とあるドラゴンの目覚めと黄金の剣
西方にあるドラゴニア領域は神聖とされる龍族が住んでいるいる土地である。
そこに住んでいるものはもっぱらドラゴンと、その食料である魔獣がいるだけである。
人の姿は無い。
この地は神々が戦った主戦場であり、火山も多く、野は荒れ、木々は倒れ、とても人が住めたような環境ではないのがその理由だ。
そのためか、この世界で主要な神々が逝き衰退したこの世界ではドラゴンがこの地に繁殖することになった。
「しかし兄様――、あまりに惨くはないですか――」
龍語で話しあうのは2人の龍の兄妹だ。
兄の方の名をドラ、妹の方の名をトトという。
まるで猫のペットのような簡素で適当な名前だ。
それは主神がまだこの世界にいた時代に、神がまさしくペットの名前として付けたためであり、そのようになったのだ。
そう、彼と彼女は神代より生きるドラゴンなのである。
「神代の世より勇者の黄金の剣を授けるのは我ら主神の眷属であるドラゴン一族の務め。渡さないわけには――」
使い方によっては世界を破壊するほどの絶大な力を発揮する勇者の剣をドラゴンは創造主たる主神の命により渡さなければならない。
兄妹はそのことに今、悩み苦しんでいる。
「そうして黙って魔王や魔族達が殺されるのを遠くから眺めるわけですか? 兄様は――」
「……」
「兄様も今代の魔王ラララさんのことは知らない仲でもないでしょうに」
「あぁ、知っている。前代の勇者を屠ったくらいの実力はあるのだからな。その後会って話もしたさ。多少擦れてひねくれてはいたが、あれはただの可愛い女の子だったよ」
妹のトトが前代の勇者に渡した黄金の剣は、結局あまり使われないままに終わった。
だが、今代の勇者はどうだろうか。正しい使い方をするのであろうか。
その剣の正しい使い方をすれば、魔王や魔族は殺される。
だがそれはドラゴンの望むところではなかった。
「であるならばだ、間違った使い方をムリヤリさせるとかいうのはどうだろうか?」
「??! 何を考えているのです? 兄様――」
「前提条件としては勇者側が大罪を犯しているとかいう大義名分が必要なのだがね。例えば――邪神の封印を解いて開放させたとか――」
そこまで言うとドラゴンの兄ドラは龍らしい分かりにくい笑みを浮かべた。