10月が終わらなければいい。
その日私は酔っていた。
えぇ、えぇ、それはもう酔ってましたよ。
だって、参加費3000円も支払ったハロウィン仮装婚活なるものに参加したのに、収穫ゼロですよ。ゼロ。
LINEのIDは交換したけど、誰からも連絡こねーよちくしょーめ。
「口悪い」
いいでしょうよ。愚痴らせろばーか。
だって、だって、私だって彼氏ほしいのに。なんでできないのさ
「秘密主義のせいじゃない?」
やっぱり?
あーハロウィンが終わらなければいいのに。
ずっと、ずーっと10月ならいいのに。
「なんでさ。女子なら好きでしょ?クリスマス」
・・・だいっきらい。
クリスマスなんて・・・
私だってクリスマスに彼氏といちゃつきたい!
なんで寂しくトナカイに乗らないといけないのさぁ。あの子達体ちゃんと洗ってあげてるのに臭いし。獣臭するし。
「・・・ん?」
トナカイに乗って、子供たちに会って?
でも感謝なんかされないんだよ。
なのにクリスマスに会えないから彼氏には浮気疑われるし・・・
今回の街コンじゃ、最初からクリスマス会えないっていったのになぁ
「原因それだろ、しかも理由言わないんじゃ本命いると思われるだろ」
あー、やっぱり?
でも、でもさぁ。
いいじゃん、夜一緒に過ごさなくても。日本人はキリスト教じゃない人まで、クリスマスクリスマスうるさいんだよ
「自分だって、クリスマスに彼氏欲しいっつってんじゃん」
そりゃそうだよ。
だって、人寂しい季節じゃん。
ほら、ぎゅってしてほしくなるじゃん?え、ちょ、なんで笑うのさ
当日は会えないけど、すこしくらいクリスマス味わいたいの!
もー、お父さんはお母さんに浮気疑われなかったって言ってたのに。
「それは相思相愛だからでしょ」
知ってるよー。でもさ、だってさ、誰も私のこと好きになってくれないんだもん。
私だって、私のこと信じてくれる人にはちゃんと言うもん。信じて欲しい人にも。
信じてくれないと思うけど。
あー、やなこと思い出した。
信じてくんなかったから、嫌い。嫌い嫌い嫌い。
もー、お酒おかわり!
あと砂肝!
今日は飲んでやる~。あんたものめ!
は、私のお酒断る気?許さないから!
酔ってません~。全然余裕ですぅ
だいじょーぶ、わたしいままでねおちしたことないし。
はいたこともないってば!
らいじょぉぶ、ちゃんとおうちにかえれる、もん。
ぐぅ
「・・・・ぅう、あたまいたぁい、うぐぅ」
ひどい頭痛。あぁ、これが世にいう二日酔いか。
昨日は由香と飲みすぎたもんなぁ
「ほれ、水」
「ぅー、ありがとう」
ごくごく、ぷはぁ
あー、水おいしい。
・・・ん?
「誰?!ぅ、いたた」
「大きな声出すなよ。酔っぱらい。ほれ、薬」
いつもの癖で口を開ければ、放り込まれるお薬。
水と一緒にゴクンと飲み込む。
「ん?」
「ん?じゃ、ない。
なんで真木がうちにいんのさ」
「・・・ここ、俺んちだけど」
「ふぇ?」
あ、あれ?確かに散らかってないし、写真こんなにおしゃれに飾ってない。
くんくん
「ほんとだ。真木の匂いがする」
なんというのか。
男くさいってわけでなく、なんとなく、苦いようなそんなにおい。
ん?どうした?
真木も二日酔い?頭痛い?
「あぁ、違う意味で頭が痛いわ。」
「薬飲む?」
「いらんわ」
ふーん。
「ねぇ、服かしてくれない?」
あ、一夜の過ちがあったわけではないです。
単純に仮装したままだから、これ寝るときの服ではないよね。
ごわごわするし。
「俺の質問に答えたらな」
「ん?んむ。」
「俺、去年クリスマスに二人でデートしないかって言ったよな」
「うん」
それを今出すか。頭が余計痛くなる。
やだー、思い出したくないのに。
それまでもちょくちょく一緒に飲んだりしてたんだけどね。
はっきり誘われたのはその時が初めて。
「その時お前さ『サンタクロースやんなきゃだから会えない』って言ったよな」
「ん」
「俺、それは体よく振られたんだと思ってたんだけど。」
あー。やっぱりね。
そのあとから明らかに飲みに誘われるの減ったし。誘われたとしても課のみんなも一緒だし。
「昨日お前がトナカイの世話しなきゃだの、誰にも信じてもらえないだの、信じてほしい人に信じてもらえなかっただの言ってて「ちょっと待った」・・・なんだよ」
「え、あれ?なんで?私昨日は由香と飲んで、あれ?そういえばなんで真木の家にいるの?
っていうか、なんでその会話・・・え?」
「昨日は、酔っ払ってつぶれたやつがいるから迎えに来いって有川に言われて、店に行ったらグダグダしゃべり続けるお前がいたからいろいろ聞いてお持ち帰りした。」
由香ー!!うらぎりものぉ!!
え、じゃ昨日愚痴ってたのって真木に?まったく記憶にない!!
「まぁ、それで納得したわけだ。いや、信じられるかどうかはまだわかんないけど。」
ま、まぁそうだよね。ふつうは信じられないわ。
「サンタクロースの仮装をした三田に俺から頼みがある」
「ん?おう?」
「俺、クリスマスに彼女が欲しいんだわ」
・・・あー。そうだよね。一年もたてば好意なんか消えるわな。
くそぅ。ずっと引きずってた私は何なんだ。
「残念ながら人をプレゼントはできませんー」
「そうか?俺が欲しいのは、クリスマスに会えなくてもいいから同じ課で、同期で、一緒に飲みに行くと楽しくて面白いやつ。
クリスマス明けにでもいいからそりでうちに来てくれたら最高。」
「・・・ん?」
「お前も彼氏ほしいんだろ?今ならここに26歳独身、将来はげる心配なし。次男だから婿入りも可能、なにより1年以上お前に片恋してる男がいるんだけど?
クリスマスは会えなくてもいいから、26日くらいにでもケーキ買っておくから一緒に食ってくれる彼女募集中な男が目の前にいるんだけど、どう?」
「サンタクロースにプレゼントなんだけど、こんな俺、いる?」
「・・・いる」
「去年はからかわれてると思ってたわ。ごめんな」
「別に、いい。」
今そばにいてくれるなら。
そんな私が26日の夜、そりで彼の家に行けば驚いた表情で、でも遅くなったクリスマスを一緒に祝ってくれる彼と過ごすのはまた別のお話。
こんなクリスマスなら、10月が終わるのも寂しくないかな。