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さぁ、ここに国を建てよう

「ということで、ここに国を建てようと思います――」


「なにその、ここに病院を建てようみたいなノリは?」


 右手に夜杖真澄を抱えつつ、ヤマダは建国を宣言する。

 魔族領を国として存続させる。

 この発言に魔王城にいた多くの魔族たちは目を丸くした。

 魔王ラララは、呆れていた。


「えーっと、それで私の魔王の職務を廃してヤマダの下に付けと? ま、あのときの約束だから構わないけど。これが平和的な解決かどうかは後にするとして。」


 ヤマダは平和的な解決と言い、説得するために敵軍の前に立ったが、結局は怒涛の力押しだった。

 確かに平和的な解決というのには語弊であるかもしれない。


「ふーん。それはらある意味、魔王を廃したことになるから目標達成(クリア)したことになるのかな? クリアだね。おめでとうー!? ヤマダちゃん!」


 クルスはおめでたを演出するが、シーン。と静まりかえる魔族たち一同である。


「それで国だって?」


「あぁ、こいつがいうにはどこの馬とも知れない男に支配されているんじゃ信用されないって。ならば国にすれば良いと思ってね」


「……。なるほど。悪くないわね。魔族側としてはそれでいいけど――、邪神さまはどうです?」


 魔王ラララに顔を向けられた邪神アマト―は答える。


「あぁ、それは面白いね。面白い基準で言えば合格だ」


 邪神アマト―の次にクルスが続いた。


「堕落ここに極まれりといったところかな、ヤマダちゃん。ハーレム展開とか最強だよねー。それに魔族全員落とすとかッ」


 それに魔王ラララは渋い顔をする。


「勇者の下に付くには良いと思う。だがハーレム展開はちょっと……、私の娘(まぞく)たちに手をださないのであれば赦すよ」


 周囲がざわつく。それは話を聞いていた他の魔族たちだった。


「そんな――」


「えー。これで男日照りから解消されるかと思ってたのにー」


「きっと隠れてラララちゃんは手を出すつもりよー。いま『私に手を出すな』とは言わなかったもの」


 そんな魔族たちの会話がしたとかしないとか。

 ヤマダには聞こえないようにした小声ではあったが。

 だが、魔王には聞こえていたようだ。

 魔王はため息をついた。


「――訂正する。私や私の娘(まぞく)たちを『無理に』手をださないのであれば赦すよ」


 ヤマダはどこが訂正点なのかよくわからなかったが、聞いたら引き返すことができなくなる気がしたのでやめた。


「えーっと。でもでも国ともなれば、4つの成立要件が必要なはずよ。それらはどうするのです?」


 四天王の一人が語る。彼女は政治にも詳しいそうだ。

 そして国家成立要件の4つとは、

①「国民がいること」

②「領土を要すること」

③「統治組織が存在すること」

④「外交能力があること」であることを告げる。


 そのうち、国民はヤマダ1人で、領土は魔物(モンスター)が跋扈する魔族領であり、統治機構としては魔王城を中心とした魔族への統治という非常にいびつなものがある。あると言い張れないことはないだろう。


 だが、外交能力を示すのは簡単ではない。


 『外交』とは国同士で行うものである。つまり相手を国家として認めなければ行われないものだ。

 そう、とても簡単にはいけそうもないのだ。


「とりえあず、サウスフィールド王国にまたドラゴンで乗り付けて承認させれば良いかなと……」


「小国が1つ承認したところでどうにもならないでしょう?」


「補強にはなると思うが?」


 そこで邪神アマト―が口を挟む。


(われ)が作り上げた迷宮に抑留している兵士を使って捕虜変換すれば、外交能力ありとして国家認定要件させることもできるか?」


 迷宮に抑留している人々を使うのは確かにありだろう。

 捕虜交換――向うには捕虜がいないので一方的な返却だが――、それを使えば国として認めさせる切っ掛けにはなる。


「その手があったか!」ヤマダは手をぽんと叩く。


「確かに――」魔族達が感心したようにうなずいた。


「ヤマダは何も考えてなかったのね」魔王ラララの声は心底呆れたような口調だった。


「それじゃ国として成立するのね! ヤマダちゃんやったね!」クルスは嬉しそうだ。


 クルスは喜んで踊り出していた。

 だが、それもふいに止まる。


「あ!? えーっと、それで? 国名とかどうするの? ヤマダちゃん」


「それは――」



 ・ ・ ・ ・ ・



「ともかくグリン――、あなたが野たれ死んでなくてよかったよ」


「師匠――、俺は殺されたって死ぬようなたまじゃないですよ」


「勇者みたいにか?」


「あれは例外だと思いますがね。それに死んでなくてよかったのは師匠の方です」


 ベットに寝込んでいる夜杖真澄の隣で椅子に座ったグリンは、リンゴの皮を剥いていた。

 完全に介護状態である。


 夜杖真澄に無傷のグリンと同じで目立った外傷はない。

 だが、グリンとは異なり、夜杖真澄は勇者によって大量の気を()っていた。


 つい先ほどで危篤状態だったのだ。


 目を覚ましたのはあの戦いからおよそ1日後だ。

 むしろ生きていた方が奇跡といって良いだろう。

 このまま衰弱死してもおかしくはなかった。

 引きこもりのヤマダの技は10万以上のスキルポイントを消費してもまだ完全ではないということだろうか。


「それで――、師匠。まだ戦いますか?」


「いや――、敵の手に落ちて死んだも同然の私に戦う意思はないよ」


「俺はあの国が嫌いでここに流れたということもありますが、師匠と本気で戦いたかったというのもあるのですが?」


「グリン。君には勝てないよ。君が教えた弟子? にも勝てないのだし。そもそも君のところの家系は私を創った家系なのだから――」


 夜杖真澄を創造したのはクシャスタ家だ。

 そしてグリンの名前はグリン・クシャスタである。


 つまりグリン・クシャスタは夜杖真澄を創造した家系であった。


「私もあの国の酷さには参っているのだけれど。一応あそこでは騎士だからね契約の上では従わざるを得ない」


「帰るのか?」


 夜杖真澄をこっそり帰したらグリンは魔族のみんなから怒られるだろう。

 だがグリンは帰すとなったらどんなに反対されようと、戦いになっても帰す気であった。


「帰ってもいいけどさ。むしろ契約はまだ有効だから帰らないといけないけどさ。帰ったら戦争に負けた責任を取らさせて殺されないかしら?」


「そんなことは――」


 ないとは言い切れないだろう。

 どう見ても帝国の軍は大惨敗である。誰かが責任を取る必要があった。

 ましてや夜杖真澄は魔族なのだ。あの国では魔族は人の命より絶対に軽んじられる。


「あーぁ。国に戻るのは嫌だし、どこかに国の契約を廃棄させてムリヤリ契約をせまる悪い男はいないのかしらね」


 そこで、初めて夜杖真澄はグリンに微笑んだ。


「それは、悪い男だね」


「その悪い男はきっと、戦いしか知らない乙女に毎日ご飯作らせたり、かいがいしくお世話をさせたりするのよ」


「それは酷い男だね。――むりやり手を握ったり?」


 夜杖真澄の右手がグリンの手首を掴む。

 そしてベットに引き入れると両手でその手を握った。

 手は胸の位置へ。そして二人は見つめあう形になる。


「――そして、むりやりキスしたり?」


「まぁ、なんて酷い男なのんでしょう。そのまま強制契約するつもりなのね。やりかたは――」


 グリンは夜杖真澄に身体寄せると口づけを交わした。



 ・ ・ ・ ・ ・



 帝国軍は敗走した。


 先陣を切った女神とその取り巻き、および職業兵士たちは復活した邪神により彼女が作り出した迷宮へと追い落とされた。

 相手は引きこもりの邪神である。その邪神自らが『引きこんだ』。

 そんないわくのついた邪神が作りし迷宮から人が返ってくるとは思えない。

 後方で踏ん反り返っていた貴族連中は、軍の後背をついたたった一人の兵士により撤収を始める始末である。

 だが、その兵士により戦略級兵器である≪30万人殺し≫夜杖真澄が倒させれている。それをもって批難をすることは難しいだろう。


 帝王とその宰相は、彼らの執務室でこの敗走について密談をかわしていた。


「とはいえ、たった2千の兵では攻略は難しかったのでしょう」


「あぁ、2千か――、もう少し多かった気がするが――」


「いえ、女神がいるから楽勝だと思ったのが間違いだったのでしょう。相手が強力な邪神であったため、手も足もでなかったと言います」


「引きこもりの邪神アマト―か。たかが引きこもりにやられるとは……」


「引きこもりであったからこそ、敵陣に引き込まれてはどうにもならなかったのかと思われます」


「逆に言うと引きこもりの邪神であるが故に攻められることはないと――。しばらくは静観か――」


「それが賢明と思われます」


「ところで、その夜杖真澄を制したバカがたった一人で魔族領に国を作ると宣言したらしいが、続報は?」


「彼らは迷宮に捕らえた兵士たちを捕虜として交換するときに国として承認しろと言ってきたようです」


「承認すれば良い。どうせ形だけでそれで魔族領が強くなることはないのだ」


「承知しました」


「で、その国の名前はなんというのだ?」



「国名を邪魔台国(やまだいこく)と」


「くっ……。どこまでも邪魔くさい連中だ……」

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