さぁ、ここに帝国を建てよう
そこにドラゴンがいた。
いるだけなら良いだろう。
だが、その場所がなかなかにいただけないところだ。
場所はサウスフィールド王国の王都、その王女が住むという別邸だ。
「まったく、魔族領から使者がやってきたというから話を聞いてみれば……」
ヤマダはサウスフィールド王国の国王と謁見の間で対峙していた。
フェイノは2人のやりとりをはらはらしながら見守った。
前回の謁見と構図は同じだ。
ただ、ヤマダが簀巻きにされていないところが違うところだろう。
ヤマダは今回、かなり服装にこだわったイケメンになっていた。
「『と、いうわけで国家承認を受けるため、ちょっと脅しに来ました――』ってありえるか? 普通?」
国王はそのヤマダのたわごとを一笑に伏したが、隣の王女はまったく笑ってはいない。
「しかし彼にはその脅しを掛けるだけの力があります。お父さま。彼は――勇者なのだから」
「勇者ねぇ。私の間男です、とか言われるよりは、まぁましか」
さすがに敵国の戦争の状況である、サウスフィールドはその推移を逐一諜報していた。
そして、戦場での撤退を確定させた、あれだけの立ち回りである。
そこであの不死ぶりや、≪九死一生≫スキルを見てしまえば、彼がどのような人物かなのかはおのずと分かる。
ヤマダは勇者という言葉にうなずく。
そして、王国に圧力を掛けるために、ヤマダは多少誤解させるような言い回しをした。
「ま、引きこもりの弱そうな異世界人として召喚されたわけだが、すでに魔王は解体した」
「あの魔王を下したのか――」
あたりの騎士たちのどよめきがあがった。
(正確には魔王制度を解体したわけであって、魔王を殺したわけでもなんでもないのだけどな)
薄く笑うヤマダに国王は何を思うか?
「それで、その邪魔台国とやらは、国民はどれだけいるのかね?」
「むろん、俺一人だが?」
「はて、それで国といえるのか?」
「例えば、あの魔族領が他国のものになったとして、そこの魔族達はどうなると思います?」
「隷属化して売り飛ばされるだろうな――」
それがこの異世界での常識だ。
「それは俺が許さん。だから国を建てる。なにか問題が?」
「狂ってるな――、だが魔族の保護をしたいのであればそうなるか。野良魔族の打倒を掲げている帝国にならば大義名分にはなるし――か」
「あぁそうだ。夜杖真澄もそれでこちらの手に墜とした」
「ほぅ……」
またもどよめきが起きる。
夜杖真澄は帝国の大戦力となる魔族だ。
それが堕ちたとなれば帝国の弱体化は必至となるだろう。
「――では、こちらの言い分をいおうか。取引といこうじゃないか」
「取引?」
「その邪魔台国をこちらが承認するにあたって、こちら側、つまりサウスフィールド側のメリットは?」
「国交が築かれて交流が図られるなら、こちらからは邪魔台国側の魔物の肉を定期的に提供することができるかな。むろん対価はいただくが」
魔物の肉を多少売るくらいなら問題はないはずとヤマダは考えていた。
(豊臣方の大阪城のように外堀の魔物を埋められても困るが……)
あくまで多少である。
魔物の肉の話とこの会談の前に魔王――および魔族とは話をしてある。
その他の『譲歩していい』内容としては魔族の提供があった。
もっとも、ヤマダは知らなかったことだが、既にフェイノによって魔獣肉の取引は行われていた。
それが表ざたになるだけだ。
その他の話としては魔族に対する使役についてである。
むろん、むりやりとか、売り飛ばすとかはダメだ。
だが合意の上であれば魔族としても否はない。
もともと、魔族はご奉仕するために作られた存在ではあるからだ。
だがヤマダにそのつもりはない。
ベストヒロインが決まっているならともかく、せっかくのハーレム展開で少女放出とかないだろう。
他、ヤマダがやりこめられそうなときの保険としてクルスがついてきている。
もっとも、クルスは邪神の配下であり、不利益よりも面白ければ良い基準の方を優先させそうではあるが。
「だが、それだけではメリットは少ないな。これはなにしろ隣国、いや世界と敵対する可能性もあるような事案だ」
「それは――」
「まずは互いの不可侵か」
「それは大丈夫だ」
「それから他国に襲われたら互いに守りあう。集団的自衛権な」
「あぁ、それもいいだろう」
すらすらと答える。
おそらくこの辺りまではあらかじめ打ち合わせしていたのだろう。
なんとなく交渉もまとまってきた感じだ。
そこに、おずおずと王女フェイノが手をあげた。
「国を作るのは良いと思うのです。でも敵国とかになると嫌なので、いっそ帝国を作りませんか?」




