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俺はTUEE――

「――ということでヤマダちゃんを堕落させるため、魔王から魔法を習得しに来ました! ララちゃんお願いします!」


「ほほぅ。この魔王たる三重継承(ラララ)真実(トール)から直接魔法を学びたいと。それは良い度胸だな勇者よ」


 魔王ラララは、お約束のように魔王城の最上階にある謁見の()にいた。

 お約束でないのは、魔王が強そうな屈強の男ではなく、弱そうで可憐な女の子であることくらいだ。


 恰好は水玉のワンピースにパーカーである。

 王様の定番ともいえる王冠は付けていない。

 容姿だけで判断するなら、彼女はとても魔王には見えない。

 だが、魔王は正面の髑髏の意匠がふんだんに盛り込まれた玉座に座っている。

 そんなところに座って咎められないのはやはり魔王だからなのだろう。

 彼女の身長では玉座は大きすぎるのか、足が地面に届かずプラプラさせているのがなんとなく可愛い。


 ――が、それにも飽きたのか魔王は立ち上がるとヤマダのそばまで歩いてきた。


 謁見の間には勇者ヤマダと魔王ラララ、それにクルスしかいない。

 警備とかどうなっているのだろうか。

 話によれば魔王ラララは強力な魔法使いなのだろうから、必要ないのかもしれないが。


 だが、女の子である魔王は華奢で、思い切り殴ったりしたら簡単に倒れそうにヤマダには思えてしまう。

 その視線で魔王ラララは何かを感じたのか「叩かないでよ」などといってきた。

 どうにもいじめられっ子体質でもあるのではないだろうか。

 ヤマダは「叩かないよ」と答えておく。


 魔王ラララはひとしきりヤマダを眺めたあと、クルスに向き直った。


「クルスちゃん。まずはお茶にするからリビングとキッチンの付いたお部屋を持ってきて」


「はーぃ」


 クルスは空中で魔法陣を描く。

 光が舞い、幻想的な雰囲気とともに空間に古めかしい扉が現れた。

 それはいつも引きこもりに使っている部屋の扉とは違う、古いが豪華な感じの扉であった。


 ヤマダは思わずおぉ、と感嘆の声をあげた。


(あの引きこもりの部屋、1つだけなのかと思ったら、いくつもあるんだ……)


 ヤマダは変なところで感心した。

 どこにでも行けるドアといえばアニメ定番の存在だが、それがいくつもあるとなると画期的だ。

 ちなみに定番のアニメでは、某国民的人気な猫型のマスコットが出てくる。


「はい。お部屋をお持ちしました。ララちゃん」


「じゃ、クルスちゃんも行きましょう!」


 魔王はその扉を開けると、確かに家庭的な部屋がそこにあった。

 しかし、クルスはこうした部屋をいったいいくつ持っているのだろうか。

 ヤマダはともかく魔王とクルスに導かれてお茶をすることになった。


 ・ ・ ・ ・


 メイドと思われる女の子――の魔族がポットから紅茶をカップに注ぎ配る。

 その紅茶を受け取りながらヤマダは最初に思った疑問を口にした。


「しかしなんで、ここには女の子ばかりなんだ?」


 この異世界に来てからずっと、女の子の魔族しか見ていない。

 男はいないのだろうか。魔王が女性だから重用している家臣が全員女性であるのかもしれない。

 だがまったくというほど見ていないのだ。これはおかしい。

 この魔王城から出ればまた違うのかもしれないが。


「魔族の――えーと正確には魔人は基本的に女の子だよ。無限に奉仕する存在として人が魔より作りしサーバント(ひと)。それが私たちね。私たちってみんな可愛いでしょう? 奉仕というからには『いろいろな』使い方をするからね。もちろん変わり種で男の子も北部(ノーザンテリト)にはいるみたいだけど――。少なくともここ南部魔族にはいないわね」


 魔王は瞳に悲しそうな色を浮かべる。

 魔王の語る『いろいろな』という部分にはツッコミを入れない方が良いだろう。


「――わりぃ、なんか悪いことを聞いた」


「いえ、事実だから……。――で、そんな魔族の中でニンゲンに逆らった野良の魔族が、邪神の封印があるこの地に集まってできたのが、この魔族領なのだね」


 一方のクルスはなぜかニコニコしていた。


「――ん? うち? うちはニンゲン謹製ではなくて、マスターたる邪神アマト―さまが創りしホムンクルスだから処女ですよぉ。どうやまだちゃん食指動かない?」


「私だって魔王を張るくらいだから戦闘系魔族だからね。もちろん――」


「そういう艶めかしいのはだからやめてくれ」


「えー。もっとからかわせてよぉ」


 クルスの拗ねたような声はやはり可愛らしかった。

 魔王ルルルは続ける。


「――で、用事といえば、魔法を知りたいんだっけ? チートな力でバカみたいに俺TUEE-? したいとか?」


「――平たく言えばそうです」


 ヤマダはぶっちゃた。だって魔法使ってみたいんだもの。


「なるほど。分かりやすくていいね。中二ってやつなのかしら」


 戦士であるというクルスですら空間魔法を使い、部屋を行き来できるような魔術を使うのだ。

 ヤマダは期待せざるを得なかった。

 本職の魔術師、さらに言えば魔王の魔法といったらものすごいだろうと。


「じゃぁ。ちょっと待ってね」


 魔王は空中で何か操作をする。

 するとヤマダの耳元でじゃじゃーん。という警戒音が流れた。

 なにかゲームっぽい音だ。


「あれ? 何今の音は?」


「ウィンドウ開いてみて。≪思念魔術≫スキルが付いている筈だから」


「は? ウィンドウ?」


 いきなりゲームっぽくなってきた。

 ハイファンタジーではないのだろうか。

 いや、ハイファンタジーの定義は「現実世界とは異なる世界を主な舞台とした小説」である。

 異世界召喚くらいならまだハイファンタジーのはずだ。


「えーっと、異世界(にほん)でなんていうのかしら? ステータス?」


 そんなゲームじゃあるまいし、と思いつつもヤマダはMMO-RPGでよくでてくるようなウィンドウを思い浮かべる。

 よくHP、MPとか書かれているあれだ。


「うわ。ほんとにでてきたじゃん」


 見るとそこに、ヤマダ自身のステータスが記されていた――


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