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先生お願いします!

 結局のところ、思念魔術も神聖魔法もあきらめつつあるヤマダであったが、魔法がダメであれば次は肉体言語である。

 そう、武術だ。


「えーっと、次は剣術だよねー。ヤマダちゃん、私そういうの得意なんだー」


「どうみても得意そうには見えないのだが」


 自信まんまんに言うクルスにヤマダは呆れた。

 どう見てもクルスは幼女体形である。

 剣が得意そうには見えない。


「ぶーぶー。この≪殺戮の小悪魔≫と呼ばれたA級冒険者の私が教えればどんなヘタレなヤマダちゃんだってたちどころにむきむきにむけます!」


「なにその怪しい広告みたいなのは」


 だがヤマダはあのプラシーボといってフェイノを騙した剣の技を見ている。

 あれは相当の腕前が必要であろうというのは、武術に疎いヤマダにも理解できた。


「ちなみにその極意は『レベルを上げて物理で殴る』なのです! すごいでしょう!」


「やめろ」


 クルスはシャキーンという効果音が聞こえてきそうな勢いで胸をはる。

 しかし、確かにレベルを上げて強くなるのはRPGの基本にして王道だろう。


 だが、単純にレベルを上げて強くなるのはヤマダとしては面白くなかった。

 チートでないからだ。


 レベルを上げるにはモンスターと戦うとか、なんらかの労働を伴う。

 引きこもりを舐めないで欲しい。働くのは嫌なのであった。


「やっぱり地道にレベルアップより、スキルの方が好きなの? やっぱりスキル全盛の時代なのね。レベルはステータスなのに」


 そういってまたウソ泣きを始めるクルスであるが、ヤマダは騙されない。


「レベル上げ楽しいのに。そうだ戦場に行こう! 戦争とかレベル上げに最高よだね」


「――まさかレベル上げのために戦争起こしたりしていないだろうな」


「そんなことしなくても人同士の争いなんていつものことだもの」


 確かに人が生きている限りにおいて争いから逃げることはできない。

 戦争は無くならない。逃げるとするなら引きこもるくらいだろう。

 それで生きていけるかというと分からないが。

 幸いにしてここでは衣食住すべてがそろっている。


「戦争とか行かないからな」


「じゃぁちょっと2日くらいまってよ。剣術スキルに詳しい子を連れてくるから」


 ・ ・ ・


 そして、2日が経った。


「――ということで、今日は先生をお連れしました。先生お願いします!」


 クルスは自身のウィンドウを開いているのか、空中で手をひらひらさせながら何かを操作している。

 誰かとチャットしているのだろうか。

 ヤマダは覗き込もうとしたが、人のウィンドウはどうやら見えないらしい。


 だが、クルスはウィンドウが見えていると勘違いしたらしい。

 ウィンドウの一点を指さしてクルスは言った。


「そう! 剣術の大家といえばこのヒト! ドラちゃんです! では派手一発にどうぞぉ!」


 そう言うやいなや、クルスは突然床にうつ伏せに伏せた。

 回避行動である。

 そして急速に部屋の雰囲気が変わる。

 それは異世界に配置していた部屋を現実世界に戻したときに生じる変化だった。


(なにやっているんだ?)


 そう思い立ち上がったヤマダであったが、それが致命傷であることに気づかない。

 突然部屋が破壊され、突っ込んできた鍵爪にヤマダは腹を切り裂かれる。


 ヤマダは死んだ――

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