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神話三大大邪神

 ヤマダは語る。

 ――あの時はさんざんな目にあった。と。



 魔王にパンを買って来いといわれ、なんだか使命のようなものを感じたヤマダは魔王城の城下町に繰り出すことになった。

 そして自身が勇者であることが知られるとあれよあれよと人だかりが発生する。

 正確には魔族だかりが起きる事案となってしまった。


 しかもそれはなんだかんだいって王命である。


 王命によりパンを買うという事実が知られると騒ぎはさらに大きく発展する。

 とあれば基礎からパンを作らなければいけないという使命感に駆られたパン屋のおばちゃん達――むろん魔族である――が、種から作るとか言い出し時には必死に止めた。

 そんなことしたら一体いつまで掛かるのだろうかと。

 いまの春頃に撒いたとして、秋口くらいまでは掛かるに違いない。

 パンの発酵のためにはイースト菌が良いなどとヤマダは適当なことをいいつつ、ヤマダはなんでも良いからと拝み倒してようやく黒パンを入手し、なんとか魔王に献上することができた。


 そこで、自身が思念魔術に捕らわれていたことに気づいたが、一緒にミルクに浸して食べたパンは思いのほかおいしく、楽しい時を過ごすことができた。

 思念魔術もこんな使い方なら悪くないんじゃないだろうか。

 もともとは魔族に効率的な命令をするために作られた魔術らしいのだが。


 ちなみに、先代の勇者はパンを買いに自国の王都まで戻ったそうだ。

 ほぼ数週間の過程である。

 そのとき魔王城に残された勇者パーティーがどうなったかなんて、だいたい想像がつくだろう。

 なにしろパーティの主軸たるリーダが忽然と姿を消したのだ。

 多数の魔族たちに対して勝てるわけがない。


「まぁ、おかげで思念魔術は分かったよ思念魔術は――」


「そうですか。ヤマダさまも俺TUEE-になれて素敵ですわね」


 今は『引きこもりの部屋』と(みんな)が呼んでいる自分に与えられた部屋で、ヤマダはクルスとお茶を飲みながらゆったりとしていた。


 最近やっていることは本読みである。


 テレビもラジオはおろか雑誌や新聞すらない世界ではあったが、さすがに書物はある。

 ヤマダはその書籍を暇つぶしのために延々と読んでいた。


 これがなかなか面白い。

 特に面白いのが、なろう小説という異世界で想像する異世界の話が特徴的なごった煮の分野である。

 荒唐無稽でわけが分からない。四八都道府拳とかなんだそれは。あの赤い悪魔の恰好をしてチバ拳!とか叫ぶのだろうか。


 総ページ数を確認しながら、ヤマダはまったりと時を過ごしている。

 そんな空想物語も多いのだが、この世界の魔法系の話ももちろんありだ。


 そんな中で分かった話がある。

 精霊魔法も思念魔術の一部ということがだ。


 例えば火遁の術――要は炎の球を魔術で作成して飛ばし、攻撃するという技がある。

 これが実際には、炎の精霊さんにお願いして魔力を対価に攻撃を依頼する、というプロセスから成り立っているらしい。


 要はこの「お願いする」部分が思念魔術ということらしいのだ。


 言いたいことは理に適っている。

 普通精霊魔法というものはそういうモノであったとヤマダは思い出す。

 他の小説やRPGでも精霊魔法の扱いもだいたいそんな感じだったと記憶している。


 だが、思念魔術以外の覚えるべき魔法の有力候補として考えていた俺はガックリと肩を下した。

 俺に思念魔術を使いこなすのは無理だ、とヤマダは結論付ている。

 たとえスキルとして取得しても、スキルの特性上魔術を使用するときには「お願い」または「命令」をしなければならない。

 そして、引きこもりのヤマダは人に命令することに慣れていなかった。

 そんな「お願い」または「命令」など、コミュニケーションの力が弱いヤマダが言える訳がないのだ。


 だから、ヤマダは思念魔術でも精霊魔法でもない別の魔法を考えてみた。


「もっとこう、攻撃系のばりばり感のあるものはないのかな? それこそ邪神が使うような」


「んー。マスター(邪神)のですか?」


「じゃぁそれで」


 多少邪悪なものであっても恰好が良ければ良い。


 即死系魔法とか、死霊系魔法とか良いかもしれない。

 だが、クルスはそのような中二的な系統の魔術を邪神は持っていないという。

 さすがに自身を生み出した邪神のことをクルスは十分に理解しているようだった。


 であるならば、いったいどんな邪神であろうか。


「それでどんな邪神なんだい?」


マスター(邪神)は引きこもりだねぇ。引きこもりを司る神話三大大邪神が一柱、邪神アマト―なのです」


 邪神はなんと引きこもりを司っているらしい。

 だいたいこんな邪神を崇めて使ったからこそ、引きこもり属性を持ったヤマダが召喚されたのだ。

 ヤマダはその事実を知ってさらに悲しくなった。


 そう考えると、邪神とはいえ最初からあまり期待できそうにない。


「それで、邪神はどんな魔法を使うのさ」


マスター(邪神)はその名の通り(よこしま)ではあるけども、女神ですからねッ。癒し系の神聖魔法が得意なのですよ。それから私の使う空間制御魔法はもちろん、大地系の魔法とかも使えるのです」


 空間魔法は引きこもり属性から来ている部屋を構築するような術だろう。いまのこの部屋がそうだ。

 既に使い手が隣にいるし、面白みはなさそうだ。


 大地系もその派生くさい。

 そして大地系の魔法というと精霊魔術だろう。要は思念魔術の派生だ。

 今度こそ大地の妖精さんにお願いして『種から小麦を作り出してパン買って来い』とか邪神なら言いそうだ。


 それは勘弁してもらうとして、しかし神聖魔法というのは面白そうだ。


 邪神で神聖というのも変な気がするが。確かに神属性には違いないだろう。

 しかしどんなに攻撃を受けても癒しの力で傷付かないのは魅力だ。

 俺TUEE-をやるには大事な要素の一つである。


「俺は神聖魔法とかに興味があるのだが、その邪神に会うことはできないのかな」


「あぁ、えっちとかした後の回復ですか? いったい私に何回する気なんですか?」


「いや、それ目的じゃねぇから」


「えー」


 そういって泣きマネをするクルスであったが、マネであることは一目瞭然であった。

 あざとすぎるのだ。

 ヤマダは引きこもりであったが、これだけ毎日からかわれていたら、さすがに少しは気づくことができる。


「じゃぁ、邪神の封印を解くけからちょっと待ってね。明日朝でいいかなヤマダちゃん! それじゃ、根回ししてくる!」


 クルスはそういって部屋を出ていく。


(え? 邪神の封印を解く? 根回し?)


 なにかとてつもなく不味いキーワードを聞いた気がした。

 このまま放置しておくとまた何かとんでもないことが起きそうな気がする。

 だが、クルスは既に部屋を出てしまった。

 ヤマダはこの部屋以外のことをあまり知らない。だから出ていくのはかなり辛い。


 だからヤマダは深く考えず。まだ読みかけだった本の続きを普通に読み始めた。

 それが壮大な死亡フラグの始まりだとは気づかずに――


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