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勇者システムのできた理由(わけ)

 ――遥か昔に、魔法を主体とする魔道国家が、その世界(セカイ)にはあった。


 名前も忘れられた魔道国家は、およそできないことはなく、繁栄の、栄華の極に達していたという。


 だが、人には限界がある。


 人が享楽に溺れて過ごすためには、その人を快適にするための労働力、つまり人が必要となるのだ。


 人が快適に生を送るために争いは頻繁におき、そしてそれは苛烈を極めていく。

 だが、その戦いをするためには戦闘力、またもや人が必要となる。


 尽きぬことを知らない享楽犯罪がその国では起きた。

 だが、その犯罪を防止するためにも、抑止力が必要だった。

 人の欲望は留まるところを知らない。


 必要となる、人、人、人――。人材はしかし有限で常に不足している。

 だがあるとき、その国で人たるに値する最高の生活を送るために発生した、人材不足という矛盾を解決するため、魔道国家は根本的な解決結果を得るに至る。


 それが、魔族と呼ばれる少女であった。


 彼ら魔道国家の魔術師は、総じて見た目のよい若くて可愛らしい少女の魔族を生産し、労働力として、戦闘力として、抑止力として、そして性のはけ口としておおいに利用した。


 そうして得られた軍事力によって、人は誰も傷つくことはなく、戦争は単なる遊びの一環となった。

 そうして得られた労働力によって、大いに人は増長し、多くは魔術の勉強もせずに遊びに惚けることとなった。

 そうして得られた抑止力によって、犯罪率は劇的に下がっていた。

 そうして得られた性のはけ口によって、性犯罪率は大いに下がっていた。


 その後およそ300年――


 魔道国家が太平の世となったとき、人々は人という種族が大いに退化していることに気づく。


 勉強という研鑽を行わず遊び惚けていた人々は、魔族を生産するような古代の魔術が使いこなせなくなっていた。


 老いて醜くなる人とは異なり、主人に対して常に美しく笑顔を絶やさない、裏切ることのない魔族たち。

 その魔族はヒトの子を孕むことはない。


 減っていった性犯罪率とともに、出生率は劇的に減少し、0.5を切っていた。


 魔族は完璧で、老いることもなければ殺されない限り死ぬこともない。

 魔族の相対数は多くなり、多くの魔術師は美しい容姿の魔族しか相手にしない。


 それが300年続いたとしたら?


 それはもはや、魔道王国の滅亡に対して手遅れのレベルであった。


 為政者はここに至り、魔族を殺し、人を守ろうと決意をした。

 しかし、魔族を使役する人々は自らの資産である魔族を守ろうとする。

 そこでさらに多くの人が死に、その人に仕えていた魔族は隷属という名の束縛からついに逃れることになる。


 それが野良魔族といわれる存在だ。


 遅ればせながらも神々は人の減少に嘆き、勇者システムを構築した。

 そんな野良魔族を抹殺し、ふたたび人を増やすために。


 魔族たちはここに至って団結し、魔王システムを構築した。

 魔王を殺した口実により、勇者という存在目的を達成(クリア)させるがために。


 殺される魔族に同情した神の一部は邪神のレッテルを張られ、多くが討伐、または封印されていく。

 結局のところ争いは熾烈を極め、魔道王国は崩壊した。


 それが、邪神アマト―が封印された、昔のできごとである。



 ・ ・ ・ ・



「―—というのが魔族のおおよそのあらましね。ヤマダちゃん。急に歴史を知りたいとかどうしたの引きこもりなのに?」


「いや、だって暇だし」


「うちは邪神アマト―謹製の魔族だからちょっと毛色が違うかもしれないけどね。邪神が引きこもり生活を楽しむための目としての存在、それが私ね」


「まぁ、毛色が違っても可愛いことは認めるよ」


「ふふ……、ありがとう。ヤマダちゃん!」


 異世界での引きこもり生活を初めて3日目で挫折したヤマダが、まず世界について知ろうとしてクルスに聞いたときに出てきたのが、この話だった。


 魔族というのは悲惨な生き物だ。


 だが、殺すという意思を持った神の話も、マクロ的な視点から見れば分からない話ではない。


 歴代の勇者は、その背景も知らず嬉々として魔族を殺し回ったのかだろうか。

 勇者が魔王を殺して物語をクリアするべき! そう言われ、ただ何も考えずに。

 そして殺すだけでは飽き足らず、無理やりに使役して、あるいは売り飛ばして――


 魔族からでなければ、このような話は聞くことはできないだろうとヤマダは思った。

 そして大抵の勇者は魔族の言うことなど聞く耳持たないだろうし、人は甘い言葉しか囁かない生き物だ。


「だからヤマダちゃん。はやく勇者として堕落して、自堕落な生活を送ってね」


「うぃ……」


 いつもそう締めくくるクルスも言わんことは分かる。

 魔王が殺されれば勇者は消え、また新たな魔王の誕生とともに勇者は召喚されるだろう。

 勇者システムは神々にとって便利なシステムだ。一人1殺で構わない。

 繰り返し魔王を殺していけば、いずれ魔族は全滅するだろう。

 魔族を生み出すシステムは今や神々の間でしか存在しないのだ。


「それでね。次は現代のこととかどうかなー。冒険者ギルドとかどう? ヤマダちゃん。私がA級冒険者になった話とか――」


「いいね。でもまた明日ね。今日は疲れたし。ご飯でも食べて寝ようぜ」


「あ、はーぃ」


 ご飯を用意するため部屋を出ていくクルスに、「悲惨だな」とヤマダは小さく呟いた。

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