、心霊現象に話を、雅斗くんが話すと本当のようにあったかのように聞こえるんです。だから毎日話を聞くが私の楽しみでした。それに私が困った事があると、一生懸命考えて、私を助けようとしてくれました)
(……)
(あなたも分かるはずです。雅斗くんの良さに。そして私の代わりにあなたが雅斗を支えてあげて下さい。あの子はもう1人じゃないんですから)
そう言うと先生はすっとその場から消えた。そして再び静かになる病室。悪霊は思った。
(人間とは変わった生き物だ。今も昔も……)




