攻城戦②
―――:日本:奈良県奈良市雑司町:―――
雨耐小傘は、その地に立っていた――
日本で最強の仏像がその地にあると聞いて。
この日本で、思念魔法の行使は特定の思考パターンに落ちていない限り雨耐が操るには魔力の関係で難しいものであった。
だが像であればどうだろう。
魔力に晒されておらず、魔術に対する防御もなく、知名度も高くなればなるほど操りやすいとなれば、それは恰好の餌にしかなりはしない。
ならば、最強の像を持ち出すしかあるまい。
この奈良が誇る最強をのなッ!
雨耐小傘は、正面の像を見やる。
その座高はおよそ15m、その重さたるや500tを超える超巨大建設物――
それは、日本に名だたる巨大なる仏像、「奈良の大仏」であった。
注いだ≪思念魔術≫により、金色の奈良の大仏が今、立ち上がる。
奈良の大仏は吠えた。
「仏ゾーン!」と。
(薙ぎ払え!)
雨耐はさらに命令をインプットする。
仏像はそれに答えるように轟き叫んだ。
「仏ゾーン!」
大仏の目からZapZapと光線が迸り、周囲一帯を焼き尽くす。
「おぉー。すげー」
周囲の人間はどよめく。
攻城戦のことは日本内で周知されており、野外にはでないように言われていることから、このような観光地に来ているニンゲンは攻城戦の関係者――つまり日本を壊そうとするよう人たちだけであった。
あるいは、それを防衛する人間か、それともマスコミか……。
特に喜んだのは政治家のおじさんだ。
これだけ威力があれば、人々の理想である「日本死ね」を大いに達成できるに違いない。
その顔には喜びが満ち溢れていた。
「で、どうやってこれを東京の攻城戦のクリスタルがあるところまでもっていくんだ?」
なにしろこの重量だ。
思念魔術で動かすにしても大量のMPを既に消費していた。
「し、しまったー」
「な、なにも考えてなかったのかよ」
おじさんに言われるがままにこの地へと来た雨耐小傘だったが、あまりの考えてい無さに愕然とした。
「いや、奈良の大仏が動けばみんな喜ぶかと思って」
「目的と手段がめちゃくちゃだー」
「こうなったら、シカも魔物化させて一緒に踊らせよう」
「シカ? なんの意味があるのだ?」
奈良公園にはシカが大量にいた。
雨耐小傘が思念魔術を操作すると、シカ達はキラーん。と赤い瞳を輝かせる。
わらわらと現れたシカが叫ぶ。
「やるシカ―」
そして踊りだしながら市民を襲い始めるシカの群れ。
「はぁ、もう好きにしてくれ……」
雨耐小傘はこの時点ですでに攻城戦の攻略をあきらめていた。
後は奈良に居る日本人を仏像やシカで殲滅して楽しむくらいだ。
だが、それに奈良市民はシカに対し、最強兵器、シカせんべいで対抗。
そのシカせんべいには毒が入っていたのだ。
シカは毒入りせんべいを食べて次々と死に、奈良市民は大量の経験点を得ることに成功する。
――これが、後の奈良強国伝説の始まりであった。
・ ・ ・ ・
―――:日本:霞が関上空:―――
「あはははは。やつらはバカじゃないのか――」
霞が関の上空10、000――
そんな場所にMaker Gokudaiが率いる彼らの飛空艦の姿があった。
そんな厳重な体制下に敷かれた場所になぜ彼らはいられるのか――
「どんな物質兵器であろうとも、これには敵うまい! そう思うよな!」
「えぇ、そうに違いありません」
そんなMaker Gokudaiに参謀は「それは言ってはいけないセリフなんじゃないかな?」などと思いつつ適当に相槌を打つ。
しかし、そんな参謀でさえ今回の作戦には相当に満足していた。
彼らは、要は3次元的な主砲による撃ち落しによってこの攻城戦を制しようと考えたのだ。
彼らの考えた3つの理論――
それはマッドサイエンスと魔法を融合させた画期的な発明である。
画期的な発明――
その1つ目は、≪隠蔽≫スキルで飛空艦ごと隠蔽してしまう人心融合策――≪人身一体≫。
2つ目は、アイテムウィンドウを使ったミニブラックフォールの生成。
3つ目は、ミニブラックフォールを拘束射出するための電磁投射砲の製造、
であった。
まさに、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものであるといえよう。
1つ目の人身一体は、文字通りヒトが飛空艦と『合体』することによって≪隠蔽≫スキルを艦全体に展開し、他者からの目を欺こうとするものである。
そのおかげで現在も高高度であったが霞が関の真上であるにも関わらず日本政府に発見されずに済んでいるのだ。
――飛空艦と『合体』しているギルドメンバーの姿はかなり間抜けなものではあるが、背に腹は代えられない。
2つ目のミニブラックフォールの生成は実は簡単であった。
1つのアイテムウィンドウに、これでもかッ。とアイテムを詰め込むことによってたまたまできることを確認できたのだ。
普通、あまりにモノを詰めすぎるとアイテムウィンドウに物は収納できなくなる。
だが、極端に大きなものと、極端に小さなものを瞬間的に1つのアイテムウィンドウ内にぶちこむというテクニックを駆使することで、直径2mm、重さ15tのミニブラックフォールを生成することができたのだった。
――次の攻城戦では修正されてしまうかもしれないが、今回に限り有用な手段であろう。
3つ目の電磁投射砲は超電導を実現するための低温環境を作ることが最大のネックであったのだが、それも≪異原子組み換え≫という神のようなスキルで豊富な資源の生成を行うことができたため、なんなく達成することが可能であった。
たとえ1ナノグラムでも物質があれば倍々ゲームでその重量を増やすことができるのだ。素材屋にとってはまさに祝福であろう。
――簡単に作れることを考えれば地獄かもしれないが。
さて、その3つを手にしたMaker Gokudaiは、毎回≪てきとー同盟≫に対戦で負けている恨みを晴らすく、この霞が関上空に来ていた。
最終目標は地域支配権の奪取、および、日本世界への魔物のばら撒きである。
レベルのあがった日本国民がいるのであれば、この先日本は安泰であろう。そんな安直な考えが彼らにはあったのだ。
「くくく。そんなこともあろうかと! 対ハト用に天然大豆100%を遺原子変換して作ったダイヤモンドコーティングのゴム式ガトリング豆鉄砲なんかも用意していたのだが、全く使う機会が無かったな――」
「使う機会が無くて大変良かったと思います」
Maker Gokudai は以前のようになすすべもなくハトにやられるといったこともなく上機嫌だった。
ちなみにダイヤは鉄よりも固く、たとえ、ゴム式にしたところで当たれば徹甲弾以上の威力を誇ることは間違いない。
「それよりもだ。攻城戦終了にはまだまだ早いがここで一発撃って下の人間をクリスタルごと破壊するかね?」
「そうですね。時間は15分前くらいが理想ではありますが、やってしまって損はないかと思います」
なにしろ≪隠蔽≫スキルが彼らにはある。
そして電磁投射砲の発射はスキルに頼らない物理的な攻撃だ。
あるいは一瞬、≪隠蔽≫スキルは解除されてしまうかもしれないが、この上空である。
再び≪隠蔽≫スキルを発動したのであれば攻城戦の終了まで見つかることはないだろう。
後は艦に転移したクリスタルを見ながら愉悦の乾杯でもすれば良いのだ。
「よし、ならば射出するかッ!」
「発射よーぃ!」
「ところで……」
そんなこんなで興奮しているMaker Gokudaiと参謀に対し、艦と『合体』している情けない男が疑問を呈した。
「そのミニブラックホールって、電磁投射砲で発射する前も吸引力があるんだよな?」
「ん? 何か言ったか?」
その話を聞き終わる前にMaker Gokudaiはアイテムウィンドウから、ミニブラックフォールを取り出してしまう。
ドーン――
その瞬間、ミニブラックフォールは全てを巻き込み粉砕していった――
もちろんそれは、Maker Gokudaiや、Maker Gokudaiが乗る飛空艦、その乗組員全てである。
驚きの吸引力であった。




