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龍の刺突を模した本物の龍の刺突

 遠くから声が聞こえる。


 そこには完膚(かんぷ)無きほどに破壊された部屋がある。

 ヤマダだったものが先ほどまでいた部屋だ。その上空を旋回するドラゴン。

 状況を見れば誰が部屋を壊したのかは明らかだ。

 ドラゴンの振るうその腕は、部屋をヤマダごと貫くことなど造作もないことだった。


 不老不死スキルにより復活し始めたヤマダにドラゴンは言う。


 九死一生という言葉がある。

 つまり一生ものの能力(スキル)を得るには九つの魂を世界に捧げる必要があるということだ。


 幸いにして今代の勇者には滅ばない限り死んでも復活するという能力があるので、何度殺しても大丈夫だ。問題ないと。


「絶対うそだー」


「え、どこが?」


「九死一生って、危ういところで奇跡的に助かることじゃないか! 実際殺してどうするよ! 危なげなく一撃で死んでいるし!」


 ヤマダはこの時ばかりは邪神に不老不死の能力を与えて貰ったことに感謝した。

 そうでなければ死んだまま、あの世に旅立ったことであろう。

 その情報がクルスからチャット経由でドラゴンに伝えられ、気兼ねなくぶち殺されもしなかっただろうが。


龍破(りゅうは)御剣流(みつるぎりゅう)を龍自身に伝授してもらうなんて名誉なことじゃない。それこそ先代勇者以来なのになぜ喜ばないの?」


 クルスはうつ伏せ状態から立ち上がりながらヤマダに喜びを促す。

 だがヤマダはいまだに殺された痛みが腹に残っているような気がして、喜ぶどころではなかった。


「龍破御剣流?」


「そう、一般に知られる近代2大剣術の体形が一つ。知らないの?」


「知る分けないだろう。こっちの世界の剣術なんて――」


 そういっている間にドラゴンが降りてくる。

 そのドラゴンが大地に振れる瞬間、ドラゴンの周囲を淡い光が包み、その体積を小さくすると人の姿になった。

 いわゆる人化の法であるのだろう。

 人になったドラゴンの姿はいわゆるイケメンでった。

 しかも超絶レベルのイケメンだ。

 ただしイケメンに限ると言われれれば納得してしまうほどのレベルである。


 その恰好もまさにイケメンに相応しい。

 白銀の甲冑(プレートメイル)に黄金の剣だ。

 まさに王者という風格といえよう。


 それはもう、こいつが勇者でいいんではないかと思えるほどだ。


「ああ、この剣は先代勇者から受け継いだものだ。お前にくれてやろう」


 ドラゴンはヤマダの視線に気づいたらしく、剣をヤマダに投げてよこす。

 ドラゴンの魔力が籠っていたのだろう。

 その剣はヤマダの胴体に突き刺さり爆散した。


「きゃー。ドラちゃんすてきー」


 その見事な殺しの技にクルスは歓声をあげる。

 ヤマダは本日2度目の死亡が確定した。


「その技を龍破御剣流では一の太刀を呼ぶ。その昔、我ら龍族を倒すために龍が鍵爪の牙を持って刺突する様を形象した(つるぎ)だ。あと9死まであと7撃。可憐な花を散らすが良い」


「きゃー。ドラちゃんかっこいぃー」


「ちょ、クルスちゃんはどっちの味方なんだよ」


「そりゃヤマダちゃんの味方ですよ! だから奥義伝授まで頑張って死んで! ヤマダちゃん!」


「お、おま」


「ふむ。奥義伝授か……、最終奥義たる≪()核倒(かくとう)(じん)≫を覚えるには一体何度死ねば良いのだろうか……」


「おいやめろ」


 ドラゴンは指折り数え始める。

 おいおぃ、何回殺す気だと俺はげんなりした。

 爆発した身体は、死亡確定後、まるで時間を撒き戻すかのように巻き戻っていく――



 ――その日以降、ドラゴンによる剣術スキルの血反吐を見るような修行は続いた。


 いや正確には血反吐どころかいろいろなものをぶちまけた。

 しかし結局中伝どまりだが、なんとか技を身をもって覚えることができた。

 さすがに最終奥義までは勘弁してもらうことにした。精神が持たなかったのだ。


「もう、ヤマダちゃんったらだらしがないなぁ。じゃぁ、次は夜杖(よるつえ)真澄(ますみ)流とかいってみようか」


「ちょっとまて。このパターンならまた死ぬような思いをさせる気なのだろう」


 死ぬような思いではなく実際に死んでいるのだが、それには気づかない。

 語感的にも死ぬような思いの方がヤマダの精神衛生上よかったのだ。


「まずはどんな剣術か具体的に説明しろ。今回みたいにぶっつけ本番で覚えさせようとするのはやめてくれ」


「もう、しょうがないにゃぁ」


 不貞腐れたようなクルスは、確かに小悪魔といってよいだろう雰囲気を持っていた。

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