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勇者召喚! だが失敗した

 魔道王国に端を発した神々と邪神、人、そして魔族を巻き込んだ戦争により、そのほぼすべてが滅んだ世界があった。


 多くの神や邪神は、その争いによって乱れた大地に興味を失った。あるいは封印された。

 神々の争う姿は既にここにはなく、本当に強力な魔物も消え去っている。

 つまり神々は衰退し、神々の多くは役にたたない世界だ。


 そこで人口を増やしたのは人族だ。

 だが人の欲望は底知れない。

 神々の戦いが終われば魔物との闘いが。

 多くの魔物たちを世界の隅に追いやると今度は人同士での争いが始まるだけ。


 人同士の戦いでは(いにしえ)の魔族が人によって駆り出され裏で暗躍する。

 魔族はそうやって人々に使われながらも経験と知識を増やしていった。

 そうして力を付けた魔族が集まり魔王を頂点とした組織を作り、それが人々の手におえなくなると、人々はまた神にすがった。

 だが神々は衰退したその世界に直接手を下すのはよしとはしなかった。


 そして神々の代わりに勇者が召喚され、魔王は勇者によって討伐された。

 王を失った魔族たちは再び霧散していくことになる。


 だが、そんな魔族を再び集めるものがいるという。

 邪神が封印を解かれて復活し、魔王が新しくできたというのだ。


「さぁ、甦るがいい。伝説の勇者よぉぉ!」


 そんな魔王を倒すべく勇者を呼び出そうとする一人の男がいた。

 名を、オーカイ・ジーク・ノキタミア三世という。

 オーカイは大陸中央の覇者であるノキタミア帝国の皇帝だ。


 オーカイは神々が作り、今や王家にのみ伝えられると言われる秘術を知っていた。

 それを用いて勇者を召喚しようとしている。


 その目的は――南方の魔族領に住む魔族達の捕縛だ。

 捕縛した魔族たちはいろいろな用途で使われる。


 この世界での勇者とは、神々に匹敵するだけの力を持ち、魔王を討伐する、魔物たちなどから人々を守るための存在だ。


 それと同時に、勇者とは王族や皇族にとっては強力な兵器の一つとして見なされる。

 大義名分もなく下手に召喚などしようものであれば、各国は連合を組み怒涛の勢いを持って同時に攻め込むことだろう。


 だが、それに耐えうるだけの力を帝国は付けてきている。


 前回陰で召喚した勇者は力こそ中の下であり最後は暴走し死んだが、その間多くの魔族を捕縛し、それなりに帝国の国力の底上げを図ることができた。

 勇者の異世界の知識を持って科学技術も相応に向上したのだ。

 特に風車や水車といったカラクリ物には目を見張るものがあり、高められた生産性によって人々の生活をより豊かにすることができた。


 だからこその勇者召喚である。国は得られるものが大きいのであれば何でありするものだ。

 大義名分はなんでも良い。反発を押さえつけるだけの力があるのであれば。


 例えばどこその魔族が陰謀を巡らせているとか。

 例えばどこかの――たとえばサウスフィールドの姫を攫ったことに対する報復だとか。

 例えば邪神復活に対抗する、だとか。


 今回の大義である邪神復活、魔王復活の報はいまや世界中に流れている。


 いくつかの神殿で神託が賜じられたとこのとだ。

 神々が衰退したこの世界では、主だった神殿勢力はかつてのような強大な回復魔法は扱えない。

 だが、それでも泡沫の神々は神託を、そして奇跡を与えてくれる。


 例えば光と産土(うぶすな)を願う神アーナ

 例えば闇と安寧(あんねい)を願う神ヤーマ

 例えば火と(こうつう)安全(あんぜん)を願うフェニクス

 例えば風と飛躍(ひやく)を願うマーミヤ

 例えば大地と学業(ぎょうせき)を願うドモン

 例えば水と商売の繁栄(はんえい)を願うウィンディーネ


 しかし、そんな神々もどのような邪神かまでは分からない。

 それはその邪神がさらに泡沫すぎて記録にないのか、それとも強大過ぎて語ることができないのか。

 そんな噂はでたらめだと神殿側は必死に否定するが、出た話題は消えずにそこかしこで現れては消える。


 ――むろんそんな邪神や魔王の噂は嘘である。


 嘘だという理由も帝国は知っている。

 その噂は、帝国の諜報部が流しているものであるからだ。


 帝国はそれほどの噂を流してまでも欲しいのだ。

 自らの国益のため、勇者という存在が。


 神殿という存在が崇めている神々の上位の神が作り出したこの勇者というシステムは魅力的である。

 神々が放り投げた仕事を担うこの勇者は、使い方次第によっては世界を亡ぼすこともできるという。

 大義名分を作り出してでも勇者というお手軽な暴力発生装置が帝国は欲しい。


 実際に邪神が復活したかなど、どうでも良い。

 魔族に王がいようがいまいがなど、帝国にっとては本当にどうでも良いことだ。

 適当な理由で勇者を召喚し、適当に魔族をいじめ、あるいは捕縛し、適当に戦果を上げさえすればそれでよいのだ。

 適当な実績があれば後は噂をばらばくだけなのだから。

 それだけで国民は湧きあるし、他国との軋轢も勇者という軍事力でねじ伏せられる。


 勇者を召喚した帝国として、そして、誰あろうこのオーカイ・ジーク・ノキタミア三世が呼び出したという名声が轟く――

 つまり歴史に名を遺すことができるだけでも、皇帝にとってはとても喜ばしいことであった。


 だから皇帝は、召喚により勇者が現れる期待に胸を躍らせた。

 だが、しかし――


 発動のために仕掛けた秘術は唐突に硝子が割れるような音を立てて崩れ去る。

 そこにあるのは壊れた術式――

 完全なる失敗だ。


 強者を呼ぶだめの勇者の復活はおよそ10年に1度の周期でしか起こせない。

 そして勇者が召喚されていない時、という条件も付く。

 さらには、その星域の星座の配列などの要素が絡んでいるのだ。


「なぜだ――」


 オーカイ・ジーク・ノキタミア三世は訝しむ。

 勇者が復活しないのであれば、翌年にも可能ではある。

 だが、もし万が一、よその国でも勇者召喚を行っており、そちらに勇者が盗られたとしたならば――


「どこか別の国で誰かが勇者を召喚したというのか?」


 しかし、そのような報告はどこからも聞いていない。

 帝国ではそのようなことを起こさないように勇者を復活させることは周辺国には話を通している。

 その状態で他国が勇者を復活させるということは、帝国に喧嘩を売ることに他ならない。

 それは話すというよりはそれはもはや脅迫だ。

 それに勇者復活の秘宝を知る者は皇族以外知る者はいないはずだ。

 それこそ勇者召喚の儀について伝授を行った神レベルの存在でもいない限り。

 血縁者の誰かが行ったのであろうか?


「誰かが我らに盾突き、勇者召喚を行ったものがいるはずだ。調べろ――」


 オーカイ・ジーク・ノキタミア三世は帝国の幕僚を使い、各地に人をやり、調査を進める。


 ――それから1週間がたった。


 しかし、結果は芳しくない。

 一体なにが起きているのだろうか。


 オーカイ・ジーク・ノキタミア三世が敵となる魔王その人自体が、その勇者召喚の儀を行ったことを知るのは、それからかなり先のこととなる――


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