勇者のステータス
なまえ:ヤマダ
しょくぎょう:ゆうしゃ
れべる:1
おところ:魔王領第一魔王城1-3-19 やみの間2号室
しゅぞく:異世界人
せいべつ:おとこ
ねんれい:15R/残酷な表現あり
HP:80/108
MP:53/53
SP:44/44
STR:1
MAG:1
INT:1
VIT:1
AGI:1
DEX:1
LUK:E
スキル:思念魔術Lv.5(MAX)、夜伽Lv.5(MAX)、容姿-(女性向け)Lv.3、食べても太らないLv.1、異世界会話Lv.1
しょうごう:引きこもりの人、第一級友達者年金、やすさははんぱじゃないよ
ちゅうき:つぎのレベルに達するにはあと1ポイントの経験点が必要だ。
いろいろツッコミどころの多いステータスにヤマダはくらくらした。
「んー。どれどれ≪鑑定スキル≫発動!」
「うわ。ちょおま」
説明しよう。鑑定のスキル保有者は対象がステータスを開いているときにスキルを発動させるとその画面を盗み見ることができるのだ。
なんとも嫌な仕様であった。
「うわぁ、君のステータス、低すぎぃ」
「やめてー。見ないでぇー」
案の定魔王に笑われてヤマダは部屋に引きこもりそうになった。
ヤマダは毒づく。
だいたい、能力値のすべてが1ってなんだよ。
こんなのではいくら優秀なスキルがあってもなんの意味もないじゃないか。
ラックレベルEってなんだよ。Eって。なんでここだけがアルファベットなんだよ。
最後には自殺を命じられて死ぬかもしれない。
というかスキルも構成がひどい。
それに夜伽とか容姿とかも謎だ。
きっとイケメンっぽく「子猫ちゃーん」とか男に対して言うとき用なのだろう。
あー。もしかして夜伽ってBLの受けになれるって意味か? MAXって総受けなのか? ヤマダは泣きそうになる。
だがステータスの多くはいままでずっと引きこもりだったのが原因であり自業自得といえた。
ラックがEなのは前世ではトラックに部屋ごと潰されているのが反映されている。
そして思念魔術Lv.5(MAX)だ。
いくらチートだからって、魔王がちょっと操作しただけでこんなに簡単にスキル取れて良いものなのか?
いきなりMAXなのだが。
それに第一、思念魔術って四大精霊魔法とかと違って訳がわからない。
ヤマダはこの異世界のことを基本的に知らない。
だが、分からなければ詳しい人に聞けば良いだけであろう。
その詳しい人材はヤマダの目の前にいた。
「――で、その思念魔術ってなんだ?」
「思念魔術は思念魔術だよ」
「その説明じゃ訳が分からないよ」
「そうだねぇ。考えていることを口で唱えて意のままに操る魔法だよ。無詠唱も訓練すればできる。教えた人には掛からないけど」
「――なにげに怖いこと言っているな、おぃ」
「例えば私がヤマダさまに目をうるうるさせながら上目遣いで『殺さないで』っていうでしょう?」
実際に魔王はヤマダに身体を寄せて実演してみせた。
近い。顔が近いから。
そして魔王からは良い匂いと体温を感じる。
ヤマダは自身の顔が赤くなるのを感じた。
「お、おぅ」
「そう、そうして殺さないって感情を巻き起こして行動に干渉するのが思念魔術ね」
「それ本当に魔法なのか?」
ヤマダは、それはどちらかというと弁舌というか、交渉術に近いものだと感じた。
確かに今はこんな可愛い女の子を殺そうとかは思わないのだが。
だがそれは始めからだ。
ヤマダはどうにもからかわれているように感じだ。
「あー。その顔は信じてないなぁ。ちなみに私はこれで、先代の勇者を屠ったんだからねッ」
「ほほぅ。ちなみにどうやって?」
そういわれると聞かざるを得ない。
なにしろ魔王が勇者を倒した魔法だ。
いつかヤマダ自身にも向けられるかもしれない。
聞いたら何か嫌なフラグが立ちそうな気がしたが、ヤマダとしては聞かずにはいられなかった。
「勇者パーティが襲い掛かってきたところを勇者だけ思念魔術で撤退させて、その間にみんなで勇者パーティの人たち全員をぼこって奴隷として売り飛ばしたのだぜ」
「うわひでぇ」
魔王ラララのやることは予想以上に非人道的であった。
さすがに魔王である。
「人を助けるために異世界から召喚されて、そして人に裏切られる。再び戻ってきた勇者がそれを聞いた時の顔ったらなかったわね」
「さすが魔王だわ。やることが酷すぎるね」
「お褒めいただきありがとう! だって私を殺しに来たのよ。そして私を殺した後はニンゲンの軍がやってきて残った魔族の少女を捕まえてきっと酷いことをする――。どちらが酷いのかしら」
「それは……、そうだけど……」
「だからね。ヤマダさま。貴方には速く堕落して欲しいな。俺TUEE-でもなんでもいいから。そうすればそんなことしなくて良くなるし。その為には私たちは協力は惜しまない。なんでもする」
「えーっと、頑張ります」
堕落するのに頑張るもなにも無いような気がしたが、ヤマダは頑張って堕落してみることにした。
直近の目標としてはチートな技を覚えまくって俺TUEE-して遊ぶのだ。
「それでねララちゃん! ヤマダちゃんが思念魔術を使いこなすためには実際に受けて感触を掴むといいと思うんですよねッ!」
今までの会話の流れでクルスが言うそれは、死亡フラグが気がした。
「そうねぇ。実際に先代勇者に掛けた思念魔術を使ってみましょうか?」
いままで黙っていたクルスはすでにヤマダの背後に回り、逃げられないよう背後からヤマダを抱きしめて抑え込んでいた。
どうやら魔王も乗り気だのようだ。
2人ともこれ以上ない笑顔である。さっそくフラグを回収に来たようだ。
まずい。
ヤマダは及び腰になる。
この流れは何かを仕掛けられる流れだ。
「ほらぁ、避けてもいいのよぉ。そうなると思念魔術の使い方を覚えられないけどぉ」
「く……」
魔王は耳元で囁く。
ヤマダにとってここで逃げることは容易いが、魔法の使い方が分からないというのは困る。
それにクルスを振りほどくのも大変だ。下手に力を込めて怪我でもさせたら困るというのもある。
だが死ぬような事になるのも辛い。
なにしろ勇者を撃退した魔術なのだ。
正直怖い。
だが怖さを軽減させるためか、それともさらに逃げられないようにするためか、魔王はヤマダの右腕に手をまわして抱きついてきた。
女の子2人の抱きつきである。
ヤマダは困惑する。
なにか少女なのに肉食系といった感じだ。
そして、魔王ラララは語った。
それは、ヤマダのトラウマを突いた強烈な思念魔術であった。
「『パン買って来て。一緒に食べよう』」と。
学生時代だったあの日、同級生からぱしりに使わされたあの頃を思い出す――




