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加速する惨劇は誰にも止められない

 その後、サウスフィールド領事館近くの広場にて――


 そこではヤマダの魔法によって明るく、しかし淡い光が辺りを照らしていた。

 緑色のその光はやさしい感じがするもので、実にファンタジーらしい感じが漂っている。


 タローは、アイシャとともにヤマダと対峙している。


「なぁ、タロー。こんな時間にこんな場所に呼び出して何をする気だ?」


「謝りに。それにお願いがある」


「なんだ? 言ってみろよ」


 タローは意を決した。


「そこのアイシャは実は魔族なんだ」


「へぇ……」ヤマダの目が細くなる。


「だからアイシャを殺さないでくれ。彼女とフェイノを襲った人とは無関係だ」


「俺はこれから彼女を殺したりはしないよ」


「だが、過去に殺したことはできるのだろう?」


「バレているか? だが安心して良いよ。あの魔族とアイシャがグルでないかぎり、≪過去殺戮≫のスキルは働かない」


 タローは知っている。アイシャは魔王だ。

 グルでないとどうして言えるのか?


「グルでも止められないのか?」


「グルではないんだろう?」


「もしの仮定だよ」


「グルでないなら、≪過去殺戮≫のスキルが発動しないさ。このスキルというか、呪いの原理を知っているか? 周囲が噂して初めて効力がでるんだ。だからアイシャと襲ってきた連中がグルであると噂されるなら、スキルは発動するし、グルで無いなら発動はしない。そしてその噂の源泉は本人だから、本人がそう思っていたら死ぬだけだね」


「なら、それ以外に止める方法は?」


「簡単だよ、スキル発動者たる俺を殺せば良い」


 その瞬間、タローは自身のアイテムボックスから剣を引き出すとヤマダに斬りかかった。

 その剣はアイシャと一緒にデートをしたときに購入したものだ。


 だが、ヤマダはそれを簡単に躱す。今度は油断していなかった。

 そしてタローと交差した瞬間、右わき腹に拳を叩き込むとそのまま左へと吹き飛ばした。

 夜杖真澄流では打ち込んでいない。レベルを上げた、物理での打撃である。


「あぁ、こんなこったろうと思ったよ。やっぱり仲間だったわけだ」


「く……」


「俺はな、フェイノを守るためなら、世界を相手にしてでも戦えるし、神さまだって殺してみせるよ。お前がいまここで見せたように……」


「……」


「俺はお前には殺されないぞ。もし俺に害をなすのであれば、死ぬのはお前だし、そしてもう手遅れだ」


「え?」


 後ろを振り向く、そこにアイシャの姿は無かった――


「あ。あ。あぁぁ―――。貴様ぁぁ――」


 タローはヤマダの胸倉を掴もうと構わず接近する。

 だが、今度は左わき腹に強烈な拳を受け、そのまま右に吹き飛ばされる。

 しかし、今度は吹き飛ばされただけで倒れずに踏みとどまった。


「俺にどうしろと? 再度襲ってくるならタロー。お前も死ぬことになる――」


「アイシャはなぁ――」


 震える足をムリヤリ立たせ、タローは叫ぶ。


「アイシャはなぁ、ただ死にたくないってだけの志の低いただの女の子なんだよ! その程度の願いがなんで受け入れられない!」


「だから、その怒りを俺にぶつけられても困るんだが? 殺しに来るなら倒すまでだが来るか? だが、レベル差は圧倒的だぞ。空前絶後に摩訶不思議なスキルでもあれば話は別だが、持っているのか? そんなもの――」


「じゃぁ寄こせよ! 今すぐ!」


「寄こせないよ。むちゃくちゃだな」


「勇者とは、なんでも救うのが仕事なんじゃないのかよ!」


「俺は前代の勇者であって、今代の勇者はお前なんだが。だいたい勇者なんて壊すのが仕事みたいなもので、元に戻す方向のは――」


「だったら俺が、こんな世界ぶち壊してやる」


 そしてタローはアイテムボックスから黄金の勇者の剣を取り出した。

 ヤマダは身構える。


「俺は世界を相手にしてでもアイシャを守ると誓ったんだからな――」


「何をする気だ! 気でも狂ったのか!」


「あぁぁ――」


 タローは大上段にその剣を構えると一気に振り下ろし――


 大地を傷つけた。


「『我が破壊するのはこの世界そのもの――』」


 その瞬間、大地が破壊された。

 世界の全ての大地は泥沼に作り替えられる。


 まず破壊されたのは万有引力の法則――

 世界から重力が壊れ、ゆるゆるになった大地は裂けてばらばらに分離していく。


 次に破壊されたのはボイル・シャルルの法則――

 引き抜いた剣は空気に触れる。

 触れた空気が破壊されて天は荒れに荒れた。

 絶対零度の極寒の世界が作りだされた。


「くっそ」


 全身がばらばらになりながらもヤマダはタローに斬りかかる。

 それは思念魔術付きの龍破御剣流、最終奥義だ。


 ならばと、その魔法という概念のぶち殺された。

 壊されたのはハウザーの魔法定理――

 魔法装薬量は最小抵抗線の3乗に比例するという公式は覆され、タローに一切のダメージを与えない。


 次々と壊されていく法則たち、ブラックフォール効果、ライリーの法則、質量保存の法則、ニュートンの法則……、あらゆる規則が破壊され、その世界自体は崩壊していった。


「それで? 世界を殺して何がしたいんだ?」


 だが、それでもヤマダは死んでいなかった。


「さぁ、スキルを寄こせよ。ヤマダが生きていてもフェイノは死んだぞ」


「貴様! 世界を巻き込み世界ごとフェイノを殺したのか! それで、なぜそれでスキルを渡さないといけないんだよ?」


「あと8回、世界を殺さないといけないからな――。1回で9世界壊せられるかと思ったが、どうやら世界は1つらしい」


 そこで、ヤマダはひらめく。


「なるほどやりたいことは理解した。人の嫁さん殺しておいてムリヤリ譲渡をせまるとか、ほんと頭狂ってるじゃないのか。しかたない。付与するよ≪過去殺戮≫スキルを――」


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